本日のメニューは、スーパーで買った半額焼売、スーパーで買った半額餃子、厚焼き玉子、お豆腐、きゅうりの浅漬け。




そして、鶴齡。




かくれい、と読むそうです。日本酒です。。






「はい、それでは」




枡を手にとって、彼の方にすっと差し出す。
彼も同じようにこちらにおちょこを持って、




「……あー、なんだろうな。とりあえず、お疲れ様です」




「はい。本日もお疲れ様です。」




乾杯、と合わせた声とは裏腹に、別の容器を合わせた音はなんとも言えない微妙な雑音だった。。。









今日のお酒は、彼からのご褒美だった。




詳細は省くが、先日ちょっと彼のお手伝いをする機会があって、そのお礼として渡されたのがこのお酒の席。
彼が『何かしらでお礼を返さないと』と言っていたので、それならばとお酒を要求して獲得したのである。。




……一応言っておくと、別にお酒が好きだからそう提案した訳ではない。お酒が好きなのは否定はしませんけど。彼から私に対してのお礼というなら、お酒であるべきだと思うのだ。




それは報酬として、あるいはお祝いとして。お酒というのは、それをわかりやすく表せる道具だと思う。


こと私と彼の関係において、物の交換に価値はない。私自身、金銀財宝に目が眩むタイプではないし、彼も私を飾ろうと思うほど独善的な男ではない。
そうなると、消去法的にお礼の品というのは『形に残らないもの』になりがちなのだ。あるいは、そのようにあろうとしている、と言うべきか。




それに、思い出とは積み重なるもの。プレゼントは嵩張るもの。
特別な席には特別なものを。形にして残る思い出は、後で見返した時に懐かしむことは出来ても儚むことができなくなる。
プレミアムな思い出は、その時限りのプレミアムであるべきだと私は思う。カタカナ文字の意味はいまいち分かりませんが。




要するに。特別とは、どんな些細なことにでも見出すべし。そしてそれを形にして祝うこと。しかし後に残る物にして残さないこと。
それが私なりの、長生きの秘訣なのだ。










「…………甘い、のかな?うーん、いや、飲みやすいな。大分」




一口含んだ彼の感想を聞いてから、私も軽く一口。




…………確かに甘い。優しい香りと、甘くてスッとした感じ。口に含んだまま少しの間味わって、それからゆっくり喉に通す。
後に残らない爽やかさ。なるほど、これは飲みやすい。




「本当ですね。美味しいと思います、はい。好みかもです」




「そうか。なら良かった」




できるだけ笑顔を作って言ったことに満足したのか、彼もいつもより穏やかな目をしてくれた。
実際、普段は呑まないお酒の味が嬉しかったのもある。基本、彼からのお酒はスーパーで買えるものだが、今回はわざわざ酒屋で買ってきてくださったとの事だった。


それが彼なりの、いつも以上の感謝の表し方なのだろう。それだけ、今回は特に感謝している、と言ってくれているのだ。
その分かりやすい配慮は好ましい。そしてそうされたからには、そのお礼をしっかりと受け取ったことを彼に見せなくてはならない。だから一度大袈裟に笑ってみたりしたが、満足して貰えたなら良かった。




そういう言葉にはしないお互いへの気遣いを目に見せて、ほっと一息。


特別な席には特別なものを、などと言ったけれど。そんな風に考えて、あまり気負いすぎるのも考えものではある。




「ラスターっていつだっけ。近いんだよな?確か」




「えっと、9月半ばでしたかと。もう2週間ですね。近いです、はい」




「えっ。思ったより近いな……ん?あの目ん玉がアレなレイドボスは?」




「明日?9/3とかそんなんでしたよね?確か」




「なん……だと……。まだビーチにも行けてないと言うのに……」




がっくりと項垂れるご主人様。。。
まぁ、最近は別のゲームに浮気しているので私もあまりpso2のクエストとかはしていないが。相変わらず金策だけはしていますけど。




「四季も武器の強化素材とか、ビーチ行かなきゃと思うんですけどね……。如何せん、あれ眠くなるんですよ……。まさかの時代を遡るまったりぼーっとまるぐるクエストですかそうですか……」




「うーん。それは俺寝るな(確信)。
ま、でもレイドボスは行きたいな。またどうせ強い武器とか出るんだろうし」




「でしょうね。ディバイド行く前提の武器じゃなければいいんですけど。もうディバイドは疲れたんで……。。。」




あー……と概ね同じ感慨に耽っていると思われるご主人様。だって長いし。強いし。およそ周回しまくるクエストとは思えないボリュームなので、正直疲れるんですもん。。




「季節緊急でエメル出る!とか言っておきながら、ドロップじゃなくてクエストクリア報酬に1個だけ!とか馬鹿なんじゃないですかね???それスティル作るために何百個いると思ってるんです???常設では当然のようにドロップしませんし、どうしてディバイドにばかりそんなに行かせたがるのか、コレガワカラナイ」




「スティル三本作ってる割にお前も中々溜め込んでるな。。。
俺も二本目欲しいけどなー、時間がなくてなー……」




「ガンダムしましょうガンダム。四季はもっとエピオン上手にならないといけません。ご主人様のシナンジュに勝てるようにならなくては」




「……すまん、タイマンだと相性ってどうしてもあるからさ……。
というか、リボーンズだのペーネロペーだのやられた時には手も足も出なかったじゃんか、それでおあいこと言うことで……」




