クウラが眠っている間、ファイルのロウソクの柱はどんどん小さくなっていきます。

 

「ああ……」と、ファイルは頭を下げて寂しげに笑いました。

 

「クウラさん、ぼく、消えるまでずっとあなたを照らし続けますよ。この家の主が先にいなくなってしまっても、ずっと独りでこの家の思い出を守ってきたんですから。だから、今はゆっくり休んでください」

 

 ファイルは精一杯頭の先を傾けて、クウラにほんのわずか近づいてみました。

 

「ほんの少し近づけば、ほんの少しだけ温かくなるだろうから。こんなことしかできないけれど、どうか元気になってください」

 

 体をそっと揺らします。壁がまたしゅっと音を立て、煙が上がりました。オレンジの体を細くして、白い涙をいくつもこぼしました。

 

 ロウソクの柱がまた低くなっていきます。

 

「一緒にいられる時間がどんどん少なくなってく。ぼく、覚えてるんだよ、暖炉でこの部屋を温めていた頃のことを。だって、ぼく、あの頃の暖炉の炎と同じだから。暖炉の炎とロウソクの火、形は全然違うけど、同じマッチ箱から生まれた火なんだ。せっかくここに戻ってこれたのに、こんな短い間だけだなんて」

 

 悲しみが膨らんでくると、消えたくないという思いも溢れてきます。

 

「いやだよ……ずっと側にいたいよ……!」

 

 ロウソクが低くなる度、消えたくない、という思いが我慢できなくなってきます。

 

「クウラさん、あなたに触れれば、ぼくが消えることもなくなるのだろうけど」

 

 壁がまたしゅっと音を立てて、灰色の濃い煙が上がります。

 

「でも、それじゃあ、ぼくは火事を起こして、あなたを失ってしまう。この部屋に残された思い出が全部なくなっちゃう。この家からこれから生まれてくる未来がなくなっちゃう。ぼくはここでじっとしていなくちゃ。じっと自分が消えていくのを待たなくちゃ」

 

 体をぎゅっと縮めました。

 

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