ぷしーっというマイルームのドアが開いた音がして、そちらの方に振り返る。
どなたかと思えば、ドアの前に立っていたのは日頃から私が良くして頂いているアークス仲間の一人、結月麻白さんだった。
「おや、ようこそいらっしゃいませ!」
とりあえず立ち上がって、まずはそう挨拶をしてみる。
が、どうにも様子がおかしい。いつも明るく天真爛漫な彼女が何やらうつむいているようだし、よく見ればふるふると肩を震わせている。
どうかしたのだろうか。ちょっと駆け寄ってみると、彼女は不意に伏せていた顔をきっと振り上げて、
四季「んー違うんじゃないですかね!!」
冷たい!!とスピードツッコミ入れながら私の肩をぽかぽか叩いてくる麻白さん。。。
いえ、なんかどーにもこれはギャグ路線の予感がしたもので、こういうノリでいっかなって!←
麻白「そ、そう言わずに聞いて四季さんー!!レインが、レインがね……、」
レイン、という名前に思わずケモミミがぴくっと反応する。
レインさんと言えば、いつも麻白さんの傍にいらっしゃる御仁、というかもう彼氏??みたいな方だったように記憶している。はよ結婚しろぉ!
その名前がここで出るというのは、もしや同じ女として何か助力になるべき事態でも起きてしまったのだろうか。
麻白「レインがにゃるさんと浮気してたのぉ!!!」
四季「あっ(察し)(これは100%レインさん被害者だわー)(で100%にゃるさん加害者でわー)()あーの女将そろそろどなたか退治して下さいませんかね」
麻白「四季さん最後の()から外れてるもうっ、だから聞いてよー!!
さっきね、にゃるさんとこのキャス娘さんの、ルーニャさん?に呼ばれてにゃる庵に行ったらね?
何かにゃるさんがレインに、その、のし掛かってて、しかも、キ、キs……っ、…………的な!的なこと!してて!!」
四季「とりあえずお座りくださいな。。。
で、どなたを呪い殺せばよろしいんでしたっけ??(満面の笑み)」
麻白「え、いやそんな話しはしてない(真顔)」
四季「まぁ謙虚。じゃなくって、レインさんが浮気だなんて、またまたそんなぁ。。。
大方、レインさんがにゃるさんの悪趣味に振り回されたのでしょう?そのようなことは、麻白さんが一番解っていらっしゃるでしょうに」
さぁさぁ、ともう一度手を座布団に向けて促すと、苦い顔をしながらも素直に腰を掛けてくれる麻白さん。
……そのリアクションに、内心で胸を撫で下ろしたのはまた別のお話。
いや、四季もまさかレインさんが本気で麻白さん以外の方とそういう感じになるとは全く信じていませんでしたけども、一応というか。
麻白「……た、たしかにその、レインの本意ではない感じなのかな……とは、思ったけど……。
……むぅー。四季さん、今日は何か優しくなさげ……???」
四季「い、いえそういうつもりではないのですが!まずは麻白さんがどういうノリなのか、確認したかったと申しますか。。
何か変なところを覗いちゃったから、これ幸いと日頃のあれこれとか愚痴ったりのろけたりしにいらっしゃったのでしょう?
ええ、四季でよろしければお聞かせくださいな」
私も習うように腰を下ろして、それからニコニコ笑顔でそう答えてみる。
が、彼女はさっきよりもっと苦い顔になって、困ったように口を閉ざしてしまった。
四季「ふふ。麻白さんも大変そうですけど、レインさんも大変ですねぇ。大した愚痴も出てこないのは、日頃から麻白さんの方が言われる側だからと見ました」
麻白「う。そ、そんな風に言われたら、愚痴るものも愚痴れないだけで……!いや、、いつも鬼ごっこしてるけど……。。。
うー。あー。でもやっぱりムカつくー!!」
その様子に、ついくすりと笑みがこぼれてしまう。
が、やっぱりそれが不服なのか、彼女はじーっとこちらを睨み付けてこられていた。。
四季「あ、あははは……(目そらし)
……まぁお話の顛末はさておき、せっかくいらっしゃったのですから、今はゆっくりお茶とお菓子でもいかがですか?