「いえあの辺はどうでもいいんです、四季あの辺の機体好きじゃないので。。。3000ならマスターとかエピオンがいいんですー!」




シナンジュ相手にはどっちも苦行だと思うけどなぁ……とか呟きながら、またひとくち。
まぁ、格闘機で機動力のある射撃機に挑むのはそりゃ苦行ですけど。とはいえそんなわかりやすいハンデを乗り越えられないようでは三流もいいところだと思う。




「気持ちはわかるがね(デュランダル議長風)。お前はそういうとこだよな。ハンデありきっていうか。勝ちを押し付けないというか、基本受け身というか




「別にご主人様に手加減はしませんけど。まぁ、いじめはしませんね。。四季は何事も結果より過程派なので」




そうだな、と何が可笑しいのか軽く笑みを浮かべるご主人様。
別に何も気にはならないけど、何となくその笑みが邪悪だったので小一時間問い詰めてみたい。。







……お酒を呑みながら、ゲームの話で盛り上がること小一時間。
普段飲まないようなお酒であれ、することはいつも同じ。呑んで、酔って、ふわっといつの間にか寝ているだけ。


それに唯一性とか、特別性を見出せるのか。見出すことに意味があるのか。
自分のこだわりを、再三自分に問い直す。






どこかで、『幸せってなんだろう』などという話題を目にした。




別にその人と直接その話題について話した訳ではなかったけれど、ふと目にしてしまったので、少しだけ考えさせられた。
人にとっての幸せとは、どういうことをさすのだろう。




楽しいことと幸せなこととは別である。と思う。楽しいというのは娯楽や快楽、刹那的なその時限りの気持ちである。幸せというと、なんというか、もっと人生というか、スケールの大きなものを想像する。
逆に言うと、明確な形を想像しがたい大雑把な概念に思う。




幸せという言葉の真逆に不幸というのがあるが、これもやはり明確にはし難い。
そもそもその時その瞬間の気持ちとか、そういう移り変わるものでもないクセに、主観によるものなのが手に負えない。そんなもの、その人にしか想像できない。
幸せの形は人それぞれ、なんて言うけれど、それなら不幸だってそれぞれな訳で。やはり言葉にしてこれと決めるには定型がない。




そう、定型がない。幸福にしろ不幸にしろ、そんなものは人それぞれの感じ方で変わるものだ。
同じ環境に違う人が投げ出されたとして、同じように感じる訳では無い。突然サバイバル環境に放り出された人間がいたとして、それをやけくそに楽しむ人もいれば絶望して死ぬまで引きこもる人もいるだろう。




幸せとはなんぞや。そう問われて、私ならどうかと考える。
私自身が幸福を感じることと言えば、何かをすること。何か目標に向かって走ること。あるいは、これと決めたことをこなし続けること。『理由がある』というのは大事なことで、そこに人は充実感を見出しやすい。
それが何も得られないものだとしても、自分が決めたルールの中に自身を当てはめる事は最大の自己肯定だ。それ以上に自信を持つ手段はそうないと思う。




そういう意味では、まさしく私は幸福なのだろう。私自身、極端に自分を自分ルールで縛り付けている類の人間だとは自覚している。不自由ではあれ、不幸と思ったことはほとんどない。




自分の行動に理由を求める。何故かと言えば、人間何事にも『特別』を持ちたがるからだ。自己肯定にしかり、幸福にしかり、それはつまり特別であること。どんな形でもいい、そう思えることが幸せの条件なのかもしれない。


逆に言うと、特別ならざる日常の繰り返しを人は嫌う。
そこには何もない。理由がなく、過程がなく、結末もない。特段口にするほどの変化らしいものが何もない。




つまり、『幸せ』の対義語があるとすれば。
それは『不幸』ではなく、『退屈』なのかもしれない。





 





食器の片付けをしていると、ふらり、と肩が揺れたところをすかさず彼に腕で抱きとめられた。




「大丈夫か」




彼はそう言って、こちらの顔を至近距離で覗いてくる。ぎゃーイケメンが近いんですけど!!!!
別に、そう極端に倒れそうになったとかではない。ちょっとふらふらーっと歩いていただけだったのだが。大袈裟だと思う。




「あわわ、申し訳ありません。。。大丈夫ですってば、もう」




慌てて離れると、む、と拗ねたような顔をする。あら可愛い。
それからため息混じりに、




「最近はお前、呑み方が乱暴なこと多いからな。酔う時本当に酔っ払うから、たまに困るんだぞ」




そうだろうか。確かに酔っ払おうとしてグイグイ呑む時はあるけれど、困らせてしまうのは心外だ。少し控えよう。。。




「そこはほら、こういう機会もたまにですし??愛する妻のお茶目と思って、介抱してくださるのも甲斐性かと!」




「期待するな。俺はそんなによく出来てない」




それも謙遜だと思いますけど。




一瞬、間ができる。
お互い次に続く言葉がないので、どうしたものかと頭をめぐらせる。




本当は、別に何かを言わなければならないような気まずい空間ではなかったはずなのだけど。
こう、ふとした出来心で、ぽつりと呟いてみた。




「…………ね。四季は幸せですよ」




音のない台所にも響かないように。本当に囁くように、小さな声で。
ちょっと悪戯っぽく見上げながら、そんなことを。




「ん?なんて言った?」




「なんでもねぇですお酒ありがとうございました!!(半ギレ)」