《無事2日めも終わったよ。》
エンディングアクトを終えて早々とステージから下がると、すぐ控え室へ向かう。
「お疲れさまです。」
「おう!お疲れさま!」
「お疲れさまです。」
「お疲れさまです!!!」
すれ違うスタッフさんや先輩、挨拶してくれる後輩に声を掛けながら、でも足は止めずに進み続ける。
急いでいるのを気づかれないようにゆったり笑顔を浮かべるけれど、つい心が急いて言葉が早くなる。
カチャ
「お疲れさまです。」
「お疲れさま。」
控えに滑り込むと中で待っていたマネージャーが苦笑しながら俺の荷物を差し出してくれる。
「ほら、早く連絡してやれ。」
「ありがとうございます。」
行動を読まれていたみたいでちょっと恥ずかしいけれど、携帯を取り出しすぐにメッセージを送る。
ペコーン♪
送ってすぐに返ってくる返事に、やっぱりずっと待っていたんだろうとせつなくなる。
《身体冷えてない?大丈夫?》
大丈夫だよ。
すぐに拭いたからそんなに寒くはない。
でも…
きっとここにルーハンがいてくれたら感じられた温もりを思うと、ほんの少しだけ肌が寂しさにヒンヤリとしてしまう。
ペコーン♪
「ヒョンー、メッセージきてますよ、たぶんルハニヒョンから!」
朝起きて支度をしているとジョンデが俺を呼ぶ。
「ありがとう、」
メッセージを開いて思わずせつなさと温かさに複雑な笑みを浮かべてしまう。
「なんて?やっぱ天気のこと心配してます?」
ジョンデもせつなげに微笑みながら俺に尋ねてくる。
「うん。“雨降ってる?台風なのにやるの?”って。」
特に俺をだけど、みんなを心配して送られてきたメッセージにすぐに返す。
《台風は明日だよ。雨は降ってるけど大丈夫。》
ペコーン♪
「早。」
《日本は今日寒いんでしょ?さっきネットで見たらすごく雨降ってたし、ちゃんと温かくしてね。》
浮かびあがる文字は無機質だけど、ルーハンが心底心配している顔が目に浮かぶ。
だからちょっとだけ嘘をつく。
《そうか?俺のいるところはまだそんな降ってないよ。大丈夫。ちゃんと気をつけるから、心配するな。》
《心配するよ。だって大事だもん。本当はそばにいたい…シウちゃんの、みんなの…》
弱気になった文面にすぐに返事を返す。
《大丈夫だよ。レイはさっき寒いからって生姜湯作って飲んでたし、ジョンデものどのために大根飴持ってきてる。タオはセフンが面倒みてくれてるし、みんなそれぞれ備えてるよ。だからお前はお前のことだけに専念して大丈夫だよ。》
いつもみんなの心配ばかりして、それが俺には心配だよ。
《わかった。でもシウちゃんは?》
俺のことを心配するルーハンに、指が自然と愛する気持ちを打ち込む。
《お前が想っててくれるから大丈夫。
愛してるよ、ルーハン。終わったらまた連絡するから。》
《愛してるよ、シウちゃん。足元滑りやすいだろうから、気をつけてね。》
うん。わかった。
「さて、大雨ですが頑張りましょうか。」
大粒の雨が窓を打つ外を眺めていたジョンデがこちらに振り返る。
「だな。あいつ心配するから絶対風邪引くなよ?」
「ヒョンこそ。」
携帯をしまうとジョンデが力強く微笑む。
「ヒョンが風邪ひいたらルハニヒョンに僕たちがしめあげられちゃいますから。たのみますよ。」
「わかってる。大丈夫。」
俺たちのスケジュールを考えて気を使って連絡してくるルーハン。
そしてルーハンのことを心配して、不安要素を減らそうと頑張る弟たち。
そんなみんなのために俺ができることはただ一つ。
『大丈夫』
そう口にした言葉を現実にすること。
《寒いけど、今暖房の前にいるから大丈夫だよ。》
半分嘘で半分本当。
暖房の前にいるのは本当だけれど、俺を温めてくれるルーハンがいないから温もりが足りない。
《そばにいられたら俺があっためてあげるのに。》
ルーハンの返事に、ルーハンがこういう時俺の頭を拭いてくれたのを思い出す。
こみ上げてくるものをこらえるけれど表情にでてしまいそうで、拭いていたバスタオルを頭から被って顔を隠す。
“そばにいて欲しい”
“逢いたい”
“抱きしめて欲しい”
言えたらいいことがたくさん溢れ出すけれど、そんなことを言ったらルーハンが心配するから言えない。
だけどその想いを全てしまいこむほどには自分が大丈夫じゃなくて。
“大丈夫”
なんて、できないことは言えない。
だから堪えきれない想いが涙になる前に、ほんの少しだけ素直な気持ちを形を変えて言葉にする。
《ルハニ、好きだよ。》
逢いたい。逢いたい。逢いたい。
好きだよ、逢いたいよ、そばにいて、抱きしめて。
こぼれそうな涙を飲み込んで、“好き”という言葉に全てを包む。
《シウちゃん、好きだよ。》
逢いたい。逢いたい。逢いたい。
好きだよ、逢いたいよ、そばに行って抱きしめたいよ。
ルーハンの気持ちが“好き”って言葉に包まれて俺に届く。
「ただいま~お疲れさまです~」
「お疲れさまです。」
「お疲れさまです。寒かった~」
タオ、レイ、ジョンデも次々と戻って、他のメンバーも帰ってくる。
「おかえり。お疲れさま。」
《みんな帰ってきたからまた。》
《うん。みんなにも風邪ひかないようにあったかくするように言ってね。特にタオ、すぐ腹壊すから。》
《わかった。言っとくよ。》
短いやりとりを交わして携帯をしまう。
「タオ、早く着替えろ。濡れたままだとまたお腹痛くなるぞ?」
「あ、うん。今着替えるね!」
タオが慌てて着替え出す。
「レイ、まだ髪濡れてる。」
バスタオルでレイの髪を拭くと、レイがふわりと笑う。
「ミンソギヒョン、ルーハンみたい。」
「俺だってちゃんとみんなの面倒見るぞ?」
笑って返すと、レイが心配そうに微かに眉を下げる。
「無理しないで下さいね。僕らにとっては2人とも大事なんですから。」
レイの言いたいことが痛いほど胸に染み渡る。
「ありがとう。でも大丈夫だよ。お前たちがいるから。」
“大丈夫”
できないことは言わない。
口にしたからにはそうしてみせる。
それは、
愛しいもののためであり、
大事なもののためであり、
そして自分のためだから。
どんなに困難なことであってもけして諦めない。
どんなに不安なことであってもけしてくじけない。
どんなに険しい道が待っていても、自分ならそれも乗り越えられると信じてる。
それは、
愛しいものがいて、
大事なものがいて、
何があっても、
それを自分はけして手放さないと決めているから。
ルーハンに短いメッセージを送る。
二つの国の言葉を話す恋人に、本当に伝えたいときに使う彼の母国の言葉。
まだうまく使いこなせないけれど、きっと伝わるはず。
想いを込めて、不慣れな言葉でも心を伝えたい。
《不必操心 没问题 因为我爱你 你爱我》
“心配しないで。大丈夫。お前が好きだから。お前が俺を愛してくれるから。”
そう。
だから“大丈夫”だよ。
おしまい
“However”
どれほど~であろうとも
不必操心
ブゥビィツァオシン
没问题
メイウェンティ
因为我爱你
インウェイウォアイニィ
你爱我
ニィアイウォ