澄み渡る青空。




白い景色に舞う桜。




のどかな、どこか私達には馴染みのある気がする雰囲気の惑星、ハルコタン。白の領域と呼ばれる地域。




……良い景色だ。絵になるとでも言おうか。




何せその景色が広い。
見晴らしの良い場所があり、家屋があり、水が流れ、見事な橋と桜が並ぶ。
遠くにはけったいな城があるし、山も見える。




細々と暮らす有象無象の工夫と趣味趣向がここにはある。
いや、ここの生き物は多少私達とは形が違うようだが。それでも考えることに大差はなかったのだから、どちらも同じようなものだろう。




……この場所は、きっと良い酒盛りスポットだ。今度彼を誘って、ここで二人で飲んでみようか。


きっとこの景色の前なら、あの口の固い男も日頃の不満の一つや二つ漏らすというものだろう。
それを想像したら俄然乗り気になった。静かな場所が好みと聞いたし、きっと彼も気に入ってくれる。




と、きん、と弾けとぶような鉄の音にふと意識を戻されてしまった。




……そうだった。現実逃避も程ほどにしなければ。




その静かなる素敵スポットには今、空気の読めない二人の獣が睨み合い、覇を競い合っているのだった。








きぃん、と一際鋭い金属音がして、勝敗が決する。




「……!」




驚きと確信が交差する。いや、双方に起きたものか。




体勢を崩された黒髪の首もとに相手の短刀が突き付けられたところで、そこまで、と遠くから声を掛けた。


無論、相手の白髪は私の声を待たず止めてはいたのだが。お決まりの定型句とかはあって然るべきというか、あると空気が出るだろう。




「…………」




黒髪の首もとに向けた右腕はそのままに、一歩、二歩とゆっくり距離を空ける白髪。
そのまま3歩下がったところですっと腕を下ろして、ふぅ、と小さく息を漏らした。




対する黒髪もそれを見てからようやく、はぁぁ、と肩を落として猛烈なため息。。
眼鏡なぞつけているから距離感覚がおかしくなるのだというのに、馬鹿者め。




猫四季「……負けました」




白四季「ええ、勝ちました」




ふふ、と得意気に白髪が笑ったところで最後の緊張が溶け、二人はようやく刀を鞘に納めた。




四季御前「ふむ。ご苦労」




二人が空気を緩めたのを見てとりあえず労っておく。




偉そうに、とこちらを睨んできたのは短刀を使っていた白髪、こと白四季。




そんな白四季にか、それとも私に対してか苦笑いを溢しているのが黒髪、こと猫四季。ちなみにこちらの武器は典型的な日本刀。




そうだ。今私は、この対照的な二人の打ち合いを何故か見守ることになってしまっているのだった。




「ねぇ、貴方ちゃんと見てた?」




そんな私の胸中を悟ってか、白髪は腰に両手を当てて不満たらたらな顔でこちらを見上げている。
私は、一応な、と半分くらい本心で返したが、それでも彼女は不服そうだった。




「そう可愛い顔をするな。そもそも見ていなかったら何を困るというのだ。
私は貴様らの戯言に付き合ってやっているだけのボランティアだぞ?期待通りの仕事をしてほしいなら貢ぎ物を寄越せ。それで対等だ」




ぴょんと屋根から降りて、二匹の前まで歩み寄る。
目線を合わせてやったつもりだったのだが、ふん、と白髪はそっぽを向いてしまった。




「……あの、どう、でしたか?軽く打ち合ってみましたが、感想というか……」




その横からおずおずと訊ねてくる謙虚な黒髪。
ふむ、感想な。




「児戯に等しい。笑い話にもならん、あれでは芸にしか使えまい。正直なところ見るに耐えず、つい現実逃避に埋没していた。
貴様ら、私をバカにしているのか?それとも謀っているのか?というか本当に私と同種の生き物か?」




「だからこいつに聞くのは止そうって言ったのよもう!!」




突然キレ出した白髪。。。落ち着け、小魚いるか?




「そっ……そんなに言いますか!?こう言うのはなんですが、見劣りはしてもそんな歴然の差みたいなのはないと思います!」




黒髪も珍しくがぁっと食って掛かってきた。なんだ、そのくらいの勢いが出せるならもう少し刀も速く振れように。




「あのな。児戯は児戯だ。
貴様ら、本番でなければ本気になれんとか抜かすアレか?今のお遊びから何を見て何を言えというのか。
もう少し殺す気でいけ。当たっても最悪死ぬだけだ、気にするな」




「いや殺すのはまずいですからね!?




