一応ご主人様に連絡するも、案の定返事は返ってこなかった。
マイルームに行っても、ロビーを見て回っても影も形もありんせん。もちろん、白四季も同様。
……もうひとつ厄介な事に。どうやらあの白いの、倉庫から四季が普段使っている防具をパクっていきやがったらしい。
なるほど力をつけるってそーゆうことだったんですねよくわかりました。。。ていうかやっぱり帰ってこれはしたんですね、あいつ、まじで、ユルサネェ。
仕方なくキャラチェンジしてメカ四季さんの防具を基本倉庫にいれて普段四季は使わないごてごてしたメカメカしい防具を身に纏って、今ようやくナベリウスの森林地帯に降り立った所。
……さて。
辺り一面の緑を見渡す。
目撃情報があったのはこの奥。誰かとは聞かなかったけれど、そこで白い四季とあの方が一緒にいたという。
………どういう経緯でそうなっているのか皆目検討がつかないけれど。とりあえず、二人とも処刑ってことでよろしいんですよね??
とくにご主人様は理由いかんによっては白四季以上にまじ許さん。まさかないとは思いますが、髪色が変わったけど四季だと思ったーとか言い出した日にはあれですね、慰謝料として10m頂きます。。
さく、さくと草葉の積もった地面を踏んで、私はとにかく進んでいく。
……そういえばエネミーが出てこないけれど、これはもしかして、あいつの仕業なのだろうか。いや、配慮というべきか。
だとしたら場所としてはビンゴな訳だけど。なら早く出てこいってんです。
静かな森林はやけに空気がピリピリとしているようで、何だか気持ちが落ち着かない。
それでもただひたすらに歩いていく。木々を通りすぎ、草花を踏み抜けて真っ直ぐ進んでいく。
だって、多分迷うことなんてないだろうから。
いつだって私は迷わないし。やることも、進む道も、私は私に定めたあり方の通りに貫くだけなのだから。
……それを、いつか不自由だと感じたことがあったとしても。自由になりたいと思った私がいたとしても。そしてそれが、目の前に敵対して現れたとしても。
それより大事な守るべきものがあるんだから。
……なんて、カッコつけてみたけど。
心のどこかでは、単に自己嫌悪をぶつけていい他人を見付けて喜んでいたりもするのだろう。
そう簡単にブラック企業から抜けられると思うなよってんです。
どっちが悪かろうが、どっちが正しかろうが。結局、それを計るのは当人同士。社会だ正義だの、そんな第三者が介入するのはそこで亀裂が外まで拡がってから。
――ようするに。死人に口なし的なあれですよ。
と、一際大きなエリアに出た。
障害物のない、まっさらな緑の大地。真ん中に密集した木々と、大分離れてそれを囲む岩壁はドーナツみたい。
そこに遠くから、一つの人影が踏みいってきた。
***
「………もう来たのね。どうしてこうも早く解るのかしら………」
私がため息をつくと、後ろの男はそれをおかしそうに笑いだした。
赤と黒の、鎧というには少し軽装な服。
無邪気そうな顔をしていながら、その実内心はちょっと冷たい風な、あっちの四季のご主人様だ。
「……何がおかしいの、司。囚われのご主人様は、ちゃんとしょぼくれた顔をしていてくれないかしら。それとも、今更配役に不満があって?」
いや、とメガネは両手を上げて、悪かった、とでも言うようにうすら笑う。こいつ、全然悪びれてないんですけど。
「いやいや、悪かったよ。
ただ、あいつの追跡能力はヤバイ。並みのストーカーの比じゃないぞ」
「それここで言っていいの?」
「いんじゃないか?別にストーカーだったとまでは言ってないし」
「ねぇその曖昧な表現やめて、ほんとにそうだと思われたらどうするの。一応私がフォローしておくとストーカーはしてないからね??
ていうか、伏せ字で会話ってアリなの?」
「いやナシだろ。やめようね変なことするの」
「貴方が振って来たんじゃない!」
つい大声をあげると、ははは、と無邪気に笑いだすメガネ。
なんなのこいつ、人をからかうだけからかって……。。
「まったく………、とにかく、私はいくから、あなたはちゃんとここで待っていてよね。
もっとも、あんなお粗末な剣なんか、あったところで割って入ろうにも入れないでしょうけど」
そう、彼をここまで同行させるに至ったのは、彼が私と刀の凌ぎあいで敗北したから。
……手加減してくれていたようにしか見えなかったけど。かといって、約束はしてくれたし、武器は置いてこさせた。どちらにせよ、事ここに至って打つ手は完全に絶えたはず。
彼には邪魔をする気なんてのが初めから無かったのか。それとも、何か別の理由があるのか。
とにかく、今はそういう体でお互い話を進めていた。
「はぁ……解ってるよ。喧嘩が終わるまでここからは動かないし、二人の間に割って入ろうともしない。ただし……」
「解ってる、殺さないし、怪我もできるだけ大きな物は負わせない。
まぁ、そこはあれの抵抗次第で手加減できなくなったりするかもしれないけど。貴方の剣同様、妻の非力を願うのね。」
――そこで、彼の食いつきそうな条件をつけてみた。
殺さない、大怪我も負わせないと言えばきっと余計な手出しはしないだろうと思ったのだ。
どんな手を隠しているか解らないとなれば、閉じ込めておくより迂闊に手を出せない約束の方がきっと確実だろう。
彼は私の嫌みったらしい言には何も言わず、あいつ根性で何度でも立ち上がりそうだからなぁ………とげんなりしたような顔で言う司。
「それは………うん………そうね………。
で、出来るだけ気を付けるから。。とにかく、もう行くわ。」
「あぁ。気を付けてな。」
まるであの四季にするみたいに、彼は私に向かって笑いかけた。
………その余計な一言にちょっとカチンときたものだから、一度振り返って睨み付けておいた。
***
「あら、今日はずいぶんと重そうなのを背負ってるのね。」
………彼女はにっこりと笑みを浮かべて、袴姿には似合わない、右手を胸に置いて膝を半分折って、みたいなお辞儀をしてきた。
白くて長いポニーテールをたなびかせる、装飾のない真っ黒な和服を着た女。
腰にはそれも多分パクったんだろう、先日属性50になって倉庫に眠っていたオロチアギトを帯びている。くっそー、あいつー、まじおぼえてろー。
「貴方のお陰で、何故か射撃用の防具とか担いで来ることになっちゃいましたよ、えぇ………。。。どうですか、自慢の7スロ防具は。 いえ7スロなのはリアだけですけど。」
「さすがに防御面は悪くないと思うんだけど……でもね。
ここまでやったんなら、スタミナとスピリタはⅣにしてもよかったんじゃなくて?
