目が覚めたのは、まだ日も出ていない時分だった。 




……元から睡眠の深い方ではないけれど、ここまで早起きしてしまうのも珍しい。
確か布団に横になったのが大体1時半。となると睡眠時間は二時間か。うーん、ちょっと早いな。。。




さて、まだ余裕もあるし二度寝してしまおうか。


それとも今から起きてしまおうか。その場合は夜に眠気が早く来てしまいそうな気がするけど、今夜はどこまで起きているか解らないから一抹の不安が残る。




というのも、今日は彼の休日なのだ。
いつもは仕事で疲れているのもあって、夜帰ってきてから床につくまでに余裕を持たないけど、休みの日には割と夜更かしも平気でする。




夜更かしは休み前にするより休みの日、つまりお仕事の前日にしてしまうのが彼流である。
そういう目先の欲に勝てないお馬鹿っぽさも可愛いげがあって嫌いじゃない。




そうして少しだけ悩んだのち、隣に寝ている彼が起きないようにゆっくりと身体を起こした。


布団を出来るだけ揺らさないようにこっそりとベッドを出て、それから起きてしまっていないか確認のために彼の顔をじーっと見る。




「………………」




動くそぶりを見せない眉。
浅い寝息に、無防備に緩んだ頬は何かいい夢でも見ているのだろうか。




ともあれ大丈夫そうだ。今のうちにそそくさと部屋を出てしまわなくては、とも思ったのだけどやっぱりその顔をもう一度観察する。




こうして彼の寝顔を眺めていられる穏やかな時間を、この胸の熱を。いったいどうして言葉に直せるだろうか。




そんな風に思ったら変に顔がにやけてしまって、今度こそ静かに部屋を出た。














温めた寒天にこし餡を混ぜたものをタッパーに分け、氷水を溜めたフライパンに並べておく。




その横で茹でたキュウリを塩水に浸けたり、トーストにベーコンとチーズ、ケチャップ&マヨネーズを乗せていく作業を繰り返しながら朝を待つ。




簡単な作業を繰り返すのは嫌いな方ではない。


というか、慣れた作業なら客観的には難しいものでも苦には思わない方である。
多分誰しもそういうものとは思うけど、こういうのを億劫に感じたりするかどうかは手が頭より慣れてしまっているかどうかだ。


私に限って言えば、『少しの手間で作れる、タイミングを選ばないもの』を用意する作業は特に好きだったりする。
具体的にはあれです、PSO2でいうところのギャザリングとか←




お茶におだしを混ぜて味を整え、ポットに置いておく。




それから蒸した鮭の身をほぐして、それはお皿にラップをかけて冷めるまで放置。。
最後に浸けてたキュウリを揉んで水を切って、朝ごはん準備は完了っと。

後はせいぜいお茶漬けにして出す前にお米を酢飯にするかどうか、あとわさびとかごまはお好みで、って感じで。
寒天という名のようかんは空いた時間にお出ししましょう。




あとはそーだなー、お昼にお素麺とか茹でるならつゆを少し遊んでおこうかな?
茄子の煮付け的なものがあるのでシンプルにめんつゆを使って茄子投入!もいいのだけど、色々合わせてゴマだれ風味も捨てがたい。和風のめんつゆにオイスターソース混ぜてごま油垂らしただけの手抜き遊び心も好評だった。


やったことはないけど和風なトマトめんつゆ?なるものもあるらしい。たまにはそういうよそのレシピも取り入れてみるべきだろうか。




と、ふと窓から明るいものを感じて外を見る。
まだ外は暗いけど、少しずつ明るくなってきているようだった。何だかんだと時間は経っていたらしい。




「……さて」




ごちゃごちゃした台所を改めて見直して、誰だこんなに散らかしたのは!みたいな脳内ツッコミは総スルーしておいて。。。




あとは彼を何時に起こすか、なのだが。
現在時刻は早朝5時。さすがに今からというのもまだ早い。




必要な睡眠時間を8時間と仮定するなら、起床時刻は9時半になる。
いや、それは先に彼が起きてきそうだ。そもそもお休みの日になると元気になって早起きするのもあの人の可笑しな生態である←




なら少し早めに、7時頃にでも起こしてみようか。
もし眠たそうなら無理に起こさない方針で。起きても一応の睡眠時間は確保しているだろうし、そのくらいがいい案配だろう。






台所回りを片付けてから居間に戻って、FGOの周回をしながら時間を待つ。




そうして一人で鳥の鳴き声に耳を傾けていると、ふと昔のことを思い出した。






ここに来てしばらく。まだ一緒に暮らし始めたばかりで、私もあんまり彼にデレていなかった頃←
仕事柄家にいる時間が短かった私は、彼に食事の用意などをさせてしまうことが多かった。




そもそも当時の私はお料理だなんて一切触ったこともないようなド素人で、学生時代から達者だった彼に教わっていた立場だったのだから当然と言えば当然なのだけど。
それでも、二日のうち一日は家事をこなしながら自分は自分で学校に通いつつバイトもしていた彼を見て、罪悪感みたいなものを覚えていたことは記憶に残っている。 






……今になって思えば、きっと余裕がなかったのは私だけではなかったのだろう。彼は彼で、自分の立場に必死だったのだと思う。
ただ、お互いにお互いを頼らなかったから感じ取れなかっただけで。




それとも彼には私の弱味が見えていたのだろうか。だからあんなに良くしていてくれたのかと思うと、また一つ借りを感じてしまう。
しかし少し考えただけでまだ借りなんてものがあるのか。こんなもの、あるだけ重いだけだというのに。




まぁ、そんなあたふたしていた昔も越えて、今はこうして落ち着いていられるのだから良いのだろう。




彼も私も、今はお互いのあり方に理解を示して落ち着いている。
納得しているかはまだ別かもしれないけど、不快には思っていないはずだ。




彼は私を必要として、私も彼を必要とする。


何より解りやすい、簡単な相互関係。その中身はさておき、そういう前提がある限り私も彼もお互いを蔑ろにしたりはできないのだから。








まだ起こす時間には少し早い。




お目覚めのご挨拶には何がいいだろうか。
とりあえずやっぱり、『おはようございます、ご主人様(はぁと)』だろうか。いや、それが言いたいからこうして時計とにらめっこしてるんですけど!←




そう、こうして早くに起きて構えているのも、寝ている彼のベッドの横から覗き込むように絶妙な角度でその決め台詞をかますためだけと言っても過言ではない。
我ながら割とアホの子だとは思ってます、やっぱり寝不足なんじゃないでしょうかこの人()





脳内でその寝起きドッキリ良妻アピールのシミュレーションをしていると、またついにやけてしまってかなわない。




でもほら仕方ないじゃないですか!だってご主人様に不意うちするの楽s「早いな、おはよう」もんあっはいおはようございます!




「……………………………………え?いや、え?」




寝室へ繋がる戸の前にいつのまにか立っていた人影に、思わず二度見する。




「え?な、なんだ??」




聞きなれたイケメンな声。
見慣れたイケメンな姿。




そこにいたのは、間違いようもなく愛しのご主人様その人で。。。








だから何でこういうときに早起きするんですかご主人様のバカーー!!!




「うわーりーふじーん!」