出生後、孤児として登録され、

一時期は国家運営の孤児院に在籍。

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家はない。親の顔も知らない。
誕生日ってなんだろう。
何歳とか男とか女とか、

よくわかんなかった。

まだ全部が大きく見えていた頃、

友達は何人かいた。
 

月日が流れるに従って友達は入れ替わり、

寂しさと嬉しさは交互にやってきた。
 

いつもパンをくれるパン屋さんは、

よく頭を撫でてくれる人で、

「かわいそう。」が口癖みたいだった。

 

意味はよくわからなかったけど、

友達と食べるパンは変わらず

美味しいし、楽しかった。

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ほとんどのものが小さく見え始めた頃から、

何かが変わったみたい。
 

パン屋さんはパンをくれなくなって、

友達は仲間に入れてくれなくなった。
 

「どっか行け」
 

嫌われたんならしょうがない。
そこにはいられなくなったから、

町の中心にある大きな建物の

向こう側に行ってみた。
 

少し大きくなった昔の友達がいた。
嬉しくて、遊ぼうって声をかけてみたけど、

嬉しかったのは僕だけだったみたい。
 

「お前なんか知らない。」って言われたけど、

食べ物を持ってきたら

また仲間に入れてくれるらしい。

パン屋さんに頼んでみた。
どうして悲しそうな顔をするんだろう。

「ごめんね。」って言うんだろう。
最後のジャムパンをくれた。
 

もう来ちゃダメだって言われたから、

もう来ない約束をした。

喜んでもらえると思ったのにな、ジャムパン。
ダメだった。

盗んでこないといけなかったみたい。
 

僕、約束したからもう行かないって言ったら、

役に立たないから出ていけって。

もうどこにも行けなかった。
友達のところもダメ。

少し大きくなった友達のところもダメ。

パン屋さんもダメ。
 

行く宛もなくふらふらしていたら、

行っちゃいけないって言われてた場所にいた。
 

見たことないフワフワした洋服とか、

いい匂いでいっぱいだった。
人は沢山いるのに、どうしてだろう。
 

声をかけても、肩を叩いても、

みんなびっくりしたみたいに

走ってどこかに行っちゃう。
 

誰も僕のこと、見えてないみたいだ。
不思議だなぁと思った。
 

仕方ないから、大きな階段に

座ってみんなを見てた。
 

そうするうちに寝ちゃってたみたいで、

いい匂いがして起きた。
足元にはおいしそうなパン。
目の前には大きな人。

「くれるの?」
「ああ。いいよ。」

ロウって名前だった。
僕がパンチョになった日。

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ロウは草むしりの仕事を

一生懸命したら褒めてくれるし、

お腹が空いたらお菓子をくれる。

もちろん大好きなパンも。

ヨコエの占いには、

カレンダーを二枚めくったら

一回お願いすることにしてる。

聞くことは毎回同じ。
 

ヨコエはよくカードを

落としたり忘れたりするから、

そのカードはお家の缶に入れてる。

キネは、遊びに行くとネコとネズミが

仲良くケンカしてる映画を流してくれる。
たまに他の人が違うのを観てるから、

それも一緒に観る。
そうするうちに色んな言葉を覚えた。

シイナはよく写真を撮ってくれるけど、

なんかいつもぶれてる。
撮るの上手なはずなんだけどなぁ。

リンとは、どっちがイケてる

怒愚羅魔苦等が書けるか対決で遊ぶ。
どっちが勝つかはリンが決めてるけど、

僕は負けたことがない。

レオはリンのことよく聞いてくるよ。

教えてあげると喜んでくれる。

ふたりが仲良しなの僕知ってるから、

僕も嬉しい。

よく頭をぶつけていたら、アキタが

頭をぶつけやすいスポットを教えてくれた。
イライラ怪獣のおかげで、

ぶつける回数が減った。

ハスミのカウンセリング、好きだったなぁ。
自分の曜日は決まってたけど、

いつ行っても追い返されたことはない。

昔の話をハスミにした時に、

「お前は人のために生きられる人間だ。

 それはすごいことだ。」

って言ってくれた。
 

嬉しかったし、すごいって

かっこいいって思ったから、

目標はみんなのために生きること。

みんなの為に、何が出来るかな。
そういえば、みんな僕の絵を褒めてくれるから、

絵本作家になろうかな。
指ぱっちん、練習しなきゃ。


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【名前の由来】
・Pancho
→スペイン語で「穏やかな」「ずんぐりした」

 

・パンチョリーナ

→「おいしいパンをお腹いっぱい食べてほしい」という願いでつけられた沖縄にあるパン屋さん。

 

・万諸(バンチョ)

→いろいろなこと。あれやこれやとたくさん。