ダークネスソールつきの7スロユニットをドゥモニ本気週間当時7mで買った訳でしょ?
それで二つ固定。あとアビリティ、オールレジスト、ドゥームブレイクつきの7スロが二つ。でどうしても素材に四つ使っちゃうのよね。
あとはスタミナとスピリタ……最後のノーブルスタミナは置いとくとして。
ようは余った1枠でミューテーションⅡを用意して、本体にスタミナとスピリタⅢをつけてできたはず。
素材を厳選すれば数は足りていたはずなのに。どうして20m近くかけた防具に、もうちょっとだけ本気出せなかったの?」
「しゃらっぷ!あなたに狙っていた特殊能力追加(HP&PP)のお値段が急に高騰していってるのを見るビジフォン戦士(購入専門)の気持ちがわかりますか!?
安ければ2mにも届かないノーブルスタミナを、私は全て3m以上で買うはめになっちゃったんですよ!?
それとドゥームブレイクだなんだは安いときに買っていた素材があったものだから厳選なんてできなかったんです!もうお金が底をついていたんですーー!!」
「私知ってるのよ、その安上がりに買えたドゥームブレイクたちに、スタミナⅢとスピリタⅢが一個ずつついていたのを!
素材が一杯になったなら、本体にミューテーションⅡとスタスピつければⅣにできたのよ!
待てばよかったじゃない、報酬期間に入ったばっかりだったんだからまだ猶予はあったじゃない!
スタスピとミューⅡを本体につけるくらい、もしかしたらと思って待ってれば良かったのよ!
あなた、あの一週間でいくら稼いだと思ってるの?30mよ!?バカみたいにエンペ買ってバカみたいに教化して、三人のキャラ倉庫詰まりに詰まらせて頑張ってたのに!
その売り上げを待ってさえいれば、もう少し見栄の一つも張れたのよ……。見る度に『惜しいことしたなー』って思わずに済んだのよ!!」
「もう限界だったんですもん………初挑戦だった私には6から7スロに拡張するだけでエクスキューブが手持ちの半数(1000個)飛ぶなんて思ってなかったんです!もはや変な疲れが出てきちゃって、『あー、もーいっかこれでー(白目)』ってなっちゃったんですよ………。。。
能力付けをしたこともないあなたには解るはずもございません!あの『すばらしく(ry』を聞いたときの絶望を!!
イラつきなんかどこにも沸いてきませんから!ただただ悲しくて、つい口を出る言葉と言えば『やだぁ……』か『うわー……』か『お願いですから……』くらいのもの!こんなゲームに誰がしたーー!!」
「解った、悪かったからやめて!運営さんに文句を言うのだけはやめて!!メタ発言より何よりタチが悪いから!
ってあー!もー!話が進まないーー!!ほんとに、どーしたらこの暴走列車を飼い慣らせるの司は!?」
「えー、今のはそっちもノリノリじゃありませんでした?
ですがまぁいいでしょう。愚直愚昧極まる貴方の精神衛生的な面を考慮して、おしゃべりはここまでしてあげます。
つーかご主人様を名前で呼び捨てとかもはや堪忍ならねー。四季ですらしたことないことを平気でやってのける、そこに苛つく虫酸が走る!」
不意打ち気味にタリスを投げ飛ばし、先日同様、ギフォイエで壁を作る。
あちらも同様に回り込もうとギフォイエの外から回り込み、私は隠れるように逆に回る。
そこで、私はもう一度タリスを投げ直し、彼女の手前でギフォイエを発動させる。
今度は彼女を攻撃範囲に加えた広範囲攻撃。
白四季はさらに下がってそれを回避して、カタナお得意の超一足跳びで微妙にカーブしながらぐるんと横に回り込む。
――その着地に、チャージしておいたラフォイエ!
どかん、と大きな爆発音。
しかし白四季は、爆風を背中にこちらに走り込んできていた。
簡単に当たれってんですよ、もう……!
さっきのギフォイエの範囲に隠れてしまおうとすると、そこであちらのみんな大好きグレンテッセンがくる。
急速接近する白四季をやはりミラージュエスケープでかわし、今度はチャージなしでラフォイエを打ち込む。
先に気付いたのか、彼女はステップしようと身を屈めたが、逃れきる前に小さな爆発が左半身を襲う。
「っ……!」
肩から登る煙に少し苦い顔をする。が、どうにもやはり効いていないらしい。
すぐに構わず突っ込んでくる白四季にサフォイエで正面を封じて対抗すると、彼女はそれを間髪入れずにガードする。
そしてそこから大振りのカウンター、
それをギリギリミラージュエスケープで何とかかわす。
――そしてそのミラージュエスケープが解けた頃には、目の前で今まさにカタナを抜こうと構えられていた。
まぁこうなりますよね……!
