──人間、生きていると色んな物に縛られる。




家族。恋人。子供。


学歴。実績。資格。


決め事。約束。見栄。




それはもう、ことあるごとに。








「お疲れさま。頂きます」




もう日付が変わろうかという夕食時。
彼は今日も今日とて、そう言って食事に手をつけた。




「はい、お疲れさまでございます。
召し上がれ、あんどいただきます!」




昨日のお夕飯は、麻婆豆腐、茄子の煮浸し、キュウリの漬け物、トマトとレタスにお吸い物。
うん、どれも手間のかからない物ばかり←


頂き物のスイカとか桃もあるのだけど、これから出したら時間的に遅くなるだろうと思って言うのはやめておいた。




「明日のお時間とか、お聞きしても?」




「朝は10時になる。帰りはまぁ……早く帰ってきたい。。。」




「かしこまりました。。」




端的なやり取り。
まぁ、余裕がない訳でもなさそうで何より。




というのも、先週はいつにも増して随分な長時間労働だったのだ。
お夕食の最中に居眠りすることもしばしばあったり、疲れが見えていたようで心配していたのだけど。
少なくとも、今夜はそうでもなさそうなことに一安心。




「悪いな。時間、とれれば良いんだが」




「いえ、謝ることではありませんから。。
ご無理のありませんように」




ああ、と彼は静かに笑いかけてきて、思わずちょっと目をそらす←








──だけど縛られることがまるっきり悪いことではなくて、それは自分を自分足らしめる矯正になる。


気紛れに意見を変えないとか、身の丈を知るとか、自分の在り方を示したり知ったりするための『大人』らしさを意味する鎖。




その鎖は普通増える一方だが、増え方は人による。
日に何個も新たに縛られていく人もいるし、決まった数本だけしか繋がってなくてそこ以外は自由に立ち回れる大人もいる。
そういうのは鎖の色が違うのだろうけど、まぁそれはさておき。


それはどちらが良いという訳でもなく、どちらが強いという訳でもない。
単に、その人らしさというやつだ。







「しかしヒーロー強いよなぁ……俺、ヒーローメインでいい気がしてきた……」




「クラスの話を言うならまずサブHuで良いじゃないですかって前から「やめろー、言うんじゃないー。。。」




「はい。。。」




……今日は静かにお夕食を済ませる、というノリでもないらしい。
まぁ、たまには良いだろうか。まだ疲れも抜けきっていないだろうし、ちょっとした息抜きの一環にでもなるなら。




「ヒーロー75でとりあえず止めたけど、80にしようかな。グラーシアとか行けるし……」




あ、やっぱり自分の弱さは気にされてたんですか。。。




「グラーシアでは何故か必ず2回死ぬブレイバーこと俺です。」




「グラーシアでは大抵1回死ぬテクターこと私です………」




「ぐっ。負けただと……」




「ご主人様ご主人様。今日はテンション高いですけど酔ってらっしゃいます?」




「酔ってはない。はず、なんだが。」




「酔ってる方は皆そう仰るんですよ……」




「えっ???じゃあ酔ってるかも……?」




「んーご主人様ってばマジ素直すぎ!」









──なら、その縛りに何の意味があるだろう。
常識、良識、正しさ、強さ。
なるほどどれも大事なものだろう。
だけど、それがないから悪ではない。




なら、その鎖に何の意味があるだろう。
引っ張ってみれば痛いばかりで動けない。
無理に引いても、ちょっとズルをして外してみても、そこにはしっかりと絡み付いていた鎖の痕が残っている。
それを隠して自由に振る舞うのは無理がある。




……なら、生きていることに何の意味があるだろう。
そんな極論まで行くと全うな言葉を尽くしていられないのだが、強いて言うなら、
生まれた時に意味は持てなくても、生きていくことに意味を見いだすことはできる。








二人でおしゃべりしながらの食事も、ある程度済むと、彼はふと冷静な声で私を呼んだ。




「はい。」




「明後日と明明後日なんだが。休みにした。」




その言い回しが気になって、目をぱちくりさせて『どういう意味ですか』と訊いてみたつもりが、どうにも目を合わせてくれなくて効かなかった。。




「……と、仰いますのは?」




「うん。ぶっちゃけサボった。
親戚の用事がーとか言って二日間実家に帰る。
つまり俺は明後日明明後日と、一歩もこの家から出ないのでよろしく」




「ぶはっ、あっはっはっはっは!
や、ヤバイ無理です……、ふふふ、ぷふっ、ぷふあーははははは!(←笑い声」




「えっ!?笑うとこ!?
い、いいじゃんかほら、先週ひどかったんだぞ!?ちょっとサボってもいいかなって思ったって……!」




予想外のリアクションだったのか、何かよく解らない言い訳とかしだすご主人様。。


いえ、うん、それは解ってるってゆーか、だから可笑しいっていうか!









──それがその縛り、鎖の正体。
他人から与えられるものであれ、時間で増えていくものであれ、結局それは自分に自分の意味や価値を示すための物なのだ。


誰にだって必要だし、誰にだってなくてはならない。その痛み以外に、何の意味もないものだと知りながら。
だってそれがなければ、人の形をしたただの獣になってしまうから。




本能と対抗する理性、とでも言えば良いだろうか。
理性に従う人間らしい正しさ。
本能に従う人間らしい醜さ。
どちらもあって当然、どちらに寄るかは人それぞれ。良しも悪しもない、そんなのはどっちも等しく人間らしい『可愛げ』だ。
健気なのか愚かなのかっていう差はあれど。










「お前の笑いのツボが解らない……確かに理由が歪んでるけどさ……




「な、何を仰るうさぎさん……。
酷使されたからサボりたいとか真っ直ぐじゃないですか、どこも、歪んでないどころか、超愚直なんですけど……。。。」




「ん……まぁ、歪んでないとしたら、確かに愚直だけどさ、でもそれは……」




恥ずかしさ半分、そんな醜さを自分で言うのは憚られる自制心半分、でも認めちゃってるので言葉につまる、あとその他おまけで色々な感情がどうにも言葉に表せない様子のご主人様。










──思えば、それを可愛げなどと言えるようになってしまった時に、私を縛るぶっとい鎖が一本増えたのだと思う。




誰に対しても他人事で、思い上がった上から目線で、一人一人に興味はないくせにいつからかそういう、人間らしい可愛げに惚れてしまった趣味の悪いこの四季の生きる意味。




自制心の塊のくせに、とにかく優しい良い人の鑑のくせに、
そうしてふとした思い付きでふざけることのできる自由なあなたを見て、人間らしいなって、思っちゃったんです。





その人間らしさを。その、誰にも解ってもらえない弱さを。


私が欲しかった自由を、守りたいなって思ったんです。












「だってゲームしたいんだもん……。
ep5入ってからほとんど一日しかログインしてないんだもん……!そろそろゲーム中毒が……禁断症状が……




「禁断症状とかあるんですかそれ?」





「ご飯が喉を通らなくなる。」




「よっし今すぐゲームしましょうか!!!」





※良い子の皆さんは、こんな理由で仕事をサボっちゃダメですよ☆