1月1日。
時刻は23時半頃だったろうか。つまり、もうすぐ1月2日になろうとしている頃。
私と彼は、二人で初詣に来ていた。






暗い町並みと空気はどこか引き締まって、澄んだ雰囲気を醸し出している。
普段この時間なら、道を見渡せば一人は人が歩いているものだが、今はどうも見かけない。やはり家族で集まっていたりとかするのだろうか。




止まったような時間。恐縮してしまいそうな不変のカタチ。あんまりにも音がしなくって、まるで絵画の中のよう。
道は途方もなく続いていそうで、今は深夜に響く自分達の足音の方が嘘みたい。






「静かだな」




「はい。」




言葉が端的だったので、こちらもあっさり答えてみた。




「あ、ご主人様?どうでしょう、人目もございませんし、手を繋いでみたりとか!」




「神様に何を見せたいんだお前は?」




「四季とご主人様のラブラブっぷりとか?」




「見せたいのか……?よしとけ、爆発させられるぞ」




ん?もしかして今神様disりませんでしたこの方???






我が家から歩いて10分もかからない程度の場所に、小さな神社がある。




歩く道も距離もいつもの深夜デートとさほど変わらないはずなのだが、そこはやはり年始の雰囲気か、二人の間に流れる空気も違ったと思う。




……何を思っているだろう、なんて彼の横顔をちら見するも、もし思い至ってしまったら、なんて思ついては前に目をやる。




だって、そんな四季の頭の中身がお参りの時のお願い事で一杯だったから。これを彼に察してしまわれたら堪らない。




「願い事は決まってるのか?」




あまりにタイミングがよくてギクッとした。。。




「四季の考えることなんて、大体お分かりでしょうに。。」




苦笑いみたいな微妙な笑顔でやり過ごす。




「そうかもな。ところで初詣って、願い事は一年限定の物しかしちゃいけないのか?」




「期限の見えないお願い事とか毎年されたら、神様のお仕事増え続けちゃうじゃありませんか。。。お願いしてもいいかなってものをされればよろしいかと」




「……それは確かに。」




その会話が、まるで私とこの方の関係を表しているようだな、なんて思ってしまった。






初詣とかきっといかない人もいるだろうし、それがどうとは思わない。それで何が変わるのかと問われてしまうと難しいし。
私だって、神様の救いを信じて待つような人間ではないし。。




ただ、『こんなお願いをした』という事実を自分の背中に立たせておくことには意味がある。
引き返せない、裏切れないという自分への脅迫めいた抑止力。


四季は結構な怠け者なので、そういうのがないとすぐにダメになるから。。。私が初詣を欠かさないのは、ただそのためだ。






神社に着くと、まず鳥居の前で軽く礼をする。




「え。そんなのもあるんだっけ」




「あいえ、そんな作法とかは四季は存じ上げませんけども。。。ノリですノリ!」


(↑なお本音である)




「道は真ん中を通りませんように。
あとお参りするところの手前に水と杓子がありますので、そこで左手右手と口、飲むのに使った左手をもっかいと、最後に杓子の取っ手にかかるように杓子を立てて水を流します。
お参りは二礼二拍一礼で。
……くらいですかね、四季が覚えてるのは。。




「いや、何も知らないから助かる……」




うんまぁ、忘れてるだろうからこうして毎年申し上げてるんですけどね?←




四季のノリにあやかってか、彼も会釈をしてから鳥居を潜る。
あとは習うようにこっちを見ながら手を洗ったりとかして、拝殿へ。




お賽銭を納めて、一度鈴を鳴らして、ぺこ、ぺこ。それからぱん、ぱん。この説明の方が解りやすかったか









最後に、ぺこり。




お参りを済ませると、そそくさと神社を後にした。






「なぁ、結局何をお願いしたんだ」




帰り道。今日はやたらと食い付きのいいご主人様だけど、それはどういう気持ちなのか。何か理由でもあるのだろうか。




「いや、気にはなるだろう。それだけだけどさ。」




「でしたら、ご主人様のされたお願いと交換でなら考えるだけは致しましょう。。
だけど行きにも申しましたが、四季の願いなんて知れているでしょう。こんなときに願うようなおっきな気持ちは、二つも三つも持ち合わせておりませんよ。」




まぁ、そうかもしれないが、と今度はどこか不満そう。。二度同じことを言うくらいなのだから、最早開き直っているのか。




というか、きっと彼がモヤモヤしてるのはその願いの中身ではなくて、『四季がそれを口にするかどうか』なのだとは思っているのだけど。
そこはほら、言葉に置き換えちゃうのも野暮っていうか。。。




「やっぱりお前って気難しいよなぁ……」




「気難しいんじゃありません、お堅いだけですって何度申し上げれば!」




「そうかなぁ……」




じろりと睨む四季と、笑ってごまかすご主人様。




……その時、思った。あぁ、今きっと私、すごく幸せなんだな、と。




そう思うとつい笑顔が漏れてしまって、一瞬その顔にキョトンとした彼も何も言わず、むしろ穏やかに笑い返してくれた。






「四季。」






「はい。」






「これからも、傍にいてくれ」






「……はい。貴方が望まれる限り。」