頼れるケモミミ相談室はお茶菓子片手にでもできますし」
腰をあげると、ありがとう!と明るい笑顔で喜んでくれる麻白さん。
それにこちらも笑顔で返してから、くるりと踵を返して台所に向かった。
お茶を用意しながらお菓子の在庫を確認する。
どうやらあまり備えがあったわけでもなく、棚にあったのは桜餅とお煎餅。
どちらもお茶には合うので良いけれど、そういえば麻白さんの好みを聞いていなかったので他の選択基準を探す。
……さて。今回のお菓子には桜餅が良いだろうか、それともお煎餅がいいだろうか。
少しだけ悩んでみて、変な笑いが溢れてきたところで思考を止めた。
うん。本当は甘いものの方が好きだけど、今回限りはお煎餅だろう。
◇◇◇
ロビーを歩いていると、がしっと手首を掴まれた。
いきなりのことに、不用心にもそのまま振り返ってしまう。
そしてその、私の手首をつかんだ相手と顔を見合わせる。
和風な出で立ち。開いた胸元。およそ私と近しい青い短髪。
そこにいたのは、どうにも見覚えのない男の子だった。
「あ……えっと、すみません。麻白と……いえ、人違いでした……」
ぱっと手を離して、咄嗟に頭を下げてくる男の子。。
それは良いけど、今聞き覚えのある名前を口にしたような。
魔女四季「麻白さん?結月麻白さんですか?」
思わずそう聞いてしまうと、男の子ははっと顔を上げる。
そうか、そういえば今私が着ている和服は彼女のそれと同じものだ。
背丈も近いし、後ろ姿は確かに似ていないこともないかもしれない。
「そ、そうですけど……、麻白の知り合いですか?」
魔女「ええ、まぁ。となると、そちらはレインさんですか?お噂はかねがね」
かねがねって何を、とか苦い笑いで肯定するレインさん。
そんな彼を、今度はこちらからじろじろと観察してみる。
レイン「え、あの……みません、じゃあ急いでるのでまた」
魔女「まぁまぁそう言わずに。あとタメ口で構いませんよ。
……で、麻白さんを探してるんですって?手伝いましょうか?」
そう言うと、振り返りかけた足をピタリと止めるレインさん。
なんて素直な子。これは良いカm、じゃなくて、回りに翻弄される苦労人タイプだなー、と直感した。いえ、魔女的に。。。
彼は不思議そうな、ちょっと疑ってるような顔で私を見る。
まぁ確かに、善意でそういうことを言うタイプには見えなかっただろうし、実際そうでもないから疑われるのは当然だろう。
ひとまず、何も取って食ったりしませんから、と両手をひらひらさせて弁明しておいた。
魔女「良い顔の男が息を上げて女を探していると言うのです。そういう時助け船を出すのは、良いタイミングで現れる魔女だと相場が決まっているでしょう?
それとも、魔女の言葉は信用なりませんか?」
レイン「……魔女を自称する人を信用しろって言うのも難しい気がするけど。
で、もしかして今どこにいるか知ってるの?」
魔女「いえ、それはさすがに知りません。。
ま、多少の足しにはなりますよ。ちょっと待っててくださいね」
そう言って、アークス特有の中空にぱっと現れるあの変な端末で四季ーずに連絡を試みる。
魔女「見つかりましたよ」
レイン「はやっ。。。」
驚き半分呆れ半分。いや、私もそうですけども。。。
しかしまぁ見付かったのならいい。さて、と端末を閉じて歩き出す。
私に続いて、彼もちゃんと付いて来る。
彼が隣まで来たところでちょっとその顔を覗いてみると、しかしどうにも表情は浮かばれていない様子だった。
……男と言うのは、これだからいけない。
自分に非があると認めた時の彼らのリアクションは総じて良くない。まるでそれまでの経緯、その全責任が自分だけにあるとでも言うようなナーバス街道一直線。
そんなだから女を付け上がらせるのだと、この手の輩は気が付かない。
まぁ、麻白さんに限ってそういう風にはならないだろうからこの人たちは安泰だろうけど、それでも今から会いに行くと言うのにその顔はよろしくないだろう。
魔女「……そう言えば、まだ事情を聞いていませんでしたね。察するに、麻白さんに何かしたんですか?」
そういうわけでは、と困ったように言葉を探しだす隣の男。
……四季さんの言いぶりからは軽い話かと思ったけど、この子はどうも少し重めに捉えているように感じる。
相手は麻白さんだし、そうそう話が拗れたりはしないと思うのだけど。
レイン「…………何か、呼び出された先で女の子に押し倒されて、そこをちょうど部屋に入ってきた麻白に見られて逃げられた…………」
魔女「……………………………(イラッ)」
レイン「な、何で君が怒るんだよ!?
い、いや一方的にやられただけで、こちらからは全然してなくて……!」
魔女「………………男という、生き物は………………」
レイン「うわぁ何か変なスイッチ入ったよ……」
レインさんの冷めた声にはっと我に返る。
危ない危ない。危うく彼女のもとに送り届ける前に、冥界ツアーに連れていくところだった。。
レイン「勘弁してよ……今日は厄日か何かなのかな……?」
魔女「何を言うかと思えば。こんな可愛くも色香漂う魔女を隣に歩かせておきながら、言うに事欠いて厄日ですか?