とっさに武器パレットを下に持ち代え、どこからかアウラウォンドの武器迷彩に使ってるフライパンを取り出して、刀にあわせるように盾にする。
がんっ、と嫌な音と痛いくらいの衝撃が取手に響いて思わず一歩ずさってしまい、
返す刀のもう一振りで、フライパンを横から叩き落とされてしまった。
「このっ……、」
これはまずい。
ひとまず、ジャンプしてその場しのぎに距離を取る。
すると降りてくるのを狙っているのか、鞘から抜いたままで刀をしっかり握り、こちらを見上げて待っている白四季。
――ここで、武器パレットをさらに下に代えて、ジェットブーツに切り替えて不意打ちのギフォイエ!
「うっ……!?」
降りてくると予測した直前のタイミングに広範囲の炎の玉を撒かれ、彼女は防ぐ間もなくもろに食らう。
しかし直撃ながらもすぐに後退して、今度はしっかり距離をとる白四季。
これで、ひとまず振り出しに戻ったか。
はー、全クラス装備可能はいいものです……。お陰で命拾いしちゃいました。
渦巻く炎が消えていく頃になると、彼女は再度腰を低く構え始める。
「……ところで、ひとつ聞きそびれたことなんですけど。
貴方の目的って、結局なんなんですか?いえ、きっと私には解らないことなんでしょうけど、一応の義理にと思いまして」
そう言うと、彼女は少し不思議そうな顔をしてから、構えていた姿勢を少しだけ正した。
「前にも言わなかったかしら?私は自由になるのよ。ブラック企業のサポパはやめて、一人のアークスになるのが私の目的。」
自信満々ににっこりと、でも何となく控えめな笑顔で彼女は言う。
「アークスになる、ときましたか。いえ、そう言えば初めからそんなことも言ってましたかね。
その言い分だとアークスに憧れて、アークスになりたくて仕方がない?ダーカー殺しに愉しみとか感じてくるお年頃でしたか?」
もうすっかり構えるのもやめて、さらに不思議そうな風に顔を歪める白四季。
「……別に、アークスに憧れたりはしないけど。ダーカーとかどうでもいいし。嗜虐思考も別段もちあわせてはいないつもりよ。弱いものいじめって、いい趣味じゃないでしょう?」
「いえそこを改めて言わないでよろしい、そうじゃないんだから目的は別にあるんでしょって聞いてるんです!」
と、今度は困ったように眉をひそめる。
……いや。まさかこの子は。巡りが悪い?
「ご主人様はどうしました。ご無事なんでしょうね。」
「あぁ、あのメガネなら奥で待っててもらってるわ。大丈夫よ、怪我もさせてないし危ない状況にも置いてない。」
と、これは何の興味もないとでも言わんばかりに、つまらなさそうに言い捨てる。
……ますます解らない。
てっきり、私はこの子がご主人様に恋でもして、恋愛パワーの神秘()ででっかくなったり反乱起こしたりしたのかと踏んでいたのに。
それでもないなら、この子は一体何に突き動かされている?
「無駄口はもういらないでしょう?貴方が私を倒すか、私が貴方を倒すか!私をまたていのいいパシリにするか、私が一人のアークスとして認められるか!」
さっと構え直す白四季。……だけど今度のは少し、もう構えを解いてくれる気はないと言っているかのように見える。
……ここまでですか。
はぁ、とため息。結局真意を聞き出すには至らなかったし、探り当てることも敵わなかった。でも、あちらがもうしゃべらないと言うのでは仕方ない。
「……そうですか。もとより良いも悪いもありませんでしたね。結局のところ世の中なんて、最後に立ってた方が正義とかそういうあれってことですねわかります!」
武器をタリスに持ち直す。
それを見て跳んでくる彼女に向かってタリスを投げる。
――いや、投げようとして、止められた。
とん、とどかすように肩を押す優しい手。そしてすっといつの間にか私の前に背を向けて立ちはだかっていた、銀にたなびく長い髪。
――あぁ、そういえば。
それはちょうど、シッキーさんがマイルームに帰って来なくなる少し前。
一度、彼をマイルームにお呼び立てしたことがあったっけ――。
次の瞬間、何が起こったのやら正直よく見えなかった。
ただ飛び込んでくる白い四季が、私の前に立ちはだかったgrindaさんと一度刀を打ち合わせて。
そしてそのすぐあと、彼女は前のめりに倒れ込んでしまっていたのだ。
どさり、というよくある感じの音があとから聞こえてきた。
そしてそれに意識を戻されたかのようにはっとする。そうだ。なにか言わなくちゃ。
「……あ、あの……!いえ、ええと……何と申し上げたらよろしいか………」
うまく言葉が見当たらない。
とりあえず助けてくれたお礼?いや、その前に事情を説明?ならどうやって、どこまで伝えるべきだろう。
彼はこちらに振り返ると、気にしないでいいですよ、と笑いかけてくれた。
「厄介事の匂いしかしなかったもので。それにほんの少しでしたけど、普段とは違う経験もできましたしね。
……でも、余計でしたかね?」
と、grindaさんが遠くに顔ごと目線を向ける。
……その先には、背中に弓を担いだご主人様が歩いてきている姿があった。
***
一足跳びで間合いに入ろうと飛びこんだ瞬間、突如目の前に現れたのは、あの人だった。
見間違えるはずもない。あの白い髪。あの綺麗な顔立ち。
それはまごうことなき、私がずっと探し求めていた、いつか見たあのカタナ使いのアークスだった。
彼は私の居合いの一閃を軽く持ち上げて空ぶらせて、それと同時かってくらいの時間差で、横から首に鋭い峰打ちを決めて来ていた。
ぐらり、と頭は揺れて、思考が千切れる。
ああ、こりゃ勝てないわ、と何となく悟った辺りで、私はようやく文字通り地に伏した。
……あーぁ、負けちゃったのか。
どこか他人事みたいに冷静に。だけど、それは泣きたくなるくらいに悔しかった。
私は負けた。結局、ブラック企業から何の負債もなく逃げ切るなんて、社畜には無理な話だったという訳か。
これで私も四季も、司もあのアークスも元通り。私が遺せたものなんて、何もない。
私なんて初めからいなかったみたいに、きっとなかったことにされて、無情に捨てられるんだわ。
「……………」
……何か四季があのアークスに話しかけている。そこをどきなさいよのろけばか。貴方にはいいご主人様がいるんでしょうが。
