雨音 | シリウスなムーヴメント

雨音


ティルは今夜もまた眠れない夜を過ごしていた。

ベッドから抜け出し 真っ暗な部屋にリラックスのためのアロマなろうそくを灯す。

窓の外にはまんまるい月が優しく包み込んでくれてるようで、すべてを吐き出してしまいたくなるが

何を吐き出したいのかわからない彼女は 深いため息をつく。

医者から処方された睡眠剤は一錠また一錠と増え、今ではもう気休めにもならない。

お酒の力を借りて意識がなくなれば何も考えずに眠れるんだろうが、眠ることを意識するせいか

そんな時は呑んでも呑んでも酔うことすらできない。


一人の部屋は寂しすぎる。

もともと、人のペースに合わせることも 人にペースを乱されることも嫌いなため

一人でいるほうが楽なくせに、一人ぼっちの夜は苦手だ。

1LDKの部屋にはあちこちにモノが散乱し、到底女の子らしい部屋とは言いがたい。

テーブルの上にはさっきまで呑んでいたビールの缶が転がり、

いたるところに服や、靴の箱、メイク道具がところ狭しとひしめき合っている。

どうやら片付けは苦手らしい。

そのせいか、出かける前はいつも何かしらバタバタと探しモノをしているが

寂しがりやの彼女には がらんと片付いた部屋よりも多少目にうるさいくらいでちょうどいいのかもしれない。



バンドマンの恋人は朝から晩まで音楽のことで忙しい。

彼女自身もまたバンドマンで音楽をこよなく愛する者として音楽を敵にはしたくない。

何より「音楽と私 どっちが大事なの!!」なんていう

バカな女にだけは死んでもなりさがりたくないという意地がある。

人に甘えることを知らないままできたせいか 気づいたら強い女でいなくてはならなくなっていた。

恋人にも『寂しい』の一言が言えない彼女は 愛しい人の腕の中ですら

ぐっすり眠ることができないでいた。



「今夜のライブは最悪だった・・・」

恋人のバンドのファンの女の子が一番前を陣取ってライブの間中 突っ立ったままステージの上の自分をにらんでいた。

メンバーや ファンの子たちに迷惑をかけるわけにはいかない。

何よりファン同士のいさかいを起させるわけにはいかないのだ。

そのことばかりに気をとられ、どうしても歌に集中しきれず気持ちよくステージを終えることができなかった。

(まだまだだなぁ・・・)

声にならないつぶやきを飲み込むと 心臓がチクリと痛んだ。

泣きたいほどココロが痛いのに 泣き方すら忘れてしまったようだ。


ふとカーテンの隙間から窓の外をのぞくと いつの間にか雨が降りだしていたようだ。

雨の音に少し張り詰めていた気がゆるんだ気がした。


(今なら眠れるかもしれない・・・)

そう思った彼女は肩にかけてあった上着をするりと落とすと

そのままベッドにもぐりこんだ。

まだかすかにぬくもりの残っている柔らかな毛布にその冷えた身体をあずけ、

猫のように丸まって 自分自身を抱きしめる。


やっとのことで彼女が睡魔に包まれたのは 明け方の4時を少しすぎたころだった。