「はぁー……」
 



大きなため息をつきながら、しかしようやくやりきったのだという達成感。




足取りも不確か、思考は乱雑で途切れ途切れ。
でも、それでもようやく、私は目的地であった自室にたどり着いた。これを喜ばないでいられようか。




部屋の明かりをつけると、まず視界が向かったのは部屋の隅にある大きなベッド。
そんな自分をちょっとだけ自嘲しつつ、でも欲望には逆らえなくって点けた明かりをすぐに消し、フラフラと歩み寄るなり頭から枕にダイブした。。




「んぅ。。。
………………はぁ……………疲れた……………」




一日の感想、これにて終了。 


とにかく今は一刻も早く思考を止めて、視界を閉じて、夢の世界に眠り落ちてしまいたかった。




のに、横になってみれば膝が痛い。
腕を曲げれば肘が痛い。腕も痛い。なら当然のように足も痛いし、手の指なんかは今になっても軋んでろくに伸ばせられない。なんなら力を入れすぎたのか、お腹の中までやけに痛い。


我ながらよく持ったと我が身の丈夫さに感心していたのだが。どうやら丈夫だった訳ではなく、四肢の悲鳴に気付かなかっただけらしい。
まったく、こんな状態になるまでやるなんてどうかしている。というか女子としてどうかと思う。




……とまぁ。冒頭からどうしてこんな見ていて苦しいだけの描写にやたらと文字数をかけているのかと言うと、そこに大した意味は無かったりする。




何があったのかと聞かれれば、バカ御前による『突撃☆お宅の特訓事情』という名の数時間に及ぶ生死をかけたスパルタ教育を受けたというだけだし、その辺りの説明は不要だろうから省く。。。




今回は抜き打ちテストだったというか、生徒が私一人だったからキツかったというか……いや、前に猫四季と二人がかりでやった時もキツかったのだけど。余計というかなんというか。




「もう、何なのよアイツ、ちょっと強いからって調子に乗って……」




そんな罵倒も、誰もいない部屋にはただ虚しく1度限り響くのみ。




当然、こんな独り言に意味はなく、当然誰からのリアクションもありはしない。
むしろあってもらっては困る。こんな負け惜しみみたいなのを誰かに聞いてもらいたいほどか弱い乙女なつもりはないし。




──だと、言うのに。




かた。かた。




そんな小さなリアクションが、それでも確かに部屋の隅から返ってきた。




「……?何、今の……」




上体を起こして、垂れていた耳をピンと立てる。
音を立てないように静止して、誰も居ないはずの部屋の物音に注意する。




かた。かた。かたかた。




────聞き間違いじゃ、ない。




小さな物音は不規則で、どこか虫が動く音のよう。それを不気味に感じて肩が強ばる。




いや、不気味どころの話じゃない。
だって私は今、暗闇の中で、気づかないうちに、何ともわからない何かと同じ部屋にいる。




「…………だ、だれ…………?」




暗がりの中、音が聞こえた部屋の隅の方に見えない視線を無意味に送る。




返事はない。




意識を集中して、ゆっくりとベッドから足を下ろす。
そうして足を床につけようとした、その時。




ぐぇっっっ




床に付けようとしたはずの足元から、むぎゅっと柔らかい何かを踏んだような感触がして、




いま、




何か、




声が、した、ような。




「いっ………………、いやぁぁぁーーーーーっっっ!!!!!」












◇◇◇














「と、要約すると↑こんな感じのことがあったですね?」




「ねぇ今の話の前に疲れたーとかスパルターとかその辺の情報入れる意味あった!?」




ぼふっ、と手のひらで私の寝ていたお布団を叩きながらツッコミを入れてくれる、息も切れ切れな似非ツンデレ。こと白四季さん。落ち着け。煮干食べます?




「お気遣いどうも。いらないけど。いいから話を聞いてくれない?
つまり、私の部屋に何かいるの!かたかたって物音立ててるの!何か床に柔らかいものが落ちてて踏んづけちゃったの!!
だからどうにかするの手伝ってって助けを求めてきたのよ!ねぇ、ホラーとかいけるクチでしょ、むしろするクチでしょ貴方?どうにかして?ね??




