「今日は楽しめたか」




日付も変わろうかという深夜。
いざこれからおやすみなさいとベッドの支度をしている最中に、彼はポソリとそう呟いた。











二月十一日。建国記念日。




それは、私の誕生日だった。










「──はい。ふふ、1日ゲーム漬けで、ちょっと疲れちゃいましたけどね。
でもでも、報酬はまぁそこそこにありましたのでよろしいかと!ご主人様もオフスの素材が揃って何よりです!」




「あ、それな。ネメスレとアーレスは揃ったんだけど、そういや肝心のインヴェイドをまだ持ってなかった事に今気付いた。。。」




「Oh……」




はははー、と苦笑いで頬をぽりぽりかいたりしてみせるご主人様。


こういう『娯楽に対して本気で楽しみつつ、それでも気軽でいられる人』というのは見ていて安心できる。
寛容なのは良いことです、はい。






そうやり取りをして、少しばかりの沈黙。


それは多分、後悔を孕んだ気まずいものだった。
その沈黙こそ、まだ物を言い足りない、伝えたい言葉を残しているのだとお互いに確かに伝えながら。けれど良い言葉を見つけられない、そんなジレンマ。






…………寛容なのは良いことだが。中途半端はいけない。無関心もいけない。
半端は自分の中に甘えを生むし、好奇心関心を捨てては考えも固まり腐ってしまう。




人間そう簡単に変われないものではあるが、かといって己が信じたものを絶対と信じて停滞してしまうのは怠慢だ。
なにしろ絶対などそうあるものではない。成長出来なくなるまでの経験値を詰めるほど人の一生は長くない。
人は生きる限り成長し続けるし、そうあろうとし続けなければ人は他人に興味を持てない。

関心の向きが自身の内にばかりいって周囲の環境を楽しめないのは可愛げでもあるが、同時に救いのない悪癖でもある。
心理学には詳しくないけど、きっとそういうのがいわゆる『病み』というやつなのだろう。




つまり、何が言いたいかと言うと。


話の逸らし方が乱暴だったなと、ちょっとした罪悪感を感じたという話。




だけど、それから一度深呼吸をする程度の間を開けて、彼はもう一度口を開いてくれた。




「……その。分かっては、いるんだよな?
いや、むしろ、分かってはいるんだぞ、というか」




結局何をとも言えないのか、ごもごもと口ごもりながら、それでも弁明するみたいに話を戻そうと頑張る姿勢にイケメンポイントを5点進呈←
いえ、せっかく話をすり替えたのにまだ続けるんですかそれ。や、別にそれは構わないんですけど、言いづらいなら言わなくていいのに。




私用のベッドの準備を終えて、彼の方に向き直す。
彼は彼で自分のベッドに腰掛けてこちらの背中を見ていたようだったが、一度私と顔を見合わせると、ふいっとすぐに目を逸らしてしまった。




「えへへー、なんですかもう。今日は照れ照れモードなんです?」




「う。いや、その……………」




余計にそっぽ向きながらぽりぽりぽりぽり頬をかきまくるご主人様。。。落ち着け、怪我しますよ?




だけどそんな彼なりの頑張りに、ふさわしい報酬がなくては。
そう思って、ひょいっと小さくジャンプするように彼の方に寄ってみる。




それからリアクションが来る前に、彼が腰掛けるベッドに並ぶようにして私も腰を下ろしてみた。




「え。な、なんだよ。」




肩をぶつけて少し寄りかかりながら、ふふふ、と笑って誤魔化しておく。




……実際のところ、恥ずかしい話をするのに顔を見せられないのはこっちの方なのだ。
私はこの人ほど豪気なタチではない。伝えたい言葉を伝えたいように述べられるほどの純粋さは、もう子供の昔に捨ててきてしまった。




「何でもないです。ちょっと、こうしたかっただけ」




だから。こうしてほんの少しだけ肩をぶつけながら、そのままで聞いて下さい。




「ありがとうございます。お気持ちは確かに。
そうして改めて口にしてくださることも、本当に嬉しく思ってます」




二人並んで、肩だけ寄せて。
でも顔は二人して前を向いたまま。いや、私はちょっと足元とか反対側の隣とかに顔を背けながらだったけど、とにかくそうだけ言葉にした。




彼はそんな私のぎこちない様子には一切ツッコミを入れないで、いや、とか、うん、とかやはり言葉を選びきれないで困ってしまっているようだった。




「…………その。なんというか、上手いこと出来なくて悪い」




「いいえ。それを言うと、気難しくってごめんなさい。。。
お祝いとか、ちゃんと喜んで受け取れるタチならとは自分でも思っているのですが……」




他人に祝われる自分なんて見たくない。


そんな我儘を通すために他人の好意を無碍にはしないつもりだけれど、かといってそのために自分をねじ曲げられるほど器用でもないのだ。
自己嫌悪、罪悪感という類の気持ちはそう簡単には無くならない。




「気難しいんじゃなくてお堅いだけなんじゃなかったっけ?」




「言われればそう返しますけど、どうせ見ている人にはそんな見分けはつかないのですし同じです。。」




「気難しいよなぁほんと……」




「違うんだって言ってる所に!!」




一転して元気なツッコミに、ふ、と笑みをこぼすご主人様。
それを合図にしたように、私もつられて笑ってしまった。






「……ありがとうございます」




「さっき聞いた。」




「……今後とも、どうかよろしくお願い致します」




「こちらこそ」