とぽとぽとぽ。



静かな部屋に拡がる懐かしい音。
この辺りはやはりどれも変わらないものか。傾けていたコーヒーポットの姿勢を直して、ことん、とテーブルに置き直す。




それから黒い水のたんまり貯まったコップをとって、目の前の彼に差し出した。




「ありがとう」




「いえ。暑いですから、お気をつけて」




ああ、と彼は短く答えて早速コップを手に取る。
それを口元まで持ち上げると軽く息を吹きかけて、ずずず、とお茶を飲むみたいに啜り始めた。




私も習うように、自分の分のコーヒーを少しだけ口に含んでみる。




……うん。淹れたてというのはこう、やはり違うものだ。暑くて味とかなんとかそれどころじゃない←




「……ふぅ。久しぶりだな、コーヒー」




予め考えていたかのような一口目の感想。




そうですね、と答えてもう一口。
淹れたてで熱いコーヒーの味は、やっぱりよく分からなかった。




「……で、如何でしょう?新しいコーヒーメーカーで淹れるコーヒー。美味しいですか?」




「コーヒーメーカーごとの違いまで分かるものじゃなくないか?いや、美味しいけど」




「ですね。。でも、何となく前より美味しいかな?って思います」




心にもないことを言ってみると、そうか、と満足げに微笑む彼。




それを見ていて、私も少しだけ胸が暖かくなった気がした。









先日、コーヒーメーカーを新調した。




というのも、去年まで使っていたコーヒーメーカーがふつっとこと切れてしまったのだ。


ボタンを押しても電気がつかない、叩いてもノーリアクションいや叩いてリアクション取る機械は中々いないだろうけどの突然死。
やむなく、新しい本格的に寒くなる前に新しいコーヒーメーカーを電器屋さんで適当に見繕ったりしたのである。




ここに住み始めた時からコーヒーメーカーは重宝していて、壊れるとすぐにこうやって買い直していた。


そして今回のコーヒーメーカーは実に五代目コーヒーメーカーにあたる。壊れるペース早すぎなんじゃが
お願いだから二年くらいはもってほしい。。。




「はぁぁぁ…………本当、すみません。
なんで家電ってこんなにほいほい動かなくなっちゃうんでしょう……」




「いや、普通そんなに壊れないと思うけどなぁ……?
炊飯器と言いPS4のコントローラーといい、まぁよく壊すよな、四季」




「四季のせいですかっ!?」




「え、違うのか??」




心底不思議そうに首をかしげてきたりする無垢な視線がとてもつらい。。
うう。まあ、自覚があるから謝ったのですけど、でも言われるのはちょっと別なのです。。。




「はは、いや、冗談だよ。
ああいや、冗談ではないんだが、悪くは思ってないから気にするな。」




ころころと笑うその姿は、やはり年齢を考えると少し若く見える。身長低いからかな←




「唐突に身長をdisられた」




「そんなんじゃありませんよぅ。。いえ半分くらいは仕返しのつもりでしたが!
四季はあんまり背の高い男性は得意でないので、ご主人様くらいだと安心します」




「そういうもんか?」




「そーいうものです、はい」




そうして会話の区切りに、ずずず、と二人でまたコーヒーを啜る。




……さっきは心にもないなんて言ったけど、それでもこのコーヒーの雑味の無さは感じないでもない。




容器が新しいからか、それともちょっとお高いコーヒーメーカーだったからか。
コーヒーにそれほどの関心はないはずだけれど、比べてみて違うものは違うな、と思えてしまう程度の舌は持っていたらしい。






……これから冬に入れば、毎朝お決まりのコーヒータイムがまた用意されることだろう。
夏場は冷たい水でいいと思うと、あまりゆっくり時間を取らなくなってしまうのだ。


その辺り、コーヒーというものの魔力は中々侮れない。ご主人様をして多少時間に余裕を持たせるコーヒーさんにはいつも助けて頂いております、ほんとマジで。
せっかちな男性には丁度いい足枷になるのではないだろうか。そういう点で、私はコーヒーの価値を高く評価していたりする。






「……これから寒くなると、アレには毎日頑張ってもらうことになるだろうな。




「ですね。あっでもでも、お休みの日などにはお茶や紅茶もいれますよ♪」




「好きにしていい。お茶も紅茶も嫌いじゃない」




「はい。では、今度のお休みには紅茶とクッキーでもご用意致しましょうか」




「クッキー、最近はよく焼いてくれるようになったな。流行ってるのか?」




「どちらかと言うと練習中なので、数をこなしたいのです。。。」




「そうか、期待してる。手伝って欲しい時は言え」




……そう言って優しく笑いかけてくれた彼の顔が、なんというか、自然すぎて、つい目を逸らしてしまった。。