「はぁ…………そのためにこんな夜中にわざわざ私の部屋まで来て、安眠を貪ってるところを無情にも叩き起こしてくれた訳ですか?
あと誰がホラーですか。ちゅーずでぃなさすぺんすーとか言うならまだしも、ホラーにまでなるつもりはございませんー。。。




「説明セリフご苦労さま、いいからどうにかしてちょうだい!してください!
私あーいうのはダメなの……!お人形は好きだけど、髪が伸びたり動いたりする系のお人形とかほんっと無理なの!
ていうか物音がした部屋の隅っていうのがお人形が並べてあるとこだから絶っ対嫌なの見たくないの!!!」




そう言ってぽかぽかと私の両肩を前から叩いてくれる、いつにも増して面白可愛い白さん。。。落ち着け。小骨食べます?




「あなたねぇ……。ていうか煮干から小骨になったのは何なの?グレードダウンしたの?喧嘩売ってるの?追い討ちかけてるの?
もーお願いだから……、せめてついてきてってばぁ……」




はぅぅぅ、とため息とも嗚咽とも言えない呻きを漏らして肩を落とす白さん。
あしらわれすぎて諦めてしまったのか。電池が切れたみたいに頭を垂らして消沈するその姿は、私から見てもちょっとだけ不憫だった。。。




……ふむ。ツッコミにも冴えがないし、どうやら本気で怖がっている様子。
ここはひとつ、素直に助け舟を出してあげるのが優しさだろうか。




「…………はー、仕方ありませんね。少し待っていてください、助っ人呼びますから」




助っ人?と小首を傾げる白さんに、助っ人、と反復しながらアークス特有の中に浮かぶ謎端末を開く。
この遅い時間に連絡するのはちょっと申し訳ないですけど、まぁネタが面白いから笑ってくれるでしょう。。。




「えー、メール送信、っと……。
お、すぐ返ってきましたよ。まだ大丈夫ですって。よしじゃあ行ってらっしゃい、私は寝まーす!」




「人に任せて寝る気!?
い、いい加減あなたそーいうとこ神経タフ過ぎない……!?ねー来てってばー!大体誰呼んだのよ、姫!?猫!?」




「いえいえ、今回ばかりは善意でございます。いいからおひとりで向かいなさいって。きっとすぐ済みますから、っと」




そう言いながら立ち上がり、白さんの両手を掴んで身体を無理やり起こす。「ちょっと待って今身体が痛くてダメだからそういうのあっいたたたたい痛い痛いっっっ!!」
それから背後に回って、何やら文句とか悪口とかみたいな叫びと抵抗を聞き流しながらぐいぐいと背中を押しながら部屋の外に誘導する。




「ちょ、ちょっと何なの!?どういうことなの、貴方に頼ろうとした私が馬鹿だったの!?
ちょっと待ってってば、せめてもう少し説明して!」




「必要ありません。そんなに不安だと言うのでしたら、はい、こちら私がたまにつけてる尻尾のアクセなどプレゼントして差し上げましょう。ほら、これを私だと思って?的な?はい装着」




「変なのつけないで!?ねーほんとお願いだから、人の話を聞いて……!?(切実)
ダメだわ、やっぱり疲れてる時に貴方の相手なんてしてられない、胸焼けする……。。。」




「聞いてます聞いてます。だがさらばだツンデレ。
じゃ、ちゃんと合流してから問題のお部屋に入るんです、よっ!」




マイルームと外を繋ぐ扉を前に最後にそう伝えると、さらに不思議そうにこちらを見る白さん。。
それに構わずドアを開けて、えいやっと背中を一押しして彼女を部屋から追い出した。。。












