岡田正彦氏は、海外で、がん検診が死亡率を下げないというデータが多いから、日本でもがん検診は死亡率を下げないという主張をする。この論理は正しいだろうか。

 

週刊ゲンダイオンラインより

 

新潟大学医学部教授の岡田正彦氏(65歳) 続き

だとすると、検診で微細ながんを見つけ出し、激しい治療を施される不利益の方が、放置しておくよりもむしろ大きいかもしれない。これ一つをとっても、がん検診の有効性には大きな疑問符がつくのです。

 

そのことを考えるのにもってこいの、前立腺がんに関するデータがあります。

死亡後、解剖によって初めて見つかる前立腺がんは非常に多いのですが、彼らはがんを抱えたまま天寿を全うしたことになります。もし彼らが前立腺がんの有無を調べるPSA検査を受けていたら、必ず手術になっていたでしょう。その場合、果たして天寿を全うできたかどうか・・・。治療の弊害で早く亡くなっていたかもしれません。

同じことが、すべてのがんについて言えるのです。

前立腺がんを見つけたら必ず治療していたのは昔の話である。

「本来なら治療の必要がない前立腺がんを、検診で見つけてしまったがために、治療して害を与えてしまっているのではないか」という話は,昔から存在した。

データを分析して、「こういう条件を満たした前立腺がんならば、治療せず定期的な経過観察を行い、必要が生じたら治療するほうがよいのではないか」という理論がまとめられ、10年くらい前から、ガイドラインにも記載された。なぜなら、癌の治療をしたら、必ず失うものがある。一生癌の治療をしなくて済めば、それが一番健康によいからである。

しかし、大丈夫という保証はない。まず、癌から組織を採って細胞異型を調べるのだが、他に異型が大きいところがあるのに、異型が小さいところに当たってしまう可能性がある。だから、1年後にまた組織を採って調べるのである。また、大きくなってきて手術したら転移していたということがある。

ということで、現在では、ある条件を満たせば、治療せず経過観察にすることがある。しかし現実には、そういう段階で見つかる患者さんというのは、癌を早期発見・早期治療する気マンマンでがん検診を受けて見つかった人達なので、「せっかく早く見つけたのに」と不満を言うようである。

治療しない不安に耐えられなくて、途中で治療を希望するケースもある。

そのように、治療によるダメージを避けるために考えたのに、結果的には、治療せず経過観察にした群と、最初から治療を選んだ群を追跡調査したところ、前者のほうが長期のQOLが下がったという疫学調査が出た。癌を心配するストレスは、実際に健康を害するのである。

 

本題に入る。

前立腺がんにおいては、がん検診が死亡率を下げないというデータと、下げるというデータがある。死亡率を下げないというのはアメリカのデータである。下げるというのはオーストリアかどこかだったと思う。

アメリカでは,前立腺がんが非常に多いので、開業医が直腸診をして前立腺を触診しないと、訴えられるそうである。従って、触診で分かるような進行した前立腺がんは、すでに開業医が引っ掛けており、がん検診で見つかるのは極めて早期である。そのような癌が死亡に関係するのかという疑問が出てくる。

だから、海外といっても、それぞれ事情が違うので、海外でがん検診が死亡率を下げないというデータが出たから、日本でも死亡率を下げないという結論を出すことはできない。

 

問題なのは、日本人はどうしてもリスクが嫌で、メリットデメリットを考えて決断するということができず話が進まないので、デメリットがないことにされてしまう点である。

「原発は絶対安全と言ったじゃないですか」というみっともない輩がいたが、幼稚園児じゃあるまいし、原発が絶対安全なわけはない。リスクを認めると話し合いにならないので、「原発は安全です」と、リスクがないことにされてしまうのである。

がん検診、医療被爆についても同様である。がん検診や医療被爆のデメリットがないことにされ、メリットばかり喧伝される。「日本人のすべてのがんのうち、3.2~4.4%はエックス線検査が原因だと結論」というデメリットが知らされない。なぜなら、日本人にそれを知らせたら、「被爆は嫌。でも診断はきちんとつけろ」と、必要なCTまで拒否しておきながら、無茶な要求をする可能性があるからである。

「CTとらないと診断できない」と考える頭があれば問題ないが、日本人には無理である。

がん検診は、個人個人が、メリットデメリットを考えて判断すれば宜しい。

がん検診をして良かった人は確かに沢山存在する。しかし、過剰医療でダメージを受ける人も、実に多いのである。

世間は、命を救うのは素晴らしいと考え、がん検診での早期発見早期治療を推奨する。しかし、私は、がん検診で得する人ばかり優先し、不利益を受ける人を無視するのはあまりにも不公平であると思う。

がん検診を受けなかったが故に死ぬことは悲劇だと思わない。何もしなければ健康でいられたのに、がん検診を受けたがために健康を害することこそが悲劇だと思うからである。