「今週は、わがままだったか」
突然。彼はぽそりと呟くようにそんなことを言ってきた。
その根拠というか意図というか、出どころがわからなくて、とりあえず目だけで彼を見つめて、『続けてどうぞ』という意思表示をしてみる。
彼はそんな私に気付いているのかいないのか、器に揺れるお酒をただじっと見つめていた。
……どことなく、耳が赤みを帯びている気がする。今日はそこまで呑んでない気がするけれど、もう回ってきているのだろうか。
こちらを見て言わないことから察するに、今のは独白か何かのつもりだったのだろうか。
私はそんな風に思わなかったけど、自分では思うところがあったというのなら許したり慰めるのは嫁の務めか。
「……お酒、お注ぎ致しましょうか」
まだ空になっているわけでもない容器を覗いて、私は問う。
意訳、『ぐいっと酔っぱらって吐くもの吐いてみますか?』
私がお酒に手を伸ばそうとすると、いや、と手のひらを立てて止めてきた。
「一応確認しておくのですけど、それは四季のお話でしょうか」
「俺の話。わがままだったなと、思った」
「具体的に、どこのこととか」
「……いや。全体というか、割合というか。空返事が多かったりというか……」
ポリポリとやっぱり赤くなっている頬を掻きながら、彼は所在なさげに目をそらす。
何を言ってるのか解らないけど、この人なりに悪かったと思っていることを謝っている、ということらしい。
自分のために謝罪をする、という精神はあまり見ない。
これはそういう類いのものだろう。やはりこやつ聖人か?なんて頭の中で茶化しながらも口からボケが出ないように、私はこほん、と咳払いをしてから口を開いた。
「で、四季がプンスカしてたんですよコンチクショーって言ったらどうしてくれるんですか???」←
「うっ。。。」
「ここ数日『残業しすぎて時間削られまくったわーい!』っておっしゃるから連休デートキタコレ!!と思いきやいっつもスマホいじってらっしゃるしなー!
お食事中は食事に専念なさいってゆーのにすーぐスマホ開いてFGO始めるしなーーー!!」
「そ、、、それは、、、イベントが間に合わないので、、、というか、、、」
まぁ確かに彼の場合、食事が終わるとすぐに寝落ちしてしまうのでゲームする暇はないんだろうけど。。。
もはや目どころか顔まで全力で逸らして『あわせる顔がない』を体現してくる彼の姿にちょっと笑いが込み上げて来てしまったものの(←)、まぁまぁこっちを向いて、肩を引っ張ってちゃんと身体をテーブルに向かわせてみる(←)。
そうして上目使いというかなんというかよく解らない下斜め横から目線で私を見上げる彼としっかり目を合わせてから、一言。
「顔赤いですよ」
「今日の四季さんいじめっこなんだけど誰か助けて」
「ふへへ助けなど来やしませんま、それは冗談ですからご安心を。。四季はそんな風に思ったりしませんでしたし、多分中々しませんよ。
そもそも四季ですよ?考え方が違うんですってば。不満の二つ三つ、あったとしてもご主人様ポイント(?)のプラス分で帳消ししちゃいます」
「悪いことと良いことは別だろ。どっちが多かろうと少なかろうとどっちもあるもんだ」
「ですから、四季は帳消しにしちゃうんだって言ってるんですから安心してどーぞってんですっ。。。」
む、と返事に詰まったのか口を尖らせて黙ってしまう。
噛み合わない意見と知りながらぶつけるのは少しだけ不安だったけど、不愉快そうにはしていない風なのでほっとする。やっぱりこう、あんまり偉そうに物を言うのは気が乗らないし。。。
「……………やっぱり、お前俺のことよく解ってるよなぁ」
解ってたら苦労しねーです。。。
「まぁ、こう長いことお付き合いしていれば解るものの一つ二つ」
彼は何が可笑しいのか、そうか、と緩んだ口許にお酒を注ぎ込む。
私も習うように、自分のぶんのお酒を一口。
今日のお酒は梅酒である。
甘いのにすっきりしていて飲みやすい、いかにも一般ウケするために癖を撤廃した市販品。。
お酒と言うよりジュース感覚で、これでは酔うにも酔いきれない。
でもまぁ、味の好みでいうなら四季好みではある。
元々苦手なのだ、日本酒だとかみたいなちゃんとしたお酒というのは。それがお酒というものであるから喜んで頂くだけで、お酒を呑むことが好きなわけではない。割とその辺複雑なのです。。
それから、しばらくの沈黙。
お互いに黙ったままお酒を飲み下し、おつまみをひょいひょい口に運んで数分はしたと思う。
沈黙を破るように、はぁ、とため息を漏らしたのはどちらだったか。
「……わからん奴だよな」
「解ってしまえば惜しくなくなってしまうでしょう?自分のお腹の中を隠すのは女の自己防衛なのですよ」