◇◇◇











で。




問題の部屋に来てみると、確かに四季の言う通り、そこには助っ人らしき先客がいた。




……それはきっと、ここに来てはいけないような、でもここにいるのが当然なような。




私よりも小さな体躯。


銀色の長い髪。


そしてその風貌に似合わない、袈裟懸けみたいに背負った身の丈より長そうな刀。




そこにいたのは名状しがたき、じゃなくて紛うことなきgrindaさん的ななにかだった。




テルー「私もいるから安心しなさい?」




「何でいるのよ、ship8に帰りなさい」




「白四季さんそんな低い声出るんですね。。。」




挨拶がわりにじろりと交差する厳しい視線。。
今疲れてるんだからやめて欲しいんですけど。




「じゃなくて、何であなたたちが来てるのよ!?
特にあなたよピンク。シップ8に帰りなさい(二度目)」




「大事なことなので二度言ってんじゃないわよ。私は元から師匠と一緒にいたんですー!ですよねー師匠?」




「私は四季さんから、
『ケモミミ警報発令。現在、grindaさん宅にて怪しい白四季が住み着き中。grindaさんは至急ご自宅にて任務への参加を』
ってメールが来たのでとりあえずマイルームに来てみたんですけど(´・ω・`グ)」




あ  の  お  ん  な  。




「………………ふ。ふふふ。ふふふふふ。
いいえ。いいえ、耐えるのよ四季。あの毒婦の気まぐれにいちいちリアクションしていたらダメ。丁寧にツッコんだり怒ったりしていては喜ばせるだけだもの。
それにお菓子くれるし。使えるうちは使わなくちゃ損だわ。たまに砂糖と塩間違えるけど。食べないと拗ねるけど。




手をおでこに当てて、頭と怒りを抑え込む。。。
ふふ。ちょっと、身体が元気になったら、何をするべきか、今のうちに、考えておかなくちゃ。




そんな私を見て、視線を通わせては苦笑していたりするBr二人。。。
悪かったわね、呆れさせて。でもあなたたちだってあれと付き合ってたらこうなるわよ絶対。あいつの(芸人ロードに巻き込む)見境のなさを知らないからそんなリアクションが出来るんだから。




「…………底知れなさはありますよね!」




「でもそこはフォローしなさいよ……。。。
じゃなくて!今はそんな悠長に無駄話してる場合じゃないの!
貴方の家どーなってるの!?何か出たんですけど!何かカタカタ動いてたんですけど!!」




当初の目的を思い出して、びしっ!と銀色の方に指を向ける。




彼はキョトンとした顔で、はい?と次の説明を求めてきた。













「なるほど。要約すると、この記事の冒頭部分みたいなことがあった訳ですね?
ところで今日は珍しく尻尾生えてますけどイメチェンですか?」




決めたわ。もう私このSS書き終わるまでツッコまないから。
あとこれはあの黄色い四季よ←」




「物音よりあんたがナチュラルに師匠の家に住み着いてる前提だったことがこえーわよ。
え?それ四っ季ーなの?




痛いところをついてくる蛮族(弟子)を無視して「おい」、だからちょっと見てほしいの、と蛮族(師匠)に聞いてみる。




(師)は、ふむ、と1度顎に手を当てて考える人のポーズみたいなのをしてから、




「とりあえず中に入って、何かいたら斬りますね?(´・ω・`グ)」




「やっぱり蛮族じゃないの。。。」




「即行でツッコんでんじゃないの。。。」




と、そう言うなりおもむろにマイルームのドアを開ける白い彼。。。




「ちょ、ちょっとほんとに作戦会議それだけなの!?大丈夫なの!?」




本当にずかずかとなんの遠慮もなく進んでいく彼の背中に遠く(弟子の背中)から静止をかける。。。
彼はこちらに振り返ることも無く、大丈夫ですよ、と中に入って行った。




「ちょっ、くっつかないでよ!
あんたに引っ付かれてもうざいっていうか、むしろ怖いんだけど!」




「はいはい、ここからは静かに。ベッドのある部屋ってことは左の部屋ですね?
というかあの散らかってる部屋でよく寝れましたね白四季さん……。二人は下がっててください」



部屋の前まで行くと、彼は私たちに待ったをかけるように手で合図した。




突然の少しだけ低いトーンに、二人してぴしっと背筋を伸ばす。




いや、背筋を伸ばすというか、固まってしまった。
急に声を変えられると、どうしても驚いてしまうというか。




「……物音はしませんね。開けますよ」




言って、こちらの返答も待たずにぷしーっとドアを開けて中に踏み入る銀色の髪。


そしてすぐに明かりがつけられ、その広い部屋の一様が明かされた。




「えーっと1から説明すると、
まず目の前に雪だるまが三体こっち向いて並んでて、
その後ろにプロレスのリング?があって、
そのさらに後ろには大量の仏像が並んでて、
所々にベッドとか机とか冷蔵庫とかの生活用品が散りばめられてて、
でそこの隅っこには人形がずらっと並んでたりするんだけどこの部屋は物置か何かですか師匠???(テ・∀・)」