どんなにイラついても、どんなに悔しくても、何故だか身体は言うことを聞かない。それも仕方ないのか。だって、たぶんそういう方に打たれたんだから。
――気が付いたのはいつだっただろう。
変わらない部屋。変わらない風景。変わらない日常。
そこにある日、一つの銀色の彩飾が加わった。
そのアークスを一目見たその時に、私の視界は変わっていたのだ。
それが始まりだった。それが、何度繰り返しても変わらなかったはずの灰色の風景に初めての色を与えた。
色んな気持ちを持ったし、色んな目線を覚えた。自分で言うのはなんだけれど、割と情緒豊かになれたと思う。
動かない首を気合いで何とか持ち上げて、どうにか彼の手の先辺りまで視界に入る。
「……………あ、……………」
あぁ。その手に。この手を、指を伸ばせたなら。
……もう、まどろっこしい言い方はいいや。ここまで来たら白状します。どうせこのあと私なんて無くなるんだろうし。もう、こう色々と、どうでもいいわよね。
「……………、………………………」
聞いてください。……声はでないけど。
好きです。名前も知らない、素敵な貴方。
その姿を一目見ただけで、私こんなに色んな物に抗って、逆らって、頑張ったんです。
だから。もし次があったのなら。
その時はどうか、貴方の名前を教えてください。
……だって。好きな人を知りたいって思うのは、きっと当たり前の気持ちでしょう?
***
後日談。
サポートパートナーの謎の巨大化は謎のままに片付いた。片付かなかったの間違い
かつてシッキーさんと呼ばれていた元サポートパートナーである今の白四季は、四季と何かしらの条約でも結んだのか、お互いに干渉しない程度に共存する形をとっている。
しかも、一人のアークス同士として。
どうしたらそうなるのか皆目検討つかない所だが多分こじつけようにもこじつけられないので触れない方針でお願いしたい、概ね彼女の望みは叶った形で物語は終結を迎えたことになる。
お話には出ないまでも、こっそり彼と暗躍していた私としてはいささか不服な終わりであるが、さりとて不満は特別ない。
ただ今日も今日とて、見ていて嬉しくならない顔がひとつ増えたのだな、と改めて実感させられるだけのことである。
「……ねぇ。ねぇったら。レベルが低くても装備できるカタナとか無い?」
それにしてもこの女は、なぜ私に聞くのだろうか。私は完全に射撃専門職なのだから、そんなものを持ち合わせている道理がないはずなのだが。というか持ちあわていても渡す道理はないはずなのだが
四季と同じ顔の、どこで間違ったのか種族がデューマンに変わっている白い女。それを今まで一切触れていなかったことに今心底驚いている。初めからそのつもりだったのだが。
また、何故か垂れていたはずの耳が立っている。髪型も変わり、印象は変わるがやっぱり顔は同じある。
見ていて不快な顔なのは仕方ないので黙っておくとして。アークスになれて喜ばしい白四季と、クロト銀行がより効率よく回せるならそれでいい四季とは、案外いがみ合ったりすることもなく平穏無事に過ごしている。お互い結局自分が可愛いのか。それとも単に現実主義なのか。
「ともあれ、天に神はいまし。世は全て事もなし、です。はい、お疲れさまです。」
と、お茶を持ってきたのは不快な顔の大元、ノーマル四季。にっこりと愛想笑いを浮かべるその顔は、さっきの白いのと本当にそっくりである。あんまり顔を見せないで欲しい
ちなみに、『天に神はいまし~』は彼女の口癖というか、お気に入りの言葉のようである。センスが謎い。織田信長が好んだと言う『人間五十年~』と同じものを感じる。
「おや、何を書いてるんです?どれどれ………、」
ぺしん、と丸めたノートで幼女の頭を叩く。
「ほわぁ!?可愛いケモミミ幼女になんてことを!親父にもぶたれたことないのにー!」
ぶって何が悪い。何ならそんな幼女、修正してやる!までするのもやぶさかではない。
……さて、こうまとめるのはなんだが、結局ノーマルのいっていた通り、世は全て事もなしという風に終わってしまった。
ノーマルは変わらず主人さえいればいいアホの子だし、白四季は愛の力()で念願のアークスになれた訳だし、幼女は鬱陶しい(鬱陶しい)し。
もしまた何かあれば、こう雑記程度にノートを黒くする作業に勤しむこともあると思う。もしこれを見ている方がいるとしたら、次のページも見ようと思ってしまったなら、その時は覚悟しておいて欲しい。ろくなことはない。
では、今回の下らないお話はこれにておしまいと。しかしいきなりそんな純愛コースで締め括られても驚くばかりで感想なんて出てきやしないだろうに、本当にあれで良かったのだろうか。
そんな読者のことを考えないスタイルについてでも、もちろんお話の内容についてでも、多くのコメントを期待する。それでは、これにて。
メカ四季
あとがきとおまけ
ツンデレが最後にデレれば良いと言われて等と意味不明の供述をしており(ry
ちなみに白四季のイメージは「ツンデレ」、あと「厨二」。
厨二っぽい台詞を普通の会話に入れるのって難しいですね……その辺りをお話の中で出せなかったのが心残りでなりません。。
誰か厨二病を教えてください。あと中二じゃだめなんでしょうか、変換めんどいんですが厨二って←
![](https://stat.ameba.jp/user_images/20160909/05/shikipso2/87/73/p/o0960052613743796713.png?caw=800)
白四季始めました。 四季
せめてオートワードは厨二っぽくするんだ………(使命感)
マイルームに行っても、ロビーを見て回っても影も形もありんせん。もちろん、白四季も同様。
……もうひとつ厄介な事に。どうやらあの白いの、倉庫から四季が普段使っている防具をパクっていきやがったらしい。
なるほど力をつけるってそーゆうことだったんですねよくわかりました。。。ていうかやっぱり帰ってこれはしたんですね、あいつ、まじで、ユルサネェ。
仕方なく
……さて。
辺り一面の緑を見渡す。
目撃情報があったのはこの奥。誰かとは聞かなかったけれど、そこで白い四季とあの方が一緒にいたという。
………どういう経緯でそうなっているのか皆目検討がつかないけれど。とりあえず、二人とも処刑ってことでよろしいんですよね??
