辺りの光景が水の世界から別のものへと変わりました。
「ここは」
懐かしい部屋の中を、光の泡となっている二人は漂っていました。
天井の蛍光灯が部屋全体を照らしてくれています。家具も埃をかぶっていませんでした。
「ここは、笑顔で溢れていたあの家の、昔の部屋だわ。ほら、部屋の中にあるどれも元気な姿をしてる。暖炉だって使われてるわ。暖炉の炎はみんなをしっかり温めてる」
家の主だった人々もいます。
クウラは目を輝かせて、部屋の中を見回しました。
「幸せなこの家に、わたしもいるわ」
物置部屋で吊るされている電球を指差しました。
「でも、今のわたしはここにいるはずなのに」
泡のクウラは不思議に思いました。
ファイルはこんな素敵な魔法を起こしてくれた風に感謝しながら深く頷きました。
「これがクウラさんが守ってきた大切な思い出なんです。ぼくも、こうしてこの部屋に戻ってこれてほんとに良かった」
クウラの光り輝く笑顔を、間近で見つめることができるのです。
「ファイルさん、あなた、もしかして」
クウラはあの暖炉の炎の灯りと温かさがファイルのものとまったく同じものであることに気づきました。
「あなたの想いに、わたし触れているわ。暖炉の炎だったあなたと過ごした日々を思い出せるの」
クウラの言葉にファイルは頷きました。「ぼくもあの頃の思いのまま」
部屋にいる人々が何かに気づいたようにして、顔を上げてきました。
彼らには二つの光の泡が見えているのか、優しく笑うと、
「この家の思い出を、私たちの幸せをここまで守ってきてくれてありがとう」と言いました。
「あぁ……」
クウラは涙をこぼしました。何故だか、とめどなく涙がこぼれてくるのです。
「私たちの遺した最期の明かりに、やっとお礼を言えることができたよ」
人々の笑顔と共に部屋の光景が消えていきます。