「それははじめて聞いたな」
「適当に思い付きで言いました。。」
それに対する、あ、そう……、という彼の苦笑いで少しだけ空気が緩んだ気がして、
「──で。まだお聞きしていませんでしたけど、今宵のお酒は如何ですか。」
彼は一度、ふむ、と考えるような仕草をしてからまたお酒を一口。
そうして味を確かめたあと、改めてこちらに向き直した。
「……俺に酒を問われても解らん。。」
でも確かめたんだ
「さようで。。。」
くすり、と一つの笑みをこぼして、私もまた一口。
……美味しいお酒ではある。なにより気軽な果実酒なのがいい。こういうのならお酒だからと改まってあんまり色々考えないで好きにやれるし、お酒特有の余計な自問自答も繰り返さない。
いや、それがお酒の良いところでもあるので余計ではないのだけど。とにかく、こういう気楽なお酒もあっていいだろう、ということ。
「気安いお酒です。反省だのなんだのは棚に置いてもよろしいでしょう。
四季的にも、ご主人様から頂くものでしたらこれはこれで好みますよ」
「酒なんてのは自問するために飲むようなもんだろ。」
いやまぁ、だから最初の質問がこちらに飛んできたのだろうけど。。
でもそういうのは不要だ。私は私のためにそういう持論を展開するけど、それは自分用であって他人に対しても求めるようなものではない。
「難しいことは考えず、好きにやっちゃえばよろしいかと思いますけど」
「まあ、そうだけどな」
彼はそう前置きしてふとテーブルを、それから私の手元を見る。
テーブルにはほとんど空になった器たち。
私の手元には、次がれた中身がまだ半分くらい残ってる升みたいプラスチックの安い容器。
ふう、と一つ息を吐いてから、一言。
「でも、お前には付き合うさ」
私の方を見るでもなく、やっぱりぽそりと呟いた。
…………平行線だ。さっきからお互い噛み合わないし、結局がうまい落としどころも見いだせない。よくくっついたなーこの人たち←
だけどだからこそ未来があると思うからいとおしい。
人同士の関係、解り合えてしまえば終わったようなもの。以心伝心も結構だけど、私と彼についてはこれで良いだろう。自分で言うのはなんだけど、彼を汚してしまうのは本意ではない。
緩やかな時間。甘やかな時の流れ。
いずれ泡沫のように消える夢物語ではあるけれど、それを儚いと憂いさえすれ、無意味とは思わない。
……不本意だけど。『今この胸にある想いだけは本物だー』的なありきたりな締めくくりが脳裏をよぎって、不覚にもちょっと笑ってしまった。。
「……ここまでだな。ここにあるのを片付けたら、もう休もうか」
「はい。でもお休みの前に、ちゃんと歯磨きしなきゃだめですよ?」
「はーい。。。」←勢いよく手を挙げながらあっかわいい
突然。彼はぽそりと呟くようにそんなことを言ってきた。
その根拠というか意図というか、出どころがわからなくて、とりあえず目だけで彼を見つめて、『続けてどうぞ』という意思表示をしてみる。
彼はそんな私に気付いているのかいないのか、器に揺れるお酒をただじっと見つめていた。
……どことなく、耳が赤みを帯びている気がする。今日はそこまで呑んでない気がするけれど、もう回ってきているのだろうか。
こちらを見て言わないことから察するに、今のは独白か何かのつもりだったのだろうか。
私はそんな風に思わなかったけど、自分では思うところがあったというのなら許したり慰めるのは嫁の務めか。
「……お酒、お注ぎ致しましょうか」
まだ空になっているわけでもない容器を覗いて、私は問う。
意訳、『ぐいっと酔っぱらって吐くもの吐いてみますか?』
私がお酒に手を伸ばそうとすると、いや、と手のひらを立てて止めてきた。
「一応確認しておくのですけど、それは四季のお話でしょうか」
「俺の話。わがままだったなと、思った」
「具体的に、どこのこととか」
「……いや。全体というか、割合というか。空返事が多かったりというか……」
ポリポリとやっぱり赤くなっている頬を掻きながら、彼は所在なさげに目をそらす。
何を言ってるのか解らないけど、この人なりに悪かったと思っていることを謝っている、ということらしい。
自分のために謝罪をする、という精神はあまり見ない。
これはそういう類いのものだろう。やはりこやつ聖人か?なんて頭の中で茶化しながらも口からボケが出ないように、私はこほん、と咳払いをしてから口を開いた。
「で、四季がプンスカしてたんですよコンチクショーって言ったらどうしてくれるんですか???」←
「うっ。。。」
「ここ数日『残業しすぎて時間削られまくったわーい!』っておっしゃるから連休デートキタコレ!!と思いきやいっつもスマホいじってらっしゃるしなー!
