今はひとりぼっちではありませんでした。側で温かな光で包んでくれる灯りがいてくれるのです。
「こんな埃まみれのわたしでも、大切に思ってくれるのが嬉しくて……」
「ぼく、あなたを見ていると、もっとあなたのことを温めたいって、力が湧くんです。あなたが元気になって笑顔になってくれたら、どんなに素敵なんだろうって思います」
「ねえ、どうか、もっと近くに来てはくれないかしら。あなたの顔を……もっとよく見てみたいの……。ダメかしら……?」
クウラが問い掛けると、
「ぼく……」
明るかったファイルの声のトーンが落ちてしまいました。クウラから離れるようにして、さびしげに揺れました。
「あなたの側に行きたいけど……行けないんです」
「どうして?」
「ぼくの体は火でできているから。触れればあなたの体を呑み込んで壊してしまうから」
「まあ、壊すって……こんなに小さくてやさしい光なのに?」
「ぼくが誰かに触れれば、火事になってしまうんです。火事になると、ぼくの体が大きくなって、どんどん他のものを呑み込んで、壊していっちゃうんです。この家に残った大切な思い出も何もかも全部消してしまうんです。クウラさんがせっかく守ってきた思い出を」
「…………」
クウラの明かりがパチパチと明滅しました。
「ぼくがぼくでなくなって、クウラさんもクウラさんでなくしてしまうから」
「とてもそんな怖いもののようには見えないわ。わたし、暖炉の炎も知っているけれど、あれだって全然怖いものではなかったわ」
「触らなければ大丈夫なんです。それに、ぼく、今はこんなに小さいから。でも、炎はほんとはとても怖い存在なんです。クウラさんをやさしく照らすには、これからもずっと、このまま小さいままでいなくっちゃいけないんです」
「でも……」
「仕方ないんです。そういう生き物なんですから」
ファイルはついにクウラに背を向けてしまいました。