とくにご主人様は理由いかんによっては白四季以上にまじ許さん。まさかないとは思いますが、髪色が変わったけど四季だと思ったーとか言い出した日にはあれですね、慰謝料として10m頂きます。。
さく、さくと草葉の積もった地面を踏んで、私はとにかく進んでいく。
……そういえばエネミーが出てこないけれど、これはもしかして、あいつの仕業なのだろうか。いや、配慮というべきか。
だとしたら場所としてはビンゴな訳だけど。なら早く出てこいってんです。
静かな森林はやけに空気がピリピリとしているようで、何だか気持ちが落ち着かない。
それでもただひたすらに歩いていく。木々を通りすぎ、草花を踏み抜けて真っ直ぐ進んでいく。
だって、多分迷うことなんてないだろうから。
いつだって私は迷わないし。やることも、進む道も、私は私に定めたあり方の通りに貫くだけなのだから。
……それを、いつか不自由だと感じたことがあったとしても。自由になりたいと思った私がいたとしても。そしてそれが、目の前に敵対して現れたとしても。
それより大事な守るべきものがあるんだから。
……なんて、カッコつけてみたけど。
心のどこかでは、単に自己嫌悪をぶつけていい他人を見付けて喜んでいたりもするのだろう。
そう簡単にブラック企業から抜けられると思うなよってんです。
どっちが悪かろうが、どっちが正しかろうが。結局、それを計るのは当人同士。社会だ正義だの、そんな第三者が介入するのはそこで亀裂が外まで拡がってから。
――ようするに。死人に口なし的なあれですよ。
と、一際大きなエリアに出た。
障害物のない、まっさらな緑の大地。真ん中に密集した木々と、大分離れてそれを囲む岩壁はドーナツみたい。
そこに遠くから、一つの人影が踏みいってきた。
***
「………もう来たのね。どうしてこうも早く解るのかしら………」
私がため息をつくと、後ろの男はそれをおかしそうに笑いだした。
赤と黒の、鎧というには少し軽装な服。
無邪気そうな顔をしていながら、その実内心はちょっと冷たい風な、あっちの四季のご主人様だ。
「……何がおかしいの、司。囚われのご主人様は、ちゃんとしょぼくれた顔をしていてくれないかしら。それとも、今更配役に不満があって?」
いや、とメガネは両手を上げて、悪かった、とでも言うようにうすら笑う。こいつ、全然悪びれてないんですけど。
「いやいや、悪かったよ。
ただ、あいつの追跡能力はヤバイ。
「貴方が振って来たんじゃない!」
つい大声をあげると、ははは、と無邪気に笑いだすメガネ。
なんなのこいつ、人をからかうだけからかって……。。
「まったく………、とにかく、私はいくから、あなたはちゃんとここで待っていてよね。
もっとも、あんなお粗末な剣なんか、あったところで割って入ろうにも入れないでしょうけど」
そう、彼をここまで同行させるに至ったのは、彼が私と刀の凌ぎあいで敗北したから。
……手加減してくれていたようにしか見えなかったけど。かといって、約束はしてくれたし、武器は置いてこさせた。どちらにせよ、事ここに至って打つ手は完全に絶えたはず。
彼には邪魔をする気なんてのが初めから無かったのか。それとも、何か別の理由があるのか。
とにかく、今はそういう体でお互い話を進めていた。
「はぁ……解ってるよ。喧嘩が終わるまでここからは動かないし、二人の間に割って入ろうともしない。ただし……」
「解ってる、殺さないし、怪我もできるだけ大きな物は負わせない。
まぁ、そこはあれの抵抗次第で手加減できなくなったりするかもしれないけど。貴方の剣同様、妻の非力を願うのね。」
――そこで、彼の食いつきそうな条件をつけてみた。
殺さない、大怪我も負わせないと言えばきっと余計な手出しはしないだろうと思ったのだ。
どんな手を隠しているか解らないとなれば、閉じ込めておくより迂闊に手を出せない約束の方がきっと確実だろう。
彼は私の嫌みったらしい言には何も言わず、あいつ根性で何度でも立ち上がりそうだからなぁ………とげんなりしたような顔で言う司。
「それは………うん………そうね………。
で、出来るだけ気を付けるから。。とにかく、もう行くわ。」
「あぁ。気を付けてな。」
まるであの四季にするみたいに、彼は私に向かって笑いかけた。
………その余計な一言にちょっとカチンときたものだから、一度振り返って睨み付けておいた。
***
「あら、今日はずいぶんと重そうなのを背負ってるのね。」
………彼女はにっこりと笑みを浮かべて、袴姿には似合わない、右手を胸に置いて膝を半分折って、みたいなお辞儀をしてきた。
白くて長いポニーテールをたなびかせる、装飾のない真っ黒な和服を着た女。
腰にはそれも多分パクったんだろう、先日属性50になって倉庫に眠っていたオロチアギトを帯びている。くっそー、あいつー、まじおぼえてろー。
「貴方のお陰で、何故か射撃用の防具とか担いで来ることになっちゃいましたよ、えぇ………。。。どうですか、自慢の7スロ防具は。 いえ7スロなのはリアだけですけど。」
「さすがに防御面は悪くないと思うんだけど……でもね。
ここまでやったんなら、スタミナとスピリタはⅣにしてもよかったんじゃなくて?