「知らない間にそうなってたらしい元私の部屋です(´・ω・`グ)」




誰かさんのおかげで、とちらりとこちらに視線を送るグリ何とかさん。
私のせいじゃないわよ。私はこんなめちゃくちゃにしてないもの。。私が置いたのは、私が棲みつくために必要だと思った生活品とお人形たちだけだもの。。。




「当然のように言ってますけど住むの漢字がそっちな辺り自覚はあるんですね?
それはともかく、その物音を立ててたお人形というのがそれですか」




と、じろり、と重い視線が部屋の隅に並べて置いてある人形たちを捉えた。




そこにあるのは、ラッピー、リリーパ、それと女の子のお人形が数体。
部屋の隅にところ狭しと並んでいるそれらは、以前私が並べたままの状態だった。




「ていうか今更だけど、お人形趣味なの??ふーん……」




「べ、別にそれはどうでもいいでしょ。
ちょ、ちょっと危ないから!っていうか、あ……」




私が止める暇もなく、その人形たちの前まで寄ってしゃがみこんでしまう二人。
それからどれどれと二人で人形を一体ずつ触ったり、持ち上げたりして確認する。




ラッピーの人形を持ち上げる。

リリーパの人形をつついてみる。

それから洋風な女の子のお人形を抱えて、元にあったように座らせる。




そうして好き勝手いじられている少しの間、お人形たちは自らの足で立ち上がったり、動いたりは当然しなかった。




「……ま、何もおかしな所はない、ただのお人形ね。ほんとに動いたの?」




「う、嘘を言っても得にならないでしょ。まぁ、見た訳では無いから、その辺から物音がしたってだけなんだけど……」




「ふむ。まぁ、とにかく今は何もなさそうということでしょうか。
とりあえず他の部屋も見てから、何も無ければこの場は解散ということでどうでしょう




白い方がそう提案したところで、そうですね、と続いてピンクも立ち上がる。




「ちょ、ちょっと待ってよ今何も無いからって放置する気!?そうはいかないわよ、帰さないわよ!!帰りたければ、私の屍を超えていきなさい!!(錯乱)




と、話が進んでしまいそうな雰囲気に慌ててドアの前に両手を広げて立ちはだかってみたりする←




何せここは、テロにテロを重ねて作りあげた私の城。
ちょっと余計なテロもあって、他人のマイルームのものは撤去できないからどうにもできないでいるけどそこはそれ。私が一番初めに寝床を作って、私物に生活品にとこれでもかと詰め込んだのだから誰がなんと言おうと私の生活スペースなのである。




なので、ここで帰られては困るのだ。だって何も解決していないし、またあんなことがあったらと思うとおちおち寝てもいられない。
そもそもの話、自分の部屋でひとりで寝るのが怖いだなんて、ちょっと幼稚すぎてこんな自分にさすがの私も長くは耐えられない。。。




「そういう自覚もあったんですね。。。
でも今探して何も無いんじゃ、どうしようもないですし……、」




そう言いかけて、白い方はこちらに振り返ると私を見るなりぴたりと動きを止めた。




見ればピンクの方も固まっている。


二人して私を見ながら、驚きというよりも臨戦態勢のような強張り方で。




「ちょ……ちょっと、二人して何よ……?