……と、普段ならからかうところですが、今日はお疲れっぽいのでよしときましょう。気苦労が耐えませんね」
どうも、とため息をつく苦労人。
疲れたリアクションしかできない相手をいぢめても楽しくありませんしね。
レイン「その基準だと麻白はすごく楽しい対象になりそうなんだけど、いじめたりしてないだろうね??」
魔女「さてどうだか。麻白さんにお聞きしたらよろしいんじゃありません?」
ふふ、と悪役っぽく笑ってみせる。
それを不服そうに睨んでくるレインさんがまたおかしくって、余計に笑ってしまった。
そんな雑談を交えながら歩いていると、すぐにマイルームにたどり着いた。
さて、言いたいことは頭に並べてあるだろうか。
確認の意味で彼の顔をもう一度覗いてみると、案の定というか、緊張ぎみに顔がこわばってるようだった。。。
扉一枚を隔てた先に彼女がいる。
その壁を前に、今さらになって思い悩む。
まぁ、きっといつもとは違う趣向の追いかけっこになっているのだろうから、慣れないものは無理もないけど。
はぁ、とため息。
まぁ、ここまで来たんだし、最後の一押しも私の仕事か。
魔女「/hisohiso ほら、早くお行きなさいな。私は下がりますから」
レイン「/hiso い、行くけど、何を言おうか考えてるんだよ、少し待って……」
魔女「そんなの『誤解だ!俺はお前一筋だ!!今日が俺たちの結婚記念日だ!!!』で良いでしょうに、なーにを悩むことがありますか」
レイン「言うかぁそんなの!つくづく思ってたけど君楽しんでるよね!?」
魔女「何をそんな当たり前のことを、ついでに麻白さんにフラれて爆発四散してくれたらさいこうに楽しいですのでさぁごー!ゆーきゃんどかん!」
レイン「どかんってなn、って何でそこでマロン構えるんだよその右手降ろして!」
魔女「つべこべ言わずにこれをぶん投げられたくなければはよ行きなさい!」
幼女「こらぁ人んちの前で騒いどるのはどこのすかぽんたんかぁ!!」
魔女、レイン「うわぁ!?」
突然背後からした声にびっくりしてハモってしまう二人の青髪。。。
振り返ると、そこにいたのはうちのイタズラっ子代表、謎のケモミミ幼女。
単に脅かして面白がりたかっただけなのか、その場でからからと笑っている幼女を見て、つい魔女っ子らしくもなく右手で握りこぶしを作ってしまっていた。。。
──あ、まずい。
握りこぶしを作った右手を見てハッとする。
さっきまでこの右手に持っていた危険物。
驚いた拍子に右手からポロリと転がり落ちた、今まさに床に着弾しようとしている丸いペットを三者共に視線だけで追いかける。
レイン「ちょっ……!」
魔女「まっ……!」
幼女「あっこれ無理なパターンだ知ってますよ幼女は詳しいんです爆発オチって言うんですよねこういうの決め台詞があるんですよ皆さんでさんはいせーの、爆発オチなんてさいt──
◇◇◇
ぽかん、というちゃちだけど大きな爆発っぽい音に、二人してドアの向こうを見る。
麻白「ん?なんだろ」
四季「変な音しましたね?ちょっと見て参りましょうか」
麻白「じゃ私も!」
すたすたと歩いて、二人並んでドアを開ける。
そこにいたのは、今の音の原因らしい倒れているペットが一匹。
そして同じく倒れている二つの人影……いや、正確には三人。
片方はヤムチャしやがって……みたいなポーズで死んでるうちのバカ幼女。
そしてもう片方は仰向けに倒れているうちのアホ魔女と、
その上から、その魔女さんの胸の谷間に顔突っ込んで死んでいるレインさんらしき後ろ姿だった。
四季「……………………………」
麻白「……………………………」
魔女「………………あの。その。すみません。これには深遠なる闇よりも深ーい訳が、あって、ですね…………。。。
ほら、マロンがね?爆発しましてね?飼い主の私はともかくそりゃ皆死ぬよねって言うかね?
ひとまずこの方をどかしてあげられませんか、ムーン使ってあげられませんか、さすがの私もちょっとこれは恥ずかしいのでできれば早く!お早く!」
ばたばたしようにも乗っかられて身動きができないでいるらしい魔女さんは放っておいて「おぉいおかしいでしょそこぉ!?」、ちらりと麻白さんを覗いてみる。
四季「ひっっっ」
麻白「四季さん」
四季「は、はい!」
麻白「さっき、誰かを呪い殺せるとかなんとか言ってましたよね?」
四季「よーっし落ち着けましろん!闇堕ちフラグ立ってない、立ってなーい!」
魔女「いーからはよムーン使って下さいよそこのテクタぁーー!!」