暖房の効いた部屋から出て外着に着替えると、その寒さに思わず変な声が出た。




クローゼットの中は冷たく、当然そこに掛けてあった上着も凍えており。これを全身に纏うかと思うと、ついつい着替えを進める手が止まる。




「準備出来たら言ってくれ」




ドア越しにこちらの支度を待つ声がする。


少々!とだけ答えて、止まりかけた手を急いで動かす。
無心になってしまえば大丈夫。冷たいとか、そんなものは後から感じることにすればいい。
そんな自己暗示に勇気づけてもらいながら、わたしはさっさと外行きの支度を済ませた。




彼のいる居間への襖をすっと開ける。
もちろん彼の方はとっくに準備万端で、襖が開いたのに気づくや否や腰を上げる。そして、見ればわかるものを改めてこちらに問いかけてきた。




「準備できたか」




「はい、お待たせしました!では、参りましょうか……っと、」




と、その前に。彼の姿が気になって、とととっと歩み寄って目の前で見上げる。




「え、な、なんだ」
 

 

「ちょっと失礼」 




面食らったような顔をする彼をよそに、そっとその露出した太い首元に手を伸ばす。
首の下の、厚い巻き布を上に持ち上げる。それから優しめに巻き直して、首が見えない程度に固定し直した。  

日本語訳。首元に巻かれたマフラーが緩くたるんでいたのが気になったので直してみた。。。




「はい、これでよし!寒いですからね、お気を付けて頂きませんと」



 
と、悪戯っぽく笑ってみた。というか実際ちょっとしたイタズラでもあったし。。
が、彼は一度困ったように咳払いするとそれっきりで、行こう、と先に玄関へと行ってしまった。




……むー、リアクション薄いのはちょっとだけ不服ですが。
でも、咳払いする時の顔がかわいかったし。ちょっと耳が赤くなってる気がしたので良しとしましょう← 










この日は、初詣にしては早い時間に家を出た。 




もちろんこれは当社比のお話で、初詣に時間の指定などは特にない。きっとたぶんおそらくは。
少なくとも神社などは丸一日賑わうようだし、朝も夜もないのは事実だろう。というかそもそも一日にいくのが一般的であると思う。




そこへ行くと、仕事の都合上我が家は一日に行くことはこれまで一度もなかったので、そこについては今更な話。
家庭の環境も様々なれば、催し事や祝い事への構え方もそれぞれなのである。思えば誕生日はろくに祝わないし、クリスマスも特に何もしないことが多い。




あ、でもバレンタインデーだけはやりますね(確信)。
もうあと一月かー。今年はどんなの作ろっかなー。またチョコだけ何キロ!とかはマジでやめないとなー()




「どうした、ちょっとニヤけてるけど」




声を掛けられてはっと我に返る。
わたしはにこりといつもの愛想笑いみたいな顔に戻して、いえ、ちょっと、とか言って軽く流した。




時刻は日付も跨ぐより前。この時間だと、まだ家々に明かりは見え、道行く人影もポツポツとある。




……本当なら、もう少し静かな時間が好ましいのだけど。しかしそう贅沢も言っていられない。なにせまだ彼は年末年始の重い連勤の最中だし、明日も朝から仕事なのだから。  


少し前に我が家~神社への道程にコンビニが出来たので、帰りに何か甘い物でも買って帰ったりとかしてみるのもいいのでは?とか甘やかしてみようかとか頭を過ったけれど、それも今はやめておいた。
年始からそうそう悪女をすることもないだろう。今は純粋に、優しくて包容力溢れる可愛い嫁!(はぁと)のスタンスで行くのが吉とみました。




などと考えているうちに、神社にはすぐについた。
既に1月も4日にさしかかろうとする深夜0時前。当然と言うべきか否か、小さな神社に人の姿は見えない。
内心で好機とガッツポーズしながら、彼と二人で並んでお辞儀してから中に入っていった。




そうして一直線の道を進み、お賽銭箱がちゃんと見えてくる頃、ふと目に留まった違和感があった。
というか予想はしていたけど、あのジャラジャラ鳴らす紐がない!←




「ていうか手と口洗う杓子も無い!
あー、それはそうですよね。なーんか神様には申し訳ないような、ジャラジャラしなければお休みな気もするからそもそも気付かれない疑惑みたいな微妙な気持ちもありますが、どうかご容赦くださいましまし、と」




「ま、仕方ないな」




私が変な顔してる横で実に淡白な感想だけ残すメガネの君。
そうしてホイッと五円玉を投げ入れて二人でペコペコパンパン、ぺこ。




わたしたちは、きっと毎年変わらないお願いを今年もして、早々に神社を後にした。











「暗いな」




ふと、彼はぽそりと呟いた。




空を見上げれば、星一つない曇り空。
だけど雲の灰色さはあまり見えず、雨雲ではなさそうなのにやけに黒い。



帰り道には、不思議と人影が見えなかった。
家々の明かりはまだあれど、人の息が感じられない静寂な道行。そして空を見上げれば、そこにあるのは壁のような暗い雲。


深夜の夜道にふさわしいと思う。それがなんとなく、私には綺麗に見えた。




「静かですね。このようであれば、好ましいです」




「年明けの夜くらいはな。静かで暗いに越したことはないか」




私は別にそうも言わないけれど。疲れているだろうし、無用なお喋りはいらないだろうと黙っておく。




「ね、帰ったらどうしましょうか」




「がんだむしたい」←最近やってるゲーム




「い、いいですけどぉ……。。。そんなに時間かけちゃダメですからね?あとご飯食べてからですよ!」




「あ、そうそう。もし良ければなんだが、帰りにコンビニと通ってアイスでも買わないか?




急な提案に驚いて、その内容にドキリとした。
こうもピンポイントで気が合うことは流石に珍しい。いや、もしや読心術か???


彼は私のその様子を見て、いや、何となくそんな気分で、とか何故か申し訳なさそうにブツブツと言葉を濁している。
そんな彼が面白くて、つい笑ってしまった。




「……ふふ、構いませんよ。珍しいことの一つ、するものでしょう。
それに、実を言うと四季も考えてました、それ。ただなんか、我儘を言うタイミングじゃないかなーと口を噤んでいたのです」




「……そうか。じゃ、気があったということで」





「はい!」





















その後。コンビニに入ると何故かアイスではなく肉まんを買って帰ったのも、
その肉まんをコンビニ出てから速攻で道路に転がして、絶望した顔で「嘘だろ……」と嘆いたのも別のお話……(別ではない)