ジメジメとした蒸し暑い夜。
私と彼は、二人で買い出しに出掛けていた。




夜、というよりは既に深夜。日付はとっくに跨ぎ、見えるものは街灯や建物の光ばかりで人の気配もあまりない。
暑さのせいで勘違いしてしまいそうだが、ともすれば寂しささえ感じさせる静かな暗闇。聞こえる音といえば、こつ、こつ、というリズムの合わない二つの足音くらい。




先導するように少し先を歩く彼の背中を、ちらりと覗く。
この人は、この夜に何を思っているだろう。




「悪いな。付き合わせて」




と、何の前触れもなく彼の背中がそう言った。




「いえ、家に必要なものもありましたし。それより、お仕事の後にお疲れじゃありませんか?任せても良いんですよ?」




「それはちょっとな。とはいえ、今日は帰ったら早めに休む」




素直な返答に驚きつつも、はい、とだけ答えておいた。
彼がこうあっさり休むと言うのは珍しい。最近はPSO2の期間限定クエストなんかもあったりして、夜は結構無理を押してでもゲームに勤しむ日々だったものだが。




もしかして、体力の限界を感じたのだろうか?
そうだったとしたら少しばかり問題だ。もう少し無理をしないように、日頃から言うことも必要になるだろうか。




前を歩く姿勢の良い背中。
決して大きくはない背丈と双肩。




その頼り甲斐のあるようなないような後ろ姿を見て、ふと思う。


ああ、好きだな、と。




「時間さえ取れれば、今の常設も篭もりたいんだけどな。しかしあれ内容はともかく、pt人数が安定しないのはどうにかならないものか……」




「あー、ですねー。。私はまぁ、皆さんが仰るほど酷いと思ってませんが、クエストを受け直すペースが早くて手間です。。。
ご主人様は、あのクエストはどのクラスで行きます?」




「ん、そうだなぁ……HrかFoかな?
いやまぁ、Guでも活躍出来そうだしそれでもいいんだが……」




「おや。メインのBrは?」




「前の報酬期間で、装備が作り途中なんだよ。次に完成させようと思ってるから、それまではあんまりな」




「なんと。報酬期間を跨いで作るとか、もしやガチ構成??」




「まだ明確にどうするかは悩んでるんだが、良いもの作りたいとは思ってる。お前に見劣りしたくないしな」




あはは……、と苦笑いだけして返しておいた。




実際、私のPSO2の装備のレベルは既に私の思う理想を超えてしまっている。
私なんて、大した装備もなければPSもない、ただやっているだけの二ークスでいられればそれで良いのだ。それを『出来てしまうから』とあれこれと手を出し、あたかもかなりやっている雰囲気を醸し出してしまっている自覚はある。


自分としてはそうであることも、そう思われることも全くもって不本意なのだ。
そう、この人がそういうレベルにならない限りは。




いやまぁ、もう一押しで少なくとも装備は私以上のものになりそうですけど。。。というかなってもらわないと困るのでメセタ貯めてください←






こつ、こつ、という足音だけが暗い商店街に響き渡る。




時間が遅いとはいえ、夏だというのにやけに静かな夜だ。私が外に出れば大体通るこの商店街だが、夜でもここまで静かなことは珍しい。




暗がりは耳を物音に敏感にさせ、静けさはお互いの存在を余計に意識させる。ただ、この蒸し暑さだけが鋭敏になりかける意識を鈍らせる。
それがやけに気になって、ふと思った。




「…………早いもので。もう、夏なんですね」




独り言を呟くように、そう口に出してみた。
そう言うと彼は一度こちらを振り返って、そうだな、とすぐに前に向き直した。




「体調は大丈夫か?夏になると大抵一度は寝込むからな」




「だ、大丈夫です!気をつけてます!」




ならいい、と短い返事が帰ってくる。
私だから解るけど、相手によっては冷たく思われるからそれやめた方がいいと思います。。




「……夏か。夏のうちにしておきたいこととか、あるか?」




「引きこもって寒くなるまでゲームだけしてたいです(真顔)」




「お、おう。。。そうだな。。。いや、そうじゃなくてね?」




彼のリアクションに思わず、ふふ、とこちらも笑ってしまった。


冷たいようで、子どもっぽくて。コロコロと変わるこの人の雰囲気が何より愛おしい。
そう思わせてくれるこの人に、その姿に救われる。




それを伝えたら、今度はどんな反応を示してくれるだろう?




少しだけ考えてみたけど、やめた。
それはさすがに急に言うのには唐突すぎるし恥ずかしいので、ここぞという時にとっておこう。




「暑いのは苦手ですし、早く冬になれーとは思いますが。まぁ、こうメリハリがあるのは良いことですからね。夏は嫌いですけど、この夏を嫌には思いません。
いえ、やっぱり四季からは結局、ご主人様の望まれるようにー、とかそんな感じになっちゃいます。。ご主人様的には如何です?」




「時間が取れない、というのがいつもの問題なんだが、そうだな。たまには、お前とお出かけしてみたくはあるな




「お出かけ?ですか?」




「夏と言えばほら、色々あるだろ。個人的にはお祭りとか興味がないでもない。どうだ。」




「はっ?ど、どうだって、お、お祭り?私と??ですか???
い、いえ、その、どうすれば良いのでしょうか。。私、そういうの行ったことないですし、分かりませんし……!」




「む。乗り気じゃないか。なら見送ろう」




えっ。。。




突然にして速攻の決着だった。思わず立ち止まる私を置いて行くように、彼はてくてくと変わらぬ歩調で先に行ってしまう。




文字通りぽつんと取り残された私に気付いて、振り向く彼が呼びかけてくる。
だけどそれどころではないというか、今のは一体何だったのか。




お誘い。お出かけのお誘いだった。




しかもお祭りと来た。経験はないので分からないが、それはなんて言うか、二人でお出かけなんていうのにはポピュラーにして大一番なアレなのでは?夏の一大イベントなのでは?ていうかぶっちゃけ、デート的なやつなのでは???




それを私、今断った風になってしまった???




ど……………、ど………………………………、














どうすればよかったんですかぁぁぁぁぁぁぁ!!!???←今ここ(帰宅)