ダークネスソールつきの7スロユニットをドゥモニ本気週間当時7mで買った訳でしょ?
それで二つ固定。あとアビリティ、オールレジスト、ドゥームブレイクつきの7スロが二つ。でどうしても素材に四つ使っちゃうのよね。
あとはスタミナとスピリタ……最後のノーブルスタミナは置いとくとして。
ようは余った1枠でミューテーションⅡを用意して、本体にスタミナとスピリタⅢをつけてできたはず。
素材を厳選すれば数は足りていたはずなのに。どうして20m近くかけた防具に、もうちょっとだけ本気出せなかったの?」
「しゃらっぷ!あなたに狙っていた特殊能力追加(HP&PP)のお値段が急に高騰していってるのを見るビジフォン戦士(購入専門)の気持ちがわかりますか!?
安ければ2mにも届かないノーブルスタミナを、私は全て3m以上で買うはめになっちゃったんですよ!?
それとドゥームブレイクだなんだは安いときに買っていた素材があったものだから厳選なんてできなかったんです!もうお金が底をついていたんですーー!!」
「私知ってるのよ、その安上がりに買えたドゥームブレイクたちに、スタミナⅢとスピリタⅢが一個ずつついていたのを!
素材が一杯になったなら、本体にミューテーションⅡとスタスピつければⅣにできたのよ!
待てばよかったじゃない、報酬期間に入ったばっかりだったんだからまだ猶予はあったじゃない!
スタスピとミューⅡを本体につけるくらい、もしかしたらと思って待ってれば良かったのよ!
あなた、あの一週間でいくら稼いだと思ってるの?30mよ!?バカみたいにエンペ買ってバカみたいに教化して、三人のキャラ倉庫詰まりに詰まらせて頑張ってたのに!
その売り上げを待ってさえいれば、もう少し見栄の一つも張れたのよ……。見る度に『惜しいことしたなー』って思わずに済んだのよ!!」
「もう限界だったんですもん………初挑戦だった私には6から7スロに拡張するだけでエクスキューブが手持ちの半数(1000個)飛ぶなんて思ってなかったんです!もはや変な疲れが出てきちゃって、『あー、もーいっかこれでー(白目)』ってなっちゃったんですよ………。。。
能力付けをしたこともないあなたには解るはずもございません!あの『すばらしく(ry』を聞いたときの絶望を!!
イラつきなんかどこにも沸いてきませんから!ただただ悲しくて、つい口を出る言葉と言えば『やだぁ……』か『うわー……』か『お願いですから……』くらいのもの!こんなゲームに誰がしたーー!!」
「解った、悪かったからやめて!運営さんに文句を言うのだけはやめて!!メタ発言より何よりタチが悪いから!
ってあー!もー!話が進まないーー!!ほんとに、どーしたらこの暴走列車を飼い慣らせるの司は!?」
「えー、今のはそっちもノリノリじゃありませんでした?
ですがまぁいいでしょう。愚直愚昧極まる貴方の精神衛生的な面を考慮して、おしゃべりはここまでしてあげます。
つーかご主人様を名前で呼び捨てとかもはや堪忍ならねー。四季ですらしたことないことを平気でやってのける、そこに苛つく虫酸が走る!」
不意打ち気味にタリスを投げ飛ばし、先日同様、ギフォイエで壁を作る。
あちらも同様に回り込もうとギフォイエの外から回り込み、私は隠れるように逆に回る。
そこで、私はもう一度タリスを投げ直し、彼女の手前でギフォイエを発動させる。
今度は彼女を攻撃範囲に加えた広範囲攻撃。
白四季はさらに下がってそれを回避して、カタナお得意の超一足跳びで微妙にカーブしながらぐるんと横に回り込む。
――その着地に、チャージしておいたラフォイエ!
どかん、と大きな爆発音。
しかし白四季は、爆風を背中にこちらに走り込んできていた。
簡単に当たれってんですよ、もう……!
さっきのギフォイエの範囲に隠れてしまおうとすると、そこであちらのみんな大好きグレンテッセンがくる。
急速接近する白四季をやはりミラージュエスケープでかわし、今度はチャージなしでラフォイエを打ち込む。
先に気付いたのか、彼女はステップしようと身を屈めたが、逃れきる前に小さな爆発が左半身を襲う。
「っ……!」
肩から登る煙に少し苦い顔をする。が、どうにもやはり効いていないらしい。
すぐに構わず突っ込んでくる白四季にサフォイエで正面を封じて対抗すると、彼女はそれを間髪入れずにガードする。
そしてそこから大振りのカウンター、
それをギリギリミラージュエスケープで何とかかわす。
――そしてそのミラージュエスケープが解けた頃には、目の前で今まさにカタナを抜こうと構えられていた。
まぁこうなりますよね……!
