週刊ゲンダイオンラインより

 

新潟大学医学部教授の岡田正彦氏(65歳) 続き

がんの発症人口が増えている中、近年、急激に死亡者数が減っているのが胃がんです。多くの専門家は検診の効果であると口を揃えますが、胃がん検診が普及したのはごく最近で、胃がんが減り始めたのはもっと前。実は胃がんの死亡者数が減少した本当の理由は、日本人の塩分摂取量が減ったことが大きく関係しているんです。

なるほど、確かに、胃癌検診が普及する前から、胃癌の罹患率も死亡率も減少傾向である。

 

国立がんセンターHPより。

人口の高齢化の影響を除いた年齢調整死亡率(女性)

年齢調整がん罹患率(山形・福井・長崎県のデータに基づく)
 

このデータから予想されることは

  1. 胃癌になる人が減り、うち胃癌で死なない人は減少率がもっと大きいので、胃癌になっても治る人が増えている。しかし、検診で見つかる場合、見つけなければ一生悪さをしない癌を見つけて治療してしまうケースはどうしても避けることはできない。
  2. 乳がん・肺癌・大腸癌は増えていて、死亡数も同じ増加率。
  3. 子宮がんは増えているが、死亡する人は減っているので、死なない人が増えている。
胃癌はどうにでも解釈できる。やはり、海外の研究と同じように、がん検診が意味があるか判断するには、がん検診を受けた人、受けない人の追跡調査をして、その後の生存率を調べる以外ない。
ただし、胃癌にかかっても胃癌で死ぬ人が減ったからハッピーということにはならない。
近年、動脈硬化の病気で、抗凝固薬を内服する人がたくさんいる。胃癌の精密検査・治療をするには、組織を取ることで出血が止まらなくなると困るので、一定の期間、抗凝固剤を中止しなければならない。抗凝固剤を止めたら、原疾患のリスクが上がる,例えば抗凝固剤を止めたために脳梗塞を起こしてしまった、というケースがあるのである。
すると、リスクはあるが元気だった人が、がん検診を受けたがためにホンモノの病気になってしまう、でも胃癌では死なない、ということになる。
その他、近年明らかになったこととして、ピロリ菌がある。もともと、日本人はピロリ菌保菌者が多かった。衛生状態の改善によって、ピロリ菌に感染する機会が少なくなったし、ピロリ菌の除菌療法をするようになったので、除菌されれば胃癌リスクが低下する。

私の計算では、胃がん検診は、胃がんを減らすどころか、むしろ増やしている可能性があります。肺がん検診はエックス線写真を1枚撮れば済みますが、胃がん検診ではバリウムを飲んで検査をしている間、ずっと放射線を浴びなくてはなりません。その被曝量は、肺がん検診の100倍近くも高くなります。

そもそも胃がん検診をやっているのは、世界中で日本だけ。日本は、大規模な追跡調査をやらない国なので、胃がん検診が有効だということを実証する証拠は一切ありません。にもかかわらず国が推奨しているのが、私は不思議でならないのです。

日本はもともと胃癌が多い。「癌を早期発見・早期治療したい」という気持ちを持つ国民が多いので、国がそれに応えて検診をしているのだろう。

日本では、質の高いバリウム検査技術を持つマンパワーがある。病気が多ければ、技術者も増えるのである。

しかし,今まで述べてきたように、「癌は早期発見して早期治療すれば、早期発見しない場合よりもトクをする」という安直な考えは甘いのである。

大がかりな検診は意味がないという認識は、すでに欧米の研究者の間で広まっています。アメリカ人の医者千数百人を対象にしたアンケート調査のデータでは、大部分のドクターは、「検診はやった方がいい。ただし血液検査や尿検査があれば十分で、レントゲンや心電図までは必要ない」という意見でした。