背筋が凍るような、虚無的な錯覚。
そう、これは錯覚。だって二人とも、そこのお人形を調べて何の異常もないって結論を出したのだから。
それを、こうして、ここにきて、二人で揃って私の背後を見て固まったりなんて、そんなこと。




かた。



かた。かた。




──ああ、現実逃避は許さぬと。




暗闇の中で聞いたその何かの音が、今確かに、私の背後から聞こえてしまった。




「い…………………っっっ、こ、この、かっかかかかかかって来なさいよぉ!!!!(ヤケクソ




振り返って、腰に隠していたドスを構える。




ここでなら二人がいる。私がタヒんでもどうにかしてくれる。


というか、もう十分に怖がりすぎたので一周回ってもうどうにでもなーぁれの精神で頭に血が上って急降下。
割と何を言ってるのかわからない。
つまり何てゆうか、もう、何も怖くない!白四季のCVは水橋か○り




……………そうして振り返ると。そこにあったのは、何も置かれていないテーブルだけだった。




「………………え?な、なんだ、何も無いじゃない……………」




ほっと胸を撫で下ろしつつ、ドスをしまう。
それから二人にもう一度目配せすると、今度は二人とも私の足元をガン見していた。




それにつられて、つい、私も自分の足元を確認する。




かた。




かたかた。かたかたかたかたかた。






そこには。おそらく振り返りざま後ろについてた尻尾でテーブルから落としてしまった床に寝転がってこちらに憤怒の表情を向けている(気がする)、黒髪の和人形がガタガタと音を立てて震えて──今、ふわりと身体を浮かしてこちらに向かって来ていた。




「ひやぁぁぁぁぁーーーっっ!!!!!!」




何を思ったか、即座に尻尾のアクセを取り外してその人形を再び床に叩き落とした。。。四っ季ー!!!


それから尻尾ごと踏んづけて四季さん!!!、人形の動きを封じ込める。




「そ、そこ!!見てないで手伝いなさい!!何か入れ物!!箱!!!」




「は、箱ですか!?ええっと、はいこれ新しいクリスマスプレゼントBOXですよー!!」




お決まりの台詞と超回転で投げつけられたプレゼントBOXを受け取り、踏んづけた尻尾でお人形を包んで箱に放り込む。。。




「封は何かないの!?ガムテープとかでいいわよ、絶対出れないように固く締めるから!」




「が、ガムテープ?あーっと、はいこれ棚にあったさして新しくもないガムテープよー!!




「それいちいちやらなくていいから、っていうか何でもあるわねこの部屋!」




受け取ったガムテープで蓋の周りを厳重に縛り上げる。
それからその箱を部屋の外まで抱えていき、




「死になさいっ!!」




遠くナベリウス、遺跡地帯の見える星の彼方までぶん投げた。。。




「おおー…………飛んでったわねー…………」




「意外と腕力ありますね??」




各々のリアクションをとる蛮族二人。余裕あるなら私にやらせないでどうにかしてよもう!←




「…………はぁ。と、とにかく悪は去ったわ。ようやくこれで安心して眠れる、と…………」




へたり、とその場に座り込む。


そんな私に、お疲れ様です、と言ってぽんと頭に手を置いてくれる人がいた。




「────、」




思わず、その手の主を見上げる。
彼は別段特別なことはしていない、と言うような普段通りの表情で私を見下ろしていた。




変わらない姿がそこにある。
いつか見た、一目見ただけで感じた銀の色。




……私は今、どんな顔をしているだろう。
ふとそんなことが気になったけど、それも上手く計れない。


そんなことを気にしている余裕がないくらい、その姿は変わらず……こう、言いにくいのだけど、綺麗だった。




「結局全部白四季さんに任せちゃいましたね。四季さn……尻尾はあれ、良かったんですか?」




「……い、いいのよ、あんなの。四季だと思って使えって言われてたんだし。中で合体でもしない限り、仲良くあのまま宇宙の藻屑でしょ」




ですか、と苦笑い。



  


……少しだけ流れる、緩やかな沈黙。






こういう沈黙をなんと言うのか、言葉に仕方に困るけれど。
でも、今この瞬間の居心地は悪くない。




……夢想するのもやめようかと思ったけど、でも、いいわよね、今くらい。
こうして彼が私に構ってくれてる間くらいは、せめてもの夢を見ていたって。




……できるならこんなドタバタした時ではなくて、もっと穏やかな時に。


 

いつか、こんな風に誰かの傍に。




それはきっと、あの四季のように。






「……さて。それじゃあ白四季さん。
どうやら本当に勝手に寝泊まりしていたみたいですけど、そろそろその辺のお話ししましょうか」




「あ、やっぱり流してはくださらない??」




「あったり前よねぇ???