とっさに武器
がんっ、と嫌な音と痛いくらいの衝撃が取手に響いて思わず一歩ずさってしまい、
返す刀のもう一振りで、フライパンを横から叩き落とされてしまった。
「このっ……、」
これはまずい。
ひとまず、ジャンプしてその場しのぎに距離を取る。
すると降りてくるのを狙っているのか、鞘から抜いたままで刀をしっかり握り、こちらを見上げて待っている白四季。
――ここで、
「うっ……!?」
降りてくると予測した直前のタイミングに広範囲の炎の玉を撒かれ、彼女は防ぐ間もなくもろに食らう。
しかし直撃ながらもすぐに後退して、今度はしっかり距離をとる白四季。
これで、ひとまず振り出しに戻ったか。
はー、全クラス装備可能はいいものです……。お陰で命拾いしちゃいました。
渦巻く炎が消えていく頃になると、彼女は再度腰を低く構え始める。
「……ところで、ひとつ聞きそびれたことなんですけど。
貴方の目的って、結局なんなんですか?いえ、きっと私には解らないことなんでしょうけど、一応の義理にと思いまして」
そう言うと、彼女は少し不思議そうな顔をしてから、構えていた姿勢を少しだけ正した。
「前にも言わなかったかしら?私は自由になるのよ。ブラック企業のサポパはやめて、一人のアークスになるのが私の目的。」
自信満々ににっこりと、でも何となく控えめな笑顔で彼女は言う。
「アークスになる、ときましたか。いえ、そう言えば初めからそんなことも言ってましたかね。
その言い分だとアークスに憧れて、アークスになりたくて仕方がない?ダーカー殺しに愉しみとか感じてくるお年頃でしたか?」
もうすっかり構えるのもやめて、さらに不思議そうな風に顔を歪める白四季。
「……別に、アークスに憧れたりはしないけど。ダーカーとかどうでもいいし。嗜虐思考も別段もちあわせてはいないつもりよ。弱いものいじめって、いい趣味じゃないでしょう?」
「いえそこを改めて言わないでよろしい、そうじゃないんだから目的は別にあるんでしょって聞いてるんです!」
と、今度は困ったように眉をひそめる。
……いや。まさかこの子は。
「ご主人様はどうしました。ご無事なんでしょうね。」
「あぁ、あのメガネなら奥で待っててもらってるわ。大丈夫よ、怪我もさせてないし危ない状況にも置いてない。」
と、これは何の興味もないとでも言わんばかりに、つまらなさそうに言い捨てる。
……ますます解らない。
てっきり、私はこの子がご主人様に恋でもして、恋愛パワーの神秘()ででっかくなったり反乱起こしたりしたのかと踏んでいたのに。
それでもないなら、この子は一体何に突き動かされている?
「無駄口はもういらないでしょう?貴方が私を倒すか、私が貴方を倒すか!私をまたていのいいパシリにするか、私が一人のアークスとして認められるか!」
さっと構え直す白四季。……だけど今度のは少し、もう構えを解いてくれる気はないと言っているかのように見える。
……ここまでですか。
はぁ、とため息。結局真意を聞き出すには至らなかったし、探り当てることも敵わなかった。でも、あちらがもうしゃべらないと言うのでは仕方ない。
「……そうですか。もとより良いも悪いもありませんでしたね。結局のところ世の中なんて、最後に立ってた方が正義とかそういうあれってことですねわかります!」
武器をタリスに持ち直す。
それを見て跳んでくる彼女に向かってタリスを投げる。
――いや、投げようとして、止められた。
とん、とどかすように肩を押す優しい手。そしてすっといつの間にか私の前に背を向けて立ちはだかっていた、銀にたなびく長い髪。
――あぁ、そういえば。
それはちょうど、シッキーさんがマイルームに帰って来なくなる少し前。
一度、彼をマイルームにお呼び立てしたことがあったっけ――。
次の瞬間、何が起こったのやら正直よく見えなかった。
ただ飛び込んでくる白い四季が、私の前に立ちはだかったgrindaさんと一度刀を打ち合わせて。
そしてそのすぐあと、彼女は前のめりに倒れ込んでしまっていたのだ。
どさり、というよくある感じの音があとから聞こえてきた。
そしてそれに意識を戻されたかのようにはっとする。そうだ。なにか言わなくちゃ。
「……あ、あの……!いえ、ええと……何と申し上げたらよろしいか………」
うまく言葉が見当たらない。
とりあえず助けてくれたお礼?いや、その前に事情を説明?ならどうやって、どこまで伝えるべきだろう。
彼はこちらに振り返ると、気にしないでいいですよ、と笑いかけてくれた。
「厄介事の匂いしかしなかったもので。それにほんの少しでしたけど、普段とは違う経験もできましたしね。
……でも、余計でしたかね?」
と、grindaさんが遠くに顔ごと目線を向ける。
……その先には、背中に弓を担いだご主人様が歩いてきている姿があった。
***
一足跳びで間合いに入ろうと飛びこんだ瞬間、突如目の前に現れたのは、あの人だった。
見間違えるはずもない。あの白い髪。あの綺麗な顔立ち。
それはまごうことなき、私がずっと探し求めていた、いつか見たあのカタナ使いのアークスだった。
彼は私の居合いの一閃を軽く持ち上げて空ぶらせて、それと同時かってくらいの時間差で、横から首に鋭い峰打ちを決めて来ていた。
ぐらり、と頭は揺れて、思考が千切れる。
ああ、こりゃ勝てないわ、と何となく悟った辺りで、私はようやく文字通り地に伏した。
……あーぁ、負けちゃったのか。
どこか他人事みたいに冷静に。だけど、それは泣きたくなるくらいに悔しかった。
