その姿を初めて見た時の印象をはっきりと覚えている。




整った身体を見せつけるような黒いチャイナ服と、実際見せつけられる白い肌。黒い髪はほんのり赤みがかっていて、シニョンを付けてなお膝まで伸びるほどの長さをそのまま下ろしている。背中に赤黒く広がる様子はマントのよう。
赤い瞳は暗めの色で、よく見ると左右で少しだけ色が違う。いや、片方が濁っているのか。端正な顔つきは無表情気味で、雰囲気の割に幼さを残した名残がある。


────そして何より目立つのが、右肩から下げられた機械仕掛けの巨大な青い腕。




……言葉を選ばずに言うと。私は、彼女の姿を『歪だ』と感じてしまった。












◇◇◇











「お疲れ様です」




クエストを終え、ロビーにて。私が帰ってくるのを待っていたのか、1人の女性がたたたっと小走りで駆け寄ってきた。
白い髪を揃えて伸ばした、和風な出で立ちの女性。彼方さんという……私のお供、のようなことをしてくれている人だ。




「……お疲れ様」




『お疲れ様』と言われた時の返しがわからなくて、とりあえず同じ言葉を繰り返してみた。
そう返すと彼女はにこりと笑顔で軽い会釈をして、そのまま私の半歩後ろに下がってしまう。


……いや。私に着いてこようとしているのかもしれないが、クエストが終わったあとの予定が特にあった訳ではないのだけど。
どうしたものかと、とりあえず歩きながらちらりと横目で顔色を覗いてみる。




「どうでした?クエスト。えくすとりーむ……?とかいう、練習クエストに行っていたんですよね?」




「え。ええ、そうね。……まだ、慣れないわ」




話しかけられたことに驚いたが、とにかく感想を答えて前に向き直した。
……そう、慣れない。慣れていないし、慣れていける気がしない。慣れるための練習クエストに挑んだのだと言うのに、実際にはそんな未熟な自分を感じてしまうばかりの内容だった。




『ラスター』という新しいクラスを始めて数日になる。


ガンスラッシュという銃と剣がひとつになった武器を扱うこのクラスだが、如何せん覚えることが多くて理解が追いつかない、というのが素直な感想だった。
有り余るスピード。それに伴ってついていかなくてはいけない思考、判断の速度。そして何より意味がよく分からないカタカナ文字の羅列されたスキル名の数々。。。
どこからともなく現れる謎のビット、唐突な落雷、狙撃(氷)。pso2はもしや格闘ゲームだったのでは?と思い直すほどである(メタ発言)。




……しかし、慣れていかないことには仕方がないのも事実。だってもう、アークスになってしまったのだから。今更やめて逃げ帰る選択肢はないし、そもそも手段もないし。
私はこの道を自分で選んだのだから。途中で降りることは許されない。




「……………。あの、お昼にしましょうか。少し遅いかもしれませんが、何も食べていないでしょう?」




考え事を遮るように、背中から明るい声が聞こえてきた。
そういえば、確かにそうだった。思えば朝も食べていなかったし、何か食事を取っておいた方が良いかもしれない。




「……そうね。そうしましょう」




私が言うと、はい、と彼方さんは今度は私を先導するように前を歩き出した。おそらくカフェに向かうのだろう。
その様子に、少しばかり申し訳なく感じてしまう。気遣いばかりさせてしまっている自分が不甲斐ない。同時に、こんな自分に付き合ってくれている彼女への罪悪感がずっしりと肩にのしかかる。


…………先が思いやられるな。こっそりとため息を漏らしつつ彼女の白い背中を追いかけた時。




「もし」




背後からそんな呼び声がして、彼方さん共々思わず振り返った。




そこに居たのは、白いドレス姿の女性だった。
真っ白でふわふわした柔らかいドレスに金髪が際立って見える。綺麗な金色の髪から覗くのは、柔和な微笑みに少しだけ細められた明るくて綺麗な青い瞳。
その目は確かにこちらを、いや、私を捉えていた。
……しかし、私にこんな煌びやかな知り合いはいない。いても仲良くなれる気がしない。とはいえ私の顔を見ても表情が変わらない辺り、彼女からすると人違いではなさそうなのだが。


ちらり、と彼方さんの方を盗み見る。が、彼女も少し戸惑っているようで、どうやら初対面であるらしい。
ますます分からない。何なのだろう。このやたらとキラキラした、いかにもリア充じみたオーラに満ち溢れている世間知らず系なフリフリお嬢様的な人は(割と失礼)




と、白ドレス(仮称)は少しだけ困ったように笑って、すみません、と突然謝罪を始めた。




「困らせてしまうつもりはなかったのですが。警戒しないでください、私はただの通りすがりの白ドレスです」


こころを読まれた!?




「い、いいえ。こちらこそ、ごめんなさい」