占いの客に被害届を出され、

国家警察のデータベースに登録。

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亭主関白な父と、尽くすことが

愛だと勘違いしている母の元、

 

決して居心地の良くない

家庭環境の中で、

6歳下の妹と育った。

 

妹は引っ込み思案で、

自分の意見をあまり言えない子。

 

けれど、私にいつもついてまわって、

一緒にいたい、好きだと言ってくれる

とても可愛い子。

 

少しは強気に出れる私と違って、

弱々しい妹には辛く当たる両親。

 

妹が怒られてると、私まで気持ちが暗くなる。

けれど、私も怖いから、何も言えない。

 

なんだろう、私が悪いのかな。

妹が長女だったらよかったのかな。

 

私がお姉ちゃんだったからいけないのかな。

夜は涙がでる。

 

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14歳の頃、初めて買った

女性用雑誌で占いという居場所を見つけた。
これだ、と思った。

 

「この家で妹を守れるのは私だけだ。」
 

そう思いながら嘘をつき続けた。
占いと称して、両親の機嫌を取る。

 

褒めたくないことを褒めた。

言いたくないことを言った。

間違いを正しいことだと伝えた。

 

そうすると、大人はいい顔をしてくれる。

ちやほやしてくれる。

多少は妹への当たりも弱くなる。

 

嘘でもいい。

 

この瞬間だけは夢を見ていられるし、

不憫な妹の今だって変えられると思ってた。
 

友達を占う時は、”当たる占い”を目指してた。
 

人を怒らせずに立ち回るのは

得意だと思っていたけど、

悪い結果も素直に伝えたら

喧嘩になっちゃった。
 

良いことだけ聞きたいなら、

最初から占ってって言わなきゃいいのに。
 

どうせ広く浅くの友人関係だから、

長続きはしなかったけど、

 

別にそれでもいいやって思ってた。
友達を作るために占いを始めたわけじゃない。

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大学進学時、父は

 

「賢い女は嫌いだ」

 

とかなんとか言って、

さほど特徴のない女子大に

私の進路を勝手に決めた。
 

本当は哲学や心理学、

宗教学あたりを専攻したかったけど、

そんな私の気持ちが

尊重されることはなかった。 
 

理想とは程遠い学園生活だったが、

一つだけ夢みたいな現実を味わえた。
 

当時のサークルの先輩で、

私が外面を被ってることを

見抜いた唯一の人との出会い。
 

やっと見つけてもらえたと思った。
 

そんな人は初めてだったからビックリして、 

一目惚れしちゃった。
 

本当は泣き上戸で、あんまり外では

飲まないようにしてたけど、

彼の前では怖くなかった。

 

やっと私に訪れた甘い現実だった。
未だに覚えてる。

カラオケで歌ってくれた曲も。

 

もう聴かないけど。

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そんな彼と結婚して1年経った頃。
彼の仕事もうまくいっていて、

私の占い業も客が付いてきたころ。

 

一向に授かる気配がなく、病院に行ったら

 

「里親という選択肢もありますよ。」

 

と言われた。
 

医者なりの優しさだったんだろうが、

その言葉が重く心に伸し掛かった。
 

自分の子供が欲しいと切望する彼に、

本当のことは言えなかった。
 

ふと頭を過った。

あの時、私に夢を見させてくれたもの。
“嘘と占い”について考え始めた。

 

夜は切なくなる。

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旦那に真実を隠して、早4年。
甘い現実の腐敗は進み、もう隠せない。
大切に一人で温めてきたけど、

腹を括ろうと思った。
 

でも、結局逃げちゃった。
 

5年も一緒にいたから知ってる。
彼は不倫を許せない、そういう人。
だから、好きな人が出来たと嘘をついた。
 

本当のことは、やっぱり言えなかった。
彼は嘘がつけない人だから。

 

ごめんね。

私が奥さんだったからいけなかったよね。

 

大好きだったよ。

夜になると、思い出す。

 

あーあ。

やっぱり現実は美味しくないな。
 

占いをした客には、株で大損したから

訴えるとか言われるし。

私自身が嘘であればいいのかな。

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よく覚えてないけど、

気付いたらこの町にいた。
 

私と種類は違えど凸凹でちぐはぐで、

生き方が下手くそなやつばっかり。
 

もう誰も愛さないし、愛されるもんか。
そんな自己防衛の虚しい鎧を、

私はこれから先も脱ぐことはないんだろうな。
 

それでもいい。
 

彼と過ごした5年、この町で過ごした5年。
どちらも嘘をつき続けているけれど、

ここで嘘をつくのはちゃんと楽しい。

嘘の占いでも、

人生の選択の後押しになったらいい。
 

自分で選んで掴んで、

そして責任をもって人生を歩いて欲しい。
別に、私に責任を擦り付けてもいい 。
 

それでみんなが幸せになるのなら、

いくらだって、喜んで嘘をつこう。


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【名前の由来】
・夜声
→夜に聞こえる声。夜中に高く響く声。

 

・夜越え

→夜を越すこと。

 

・ヨコエの文字を倒したアナグラム→HUW(ハウ)→這う、延う

→人に知れぬように行く。ことばや思いを相手にとどかせる。