お食事中は食事に専念なさいってゆーのにすーぐスマホ開いてFGO始めるしなーーー!!」
「そ、、、それは、、、イベントが間に合わないので、、、というか、、、」
まぁ確かに彼の場合、食事が終わるとすぐに寝落ちしてしまうのでゲームする暇はないんだろうけど。。。
もはや目どころか顔まで全力で逸らして『あわせる顔がない』を体現してくる彼の姿にちょっと笑いが込み上げて来てしまったものの(←)、まぁまぁこっちを向いて、肩を引っ張ってちゃんと身体をテーブルに向かわせてみる
そうして上目使いというかなんというかよく解らない下斜め横から目線で私を見上げる彼としっかり目を合わせてから、一言。
「顔赤いですよ」
「今日の四季さんいじめっこなんだけど誰か助けて」
「
そもそも四季ですよ?考え方が違うんですってば。不満の二つ三つ、あったとしてもご主人様ポイント(?)のプラス分で帳消ししちゃいます」
「悪いことと良いことは別だろ。どっちが多かろうと少なかろうとどっちもあるもんだ」
「ですから、四季は帳消しにしちゃうんだって言ってるんですから安心してどーぞってんですっ。。。」
む、と返事に詰まったのか口を尖らせて黙ってしまう。
噛み合わない意見と知りながらぶつけるのは少しだけ不安だったけど、不愉快そうにはしていない風なのでほっとする。やっぱりこう、あんまり偉そうに物を言うのは気が乗らないし。。。
「……………やっぱり、お前俺のことよく解ってるよなぁ」
解ってたら苦労しねーです。。。
「まぁ、こう長いことお付き合いしていれば解るものの一つ二つ」
彼は何が可笑しいのか、そうか、と緩んだ口許にお酒を注ぎ込む。
私も習うように、自分のぶんのお酒を一口。
今日のお酒は梅酒である。
甘いのにすっきりしていて飲みやすい、いかにも一般ウケするために癖を撤廃した市販品。。
お酒と言うよりジュース感覚で、これでは酔うにも酔いきれない。
でもまぁ、味の好みでいうなら四季好みではある。
元々苦手なのだ、日本酒だとかみたいなちゃんとしたお酒というのは。それがお酒というものであるから喜んで頂くだけで、お酒を呑むことが好きなわけではない。割とその辺複雑なのです。。
それから、しばらくの沈黙。
お互いに黙ったままお酒を飲み下し、おつまみをひょいひょい口に運んで数分はしたと思う。
沈黙を破るように、はぁ、とため息を漏らしたのはどちらだったか。
「……わからん奴だよな」
「解ってしまえば惜しくなくなってしまうでしょう?自分のお腹の中を隠すのは女の自己防衛なのですよ」
「それははじめて聞いたな」
「適当に思い付きで言いました。。」
それに対する、あ、そう……、という彼の苦笑いで少しだけ空気が緩んだ気がして、
「──で。まだお聞きしていませんでしたけど、今宵のお酒は如何ですか。」
彼は一度、ふむ、と考えるような仕草をしてからまたお酒を一口。
そうして味を確かめたあと、改めてこちらに向き直した。
「……俺に酒を問われても解らん。。」
「さようで。。。」
くすり、と一つの笑みをこぼして、私もまた一口。
……美味しいお酒ではある。なにより気軽な果実酒なのがいい。こういうのならお酒だからと改まってあんまり色々考えないで好きにやれるし、お酒特有の余計な自問自答も繰り返さない。
いや、それがお酒の良いところでもあるので余計ではないのだけど。とにかく、こういう気楽なお酒もあっていいだろう、ということ。
「気安いお酒です。反省だのなんだのは棚に置いてもよろしいでしょう。
四季的にも、ご主人様から頂くものでしたらこれはこれで好みますよ」
「酒なんてのは自問するために飲むようなもんだろ。」
いやまぁ、だから最初の質問がこちらに飛んできたのだろうけど。。
でもそういうのは不要だ。私は私のためにそういう持論を展開するけど、それは自分用であって他人に対しても求めるようなものではない。
「難しいことは考えず、好きにやっちゃえばよろしいかと思いますけど」
「まあ、そうだけどな」
彼はそう前置きしてふとテーブルを、それから私の手元を見る。
テーブルにはほとんど空になった器たち。
私の手元には、次がれた中身がまだ半分くらい残ってる升みたいプラスチックの安い容器。
ふう、と一つ息を吐いてから、一言。
「でも、お前には付き合うさ」
私の方を見るでもなく、やっぱりぽそりと呟いた。
…………平行線だ。さっきからお互い噛み合わないし、結局がうまい落としどころも見いだせない。よくくっついたなーこの人たち←
だけどだからこそ未来があると思うからいとおしい。
人同士の関係、解り合えてしまえば終わったようなもの。以心伝心も結構だけど、私と彼についてはこれで良いだろう。自分で言うのはなんだけど、彼を汚してしまうのは本意ではない。
緩やかな時間。甘やかな時の流れ。
いずれ泡沫のように消える夢物語ではあるけれど、それを儚いと憂いさえすれ、無意味とは思わない。
……不本意だけど。『今この胸にある想いだけは本物だー』的なありきたりな締めくくりが脳裏をよぎって、不覚にもちょっと笑ってしまった。。
「……ここまでだな。ここにあるのを片付けたら、もう休もうか」
「はい。でもお休みの前に、ちゃんと歯磨きしなきゃだめですよ?」
「はーい。。。」←勢いよく手を挙げながら