本日(というか昨晩)のメニューは、
厚焼きなるもの、
竜田あげとかいうらしいものの摸倣、
ほうれん草のお浸し………的なもの、
蒸した野菜、
お豆腐(お豆腐)。





そして、上善如水(みずのごとし)。




ようするに、日本酒である。











「それでは、本日もお仕事お疲れさまでございました。そして明日のお休みに、」




まで言っておちょこを持ち上げると、彼も答えるように自分の分をもって寄せてきて、




乾杯」




「はい、乾杯、です。」




そう言い合って、私達はようやくくいっと一口、それを口に含んだ。













以前にも言ったが、私はお酒が好きだ。




まず、酒は良いものだ。良い場にこそあって映えるものであるし、逆に良くない場には似合わない。
まとめて逆に言えば、四季から言わせると酒は酒であるだけで良いので、好きと言ってもその機微には疎いのだが。。




しかし何より、味を化かすのが酒を酒足らしめる最大の特徴だと思う。良い場で、良い気持ちで呑めたならそれは極上の味に。
良くない気持ちで呑めば、逆に人を呑む魔性を持つ。




そのお高くとまった様と絶対的な力はまるで、気高いお姫様か何かみたいで。ああ、なら気難しいのも仕方ない、なんて妄想を繰り広げてみたりする。




――その高嶺の花に認められるほど、自分は誇れることをしてきただろうか。




そんなことを自問しながら、私は今日も酒を頂く。




これはご主人様からの酒だけど、酒個人が四季を認めるかはまた別だろうし。穏やかな気持ちではあっても、緩い気持ちであってはいけないと思うのだ。




「………甘い、のか?これは」




ふむ、と思案顔でおちょこをじろじろと監察する。




「味は辛口ですが。でも、口当たり柔らかーな感はありますよね。」




そう言ってもう一度おちょこをぐいっと持ち上げて、さっきより多めに飲んでみる。酒利きの技量も知識もまるでないくせに、解ったようなことを言ってしまっただろうか。




でも、美味しいお酒だ。








………そういえば、こと酒に関してのみ、それを飲むときに「呑む」と表記していた人がいたのを思い出した。


あれはどういう意味だったのか。かくいう四季もそう書いているから、もしかしたら似たような認識を持っていたのかもしれない、なんてあらぬ思いを馳せてみる。


……まあ、それはもう何の意味もなさないのだけど。懐かしむ程度の思い出となったことが、彼にとっての救いかどうかは私には量りかねる。




優しい人は好きだけど。こういう、上から目線な自分はやはり好きになれないな。




「……寒くなってきたな。驚いたことに、もう10月らしい。」




思い出したように呟く彼の目線は窓の外。




いつも思うのだが、彼は私を近くで直視したがらない。




仕方ないとは思いつつも、そこはやっぱりちょっと不服だ。目を会わせても数えるまもなく逸らしてしまうし、そもそも向き合うという位置取りをしないようにしている節すらある。




……そんなことを思っていたら何だか腹立たしくなってきて、気づけばじろり、と彼に目線を突き刺していた。。。




「……………な、ナンデスカ。」




「ふふ、いいえなんでも。はい、もう10月になりました。神様が忙しい時期と聞きます、今のうちに見られたくないことやっちゃいましょうかね。。。
身体の方はご心配なく。まぁ、ご主人様に看病される病人ライフとか憧れないでもないですが。」




とはいえ他人に苦を強いる楽しみほどいやらしい物もないと思う。さすがにそこまでの悪人ではないつもりだし。




「憧れるのもどうかと思うぞ?」




「まぁ、乙女心の解らない。」




解ってはいるのだろうけど。そういう考えと口を別に出来ない若さも彼らしい。




……うん。どうにも上から目線になりすぎているらしい。いや、そんな変化があるのなら、四季もまだ若いということだろうか。いえ四季はまだ若いですけどね。ええ全然全くその通りですしおすし。。。









今日のお酒は、おちょこととっくりで頂くことにしてみた。




いつもは升(ます)みたいなおそらく一升の四角い容器なのだけど、今日は秋の風情と思って、いつもよりお洒落にしたかったのだ。………料理に秋らしさがないのは勘弁してほしい。何せ急に決まったのだ、うちの冷蔵庫の中身は、まだ季節の終わりを知らないのである。
日本語訳すると、『茄子とか秋刀魚とか安売りで手に入れずらい』←




「もう秋になろうとしているんですね。やり残した夏イベントとかございました?」




「夏イベント??なんだそれ。」




「何でしょうね(←)。まー、四季的にはPSO2内で満喫したのでもう十分ですが!さらば夏!もう会うことはないだろう!」




「また来年な。」




分かりやすいボケと当たり前すぎるツッコミをして、ちらっと顔を見合わせて、それからくすりと小さく笑い合う。




………今日もお酒が美味しくてよかった。
少なくとも四季は自分を自分に誇れる人間ではないのだが、かといって悔恨で生きているほど怨念じみてもいない。


これならまだ、私も捨てたものではないのかもしれない。少なくとも今酒を呑んでいるこの時は、そんな風に酔わせてほしい。




「明日は戦道3回あるんだよな。半分諦めてが、これならもしかして弓の属性60にできるかもしれん。」




「さようですか。ええ、喜んでお付き合いいたしますとも。
えへへー、明日もオラクルでーとー!きゃんっ、ご主人様ったら四季から言わずともさりげなーくエスコートしてくださるんですから!これがイケメンでなくてなんなのか!!ところでですね、まだ本日のおつまみについて、ご感想を耳にした覚えがないのは、四季の、気のせい、ですか?(威圧)」




「大変美味しゅうございますお願いですから明日ゲームに付き合ってください!!」




ガバッと勢いつけて頭を下げるご主人様。。。んー、でも最後の一言って、見ようによっては余計じゃありませんか?






「…………あこれミスったな…………、
頭が…………揺れて………………」




「ちょぉぉお何してらっしゃるんです!?
だ、誰かー!!この方の連れ添いの方いらっしゃいませんかーー!!!あっそれ四季のことでしたー!てへぺろ☆」




「くっ………… 四季、お前ってやつは、なんて痛々しい…………」




「おっけーげんこつプリーズですねかしこまりました!!」




※避けられました