「そのような重い命で刀なぞ振れるか。今日か明日かの差であろう、何が変わる




ぽかん、と黒髪は呆気にとられてしまっている。
白髪も白髪で、はぁぁ、と深いため息。今日はよくため息を聞くな。






『戦術について、指導していただけませんか』




そう私に乞うてきたのは黒髪だった。




今にして思えば頭が痛いことが、戦術と聞いて私は了承してしまったのだ。
まさかそれが、このような緊張感のないチャンバラ遊びを指して言っていたとは思わなくって。




この二人は前から何だかんだと仲が良いのか、たまにこういう風に遊んでいるらしい。
片やBr。もう一方もBr。気が合うのはそれ故か、はたまたキャラクターの相性か。
ともかく、こいつらはこいつらなりに剣術を磨こうと切磋琢磨する仲間のようなつもりでいるのだろう。




だが戦いとは殺しだ。
殺しとは命を掠め取るもの。あるいは盛大に散らすもの。そもそも、 この子らのような澄んだ瞳の少女が身をおくべき世界ではない。
命とは元より散るものだ。そこで初めて価値が決まる。死ぬ前の人間に値はつけられないものだし、死に場所や死に方を求めるから人は生きる。


それをこの子らは解っていない。人の希望や生活、営みは、殺しや死とは別のところにあるものだと考えているのか。
生きるということは死ぬということ。何より単純で明快なその理屈を、当事者でありながら知らないのは戦士としてさすがにどうかと思うのだが。




……しかし、期待されている働きをしないのではわざわざご指名を貰った信頼を裏切ってしまうというもの。それはそれで不義理ではあるか。




ちらり、と二人を交互に見比べる。




今度は黒髪が不服そうにほっぺを膨らまして可愛いなこいついるが、白髪は片目でじっとこちらを見ていて、どうやら次の言葉を待っているようだった。




我ながら小バカにしすぎたとは思ったが、それでもこちらの意見に耳を貸す気はあるのだな。悠長なのか、それともそれだけ妙な信頼を得てしまっているのか。




ふう、とゆっくり息を吐く。




それからおい、と黒髪に声をかけて、彼女との間が五、六歩分ほど空くように下がった。


そして、背中に担いだ黒い剣を抜く。




「!」




黒髪はさっと刀を抜いて前に構える。白髪は下がって、少し離れて見学に。
いつもの抜刀の形に構えるかと思ったが。まぁそちらの方が安心か。




「さて。今から貴様の首をはねるのだが」




はい!?」




「聞こえなかったか?殺すから死ぬなと言った。安心しろ、首しか狙わん。だが首は狙うぞ。
ああ、それと白いの。貴様も下がっていないで混ざれ。二人がかりなら、どちらかが追い詰められても横槍を入れられるだろう?」




さっきまで多少は余裕な顔を見せていた白髪もこれには、信じられない、とか呟きつつ短刀を抜いて前に構える。


黒髪は黒髪で、じ、冗談ですよね……?なんて構えた刀をガタガタ震えさせながら可愛いリアクションをとってくれる。




「制限時間は、そうだな。一日……いや、とりあえず数時間程度にしておくか。三時間としよう。ボランティアだし。
貴様らは時間一杯逃げ惑っても良いし、二人でお互いをフォローしながら凌いでも良いし、なんなら私を討ち取っても良い」




「ま、ままま待ってください!ですからどうしてそう極端なんですか、御前さんは!!」




今すぐにでも始めてしまいそうな私の雰囲気を察してか、黒髪が懇願めいた悲壮な声で叫んでくる。
うんうんと白四季も頷いているが、あちらはもう諦めてるな、あれ。




「貴様らに足りないものはなにか、考えを巡らせてみた結果がこれだ。
私も、貴様らの技術は認めている。動きは言うほど鈍くもない。特に小手先は十分だ。貴様ら揃いも揃って、よくも小賢しい手ばかり身に付けている。

だがそれだけだ。それ以外のすべてが足りない。まずは身体を張れ。
コツとしては、死ぬまで油断するな。
疲れきっても絶対に速度を落とすな
腕が落ちたら足を使え。
こんなところで死ぬくらいなら殺せ。
以上だ。
あ、準備運動はしておけ。痛めてしまうと問答無用で動きは鈍る。
実際疲労だけならなんとかなる。が、体当たりは流せよ。受け止めていたらさすがにもたんぞ」




「ナチュラルに親切なところが、やっぱりナチュラルに殺る気まんまんなんだなって再確認させてくれるわね……」




当然だな。私は嘘は言わん。まぁ、かといって真実殺す気かと言われれば別なのだが。




とはいえ先程まで二人は遊んでいたし、運動が必要なのはこちらだけか。
とりあえずブンブンと片手で剣を振り回しながら、手、足、首と順番に全身に筋を伸ばしていく。




そんな私を見て、じり、と息をあわせて後ずさる二人。
ようやく二人の緊張が高まってきたところで、さて、そろそろ良いだろうか。




「狙うは首のみ。そして二体一だ。手加減は不要だな?

ではいくぞ。精々死ぬまで足掻くが良い」
















はい、メンテの日なのでSSを書く!のコーナー!
四季ーずの日常、とある日の出来事?的な感じのお話でしたー!

こんな日常嫌だなー




その後、マイルームに帰ってきた猫四季さん白四季さんはどこかやつれていたそうな……←




御前さんは結構極論タイプなので、大概の正論では動じないお方なのでした()
一応フォローしときますと、口では苛烈なことを平気で言っちゃいますけど、実際にできるかというとちょっと戸惑っちゃうくらいの可愛いげはあるはずです……
たぶん。
きっと。。
おそらくは。。。