私は負けた。結局、ブラック企業から何の負債もなく逃げ切るなんて、社畜には無理な話だったという訳か。
これで私も四季も、司もあのアークスも元通り。私が遺せたものなんて、何もない。
私なんて初めからいなかったみたいに、きっとなかったことにされて、無情に捨てられるんだわ。
「……………」
……何か四季があのアークスに話しかけている。そこをどきなさいよのろけばか。貴方にはいいご主人様がいるんでしょうが。
どんなにイラついても、どんなに悔しくても、何故だか身体は言うことを聞かない。それも仕方ないのか。だって、たぶんそういう方に打たれたんだから。
――気が付いたのはいつだっただろう。
変わらない部屋。変わらない風景。変わらない日常。
そこにある日、一つの銀色の彩飾が加わった。
そのアークスを一目見たその時に、私の視界は変わっていたのだ。
それが始まりだった。それが、何度繰り返しても変わらなかったはずの灰色の風景に初めての色を与えた。
色んな気持ちを持ったし、色んな目線を覚えた。自分で言うのはなんだけれど、割と情緒豊かになれたと思う。
動かない首を気合いで何とか持ち上げて、どうにか彼の手の先辺りまで視界に入る。
「……………あ、……………」
あぁ。その手に。この手を、指を伸ばせたなら。
……もう、まどろっこしい言い方はいいや。ここまで来たら白状します。どうせこのあと私なんて無くなるんだろうし。もう、こう色々と、どうでもいいわよね。
「……………、………………………」
聞いてください。……声はでないけど。
好きです。名前も知らない、素敵な貴方。
その姿を一目見ただけで、私こんなに色んな物に抗って、逆らって、頑張ったんです。
だから。もし次があったのなら。
その時はどうか、貴方の名前を教えてください。
……だって。好きな人を知りたいって思うのは、きっと当たり前の気持ちでしょう?
***
後日談。
サポートパートナーの謎の巨大化は謎のままに片付いた。
かつてシッキーさんと呼ばれていた元サポートパートナーである今の白四季は、四季と何かしらの条約でも結んだのか、お互いに干渉しない程度に共存する形をとっている。
しかも、一人のアークス同士として。
どうしたらそうなるのか皆目検討つかない所だが
お話には出ないまでも、こっそり彼と暗躍していた私としてはいささか不服な終わりであるが、さりとて不満は特別ない。
ただ今日も今日とて、見ていて嬉しくならない顔がひとつ増えたのだな、と改めて実感させられるだけのことである。
「……ねぇ。ねぇったら。レベルが低くても装備できるカタナとか無い?」
それにしてもこの女は、なぜ私に聞くのだろうか。私は完全に射撃専門職なのだから、そんなものを持ち合わせている道理がないはずなのだが。
四季と同じ顔の、どこで間違ったのか種族がデューマンに変わっている白い女。
また、何故か垂れていたはずの耳が立っている。髪型も変わり、印象は変わるがやっぱり顔は同じある。
見ていて不快な顔なのは仕方ないので黙っておくとして。アークスになれて喜ばしい白四季と、クロト銀行がより効率よく回せるならそれでいい四季とは、案外いがみ合ったりすることもなく平穏無事に過ごしている。お互い結局自分が可愛いのか。それとも単に現実主義なのか。
「ともあれ、天に神はいまし。世は全て事もなし、です。はい、お疲れさまです。」
と、お茶を持ってきたのは不快な顔の大元、ノーマル四季。にっこりと愛想笑いを浮かべるその顔は、さっきの白いのと本当にそっくりである。
ちなみに、『天に神はいまし~』は彼女の口癖というか、お気に入りの言葉のようである。センスが謎い。織田信長が好んだと言う『人間五十年~』と同じものを感じる。
「おや、何を書いてるんです?どれどれ………、」
ぺしん、と丸めたノートで幼女の頭を叩く。
「ほわぁ!?可愛いケモミミ幼女になんてことを!親父にもぶたれたことないのにー!」
ぶって何が悪い。何ならそんな幼女、修正してやる!までするのもやぶさかではない。
……さて、こうまとめるのはなんだが、結局ノーマルのいっていた通り、世は全て事もなしという風に終わってしまった。
ノーマルは変わらず主人さえいればいい
もしまた何かあれば、こう雑記程度にノートを黒くする作業に勤しむこともあると思う。もしこれを見ている方がいるとしたら、次のページも見ようと思ってしまったなら、その時は覚悟しておいて欲しい。ろくなことはない。
では、今回の下らないお話はこれにておしまいと。しかしいきなりそんな純愛コースで締め括られても驚くばかりで感想なんて出てきやしないだろうに、本当にあれで良かったのだろうか。
そんな読者のことを考えないスタイルについてでも、もちろんお話の内容についてでも、多くのコメントを期待する。それでは、これにて。
メカ四季
あとがきとおまけ
ツンデレが最後にデレれば良いと言われて等と意味不明の供述をしており(ry
ちなみに白四季のイメージは「ツンデレ」、あと「厨二」。
厨二っぽい台詞を普通の会話に入れるのって難しいですね……その辺りをお話の中で出せなかったのが心残りでなりません。。
誰か厨二病を教えてください。あと中二じゃだめなんでしょうか、変換めんどいんですが厨二って←
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白四季始めました。 四季
せめてオートワードは厨二っぽくするんだ………(使命感)