電話が鳴った。




ご主人様のスマホだった。おそらく、お仕事の電話だろう。




彼はちょうどお風呂に入っているので代わりに出てあげたいところなのだけど、
「俺が出れない時は出ないでくれ」
と言われているので、何となく一人で苦笑いしながらそのスマホを眺めて見る。




画面に表示される、電話を掛けてきた相手の名前。







――ああ、いつもの女だ 。







はぁ、と言葉にしたようなため息がでる。





○したい。殺し○い、殺○たい殺した○(ry


はっっ。いけない。。戻ってこーい!四季の良妻のお面ー!!




つーか、時刻は深夜1時。ご主人様は明日も朝からだというのに、こんな時間に平気でお電話してくるなってんです。





あの方のお仕事先の仲間に一人、やたらめったらことあるごとにご主人様にお電話かましてくる不埒なお仲間さんがいらっしゃりやがる。




この時間帯にも三日に一回くらいの頻度でかかってきやがってるし、休日に一日中何度も何度もお仕事の相談っぽいことしてくるし、マジウザイノロイコロシテヤロウカコンチクショウ




あれ?良妻の面どこに落としちゃったのかな?←





というか、あの方もあの方なのだ。何一つ嫌な顔しないのが気に入らない。とても気に入らない。。
こんな時間に日課のように電話かけてこられて何も言わないんですか!?つーかかけてくる方がどーなんですかっ!?




いえ、常識とか良識とかそんな正論が通じる相手なら初めからしてこないのかもしれませんが。ぶっちゃけ四季もそういうのはどうでもいいですし。
とにかく、単に、ご主人様に女性がお電話かけてくるのが気に入らない。。。






……そういえば、以前ご主人様にお聞きしたことがあった。


「四季がスカイプとかで他の方とお電話とかしてて、嫌じゃないですか?」


って。




彼は当然のように、


「今のところは。嫌だと思ったらそのときに言う」


と大きな釘をぶっ刺してきたけど、彼自身にそういうつもりはないのだろうからすごいなーと思ったものだった。。




……男性というのはそうなのかもしれないけど。とにかく、気紛れというもののブレ幅を知らない。




いやむしろ、彼らにはそれがあんまりないのかもしれない。
だから平気で、それを「ま、そんなこと俺は思わないんだけど」という前提で口走れるけど、それを聞いている女は堪らない。
その日の気分が悪かったらダメってこと!?って意味に聞こえますから。。




……嘘のつきかたを知っているから、人を信じない。悪い心を持つから、他人にまで悪い部分を見てしまう。




ケモミミさんの悪い癖だ。自分を悪党だと思うからこそ、他人のことが怖くなる。


誰かを信じるということは、その人の『本心』を信じることであって、行動や結果を信頼するものではない。
その人の過ちも許すことを含めていないと、それはただの妄信だろう。
突然勝手に『裏切られたー』とかいって包丁持ち出すのが関の山だ。




だから、簡単に他人は信じれない。
信じちゃいけないのだ、自分の信頼を裏切ってほしくないうちは。




……そう思って、誰も信じられなくなってから、ふと我に返る。
小難しく考えすぎじゃないです??って←






長く放置しているとやがて呼び出し音はふつっと途絶え、私の心には安寧が訪れる。
ふー。イライラしたぜコンチクショウ。。




すぐにご主人様もお風呂から上がって来られて、私は出来るだけ簡潔に電話があったことをお伝えする。




そしてそそくさと逃げるように、お風呂に入っていくのでした。。。









お風呂やら何やらが終わってお部屋に戻ると、彼はちょうどお電話が終わった所のようだった。




「電話、悪いな。ありがとう」




「いえ……」




何もしてないですし。。。




座ってる彼の横に、何となくくっつくように座ってみる。




彼は、え、とか何とか言葉にならない声をあげていたけど気にしない。
そのまま無言で、ちょっと横から寄りかかってみる。




「………なんだ。お腹すいたか?」




「ちがいますーー!!人を腹ペコキャラみたいに扱わないでください!!」




「いや、一気に食べれないだけでお前結構腹ペコキャラみたいなところないか?」




「………たしかにそうかもしれません。」




オナカスイターって呪文はよく唱えてる気がしないでもない。
お腹が変に痛くなって来てから言うようにしてるのだけど、最近はお夕飯が遅いから頻度は増えた気がする。ん?つまりご主人様が早く帰ってこられないせい??←




「そ、それについては悪い……。せめて日付が変わる前にはと思ってるんだが。」




「いえ、冗談です。。
ごめんなさい、今のは四季が悪かったです。」




そう言うと彼は何も返してこなかったので、もう一度横から肩に寄りかかってみた。





………………」





「………………」





「……あ、バッヂほしいなー、期間限定クエストとか、いきたいかなー………」




「んー……もう少しだけこうしたらじゃダメですか……?」




……嘘にならない程度の言葉だけでする、薄っぺらいやり取り。




こういう交渉は嫌いじゃない。恥ずかしくて言えない本心も、抽象的に間接的に教えてくれる。






安心した。あんまりしないこういう甘えに、ワガママも足してみたけど嫌がられたりはしない。
それだけで嬉しくなっちゃったので、今はとりあえずよしとしておこうと、そう思えたのだ。





「………まぁ、良いけどさ。
ところで四季、聞いてほしい話があるんだが。」




「はい、なんでしょうか。」




「さっき電話くれた男の子なんだが、仕事の方で上司と揉めててな。
どうアドバイスとかしたものかと……




「はい?
男の子??
え?
え??
あの名前、男性???」




「えっ???そ、そうだけど……」