坂崎豪という生き物
「はいよ あ 俺ハムサンド」
「自分でやれ」
「‥ですよねぇ はいはい」
大通りに面した場所。
100メートル程、銀杏の木が道路に沿って立ち並ぶ 。
今の季節 競うように葉が落ちていく。
上を見上げると まるで粉雪の様に舞い降りてくる。
そんな風情とは裏腹にランチタイム真っ只中の喫茶店『ランダム』は
Jaの朝は早い。
前日のバンド練習が何時までかかろうが、朝は6時には起きなくてはならない。
実家にいる時は 母親が毎朝30分かけて起してくれていた。
が、今は布団から手だけを出していつまでも鳴り響く携帯を探している。
坂崎 豪。 人は彼をJaと呼ぶ。
歳は17歳 現在市内の夜間高校に通う2年生だ。
中学を卒業と同時に周囲の猛反対を押し切り 夜間高校に進学した。
強い強い将来の夢というよりは もはや計画だろう。
そのためにも一日も早い独立を望み、なまぬるい実家を出て 一人暮らしも始めた。
昼間はここ『ランダム』で朝7時から夕方4時まであくせく働き、
夜は学校、そのあとバンドの練習で一日が終わる。
モノをあまり置かない主義のJaの部屋はいたってシンプル。
ギターが二本とアンプが置いてある以外はきちんと片付けられている。
冷蔵庫には昨日母親がJaの留守中に来て置いていったおふくろの味が行儀よくならんでいる。
まだ17歳 世間ではまだまだ親元でぬくぬくしているお年頃。
Jaの2つ上の兄もまだ実家にいるというのに、次男坊の突然の独立宣言に母親はとまどい、寂しさも覚えた。
心配して生活ぶりをちょこちょこ見にやってくるのも無理はない。
ましてや、来るたびに空っぽな冷蔵庫では食べ物を運んできたい母心はごもっともである。
178cmの身長はまだまだ伸び盛り。
今以上の成長を望むJaは何かと「成長期だから~」口にする。
細胞に言い聞かせるためだというが、単純きわまりないJaの場合本当に効きそうだ。
少ーし人とはズレてるB型。
思い込んだら一直線な性格が今後の展開を大きく左右することになる。
「ほらーーー Ja まーた野菜さけてる!!そこにサラダ用意してあるっていったでしょーーー」
マスターの奥さん 翔子さんは成長期のJaの健康をいつも気遣ってくれている。
「・・・バレた‥俺野菜ならさぁ、またキンピラ喰いたいなぁ‥喰いたいなぁ翔子さん」
肉をこよなく愛する若者はバッタや牛じゃあるまいしできれば野菜なんて避けて通りたい。
「草喰ってる牛を喰ったらさぁ 野菜も一緒に喰ってることになんねー?」
なんてわけのわからん屁理屈を言ったりする。