二人の間にタリスを投げて、広範囲を旋回する炎の玉、ギフォイエを敷く。




彼女は回り込んでギフォイエの範囲外から攻めてこようとするが、さすがにこちらも先にギフォイエを壁にして後ろに下がる。




「くっ……、」




「しっかり狙いますから、うまくかすって下さいね!」




ギフォイエ越しに宣言して、白四季の身体の中心目掛けてラフォイエによる爆発を起こす。




ドン、という聞きなれた爆発の音。目の前はギフォイエが渦巻いていてよく見えないが、




「やったか……!?」




「わざわざ解りきったフラグを立てるなっ!」




横から瞬時に飛び掛かってくる白四季。


その過ぎ様の横一閃をミラージュエスケープでかわすも、彼女は私の目の前で着地&急ブレーキ、その場で腰を落として力強く溜め込み、そこから二撃目の渾身の居合い斬りを放つ。




きぃん、と激しい音を鳴らして振り切られた一閃は、私を確かに捉えていた。




……ですが、甘いです!




「ジャストガードを得た四季に、死角はないのです(意訳:テックチャージパリングまじイケメン)!」




渾身の居合いに合わせてチャージしたサフォイエで、目の前の少女を今度こそ捉える。




「ぐぅっ……!?」



背中から来るとは思わずガードしようとしたか、もろにくらってあわてて距離をとる白四季。




……サフォイエ一発でこのビビりようですか。


防具は四季が貸してた未強化のレア10防具のままなのか。あんまりやってて、本気で殺っちゃったりとかしたら笑いようがないしなー。
まったく、やりづらいにもほどがある。




「ところでパチもんさん。聞けばあなた、自由になるとか仰いました?
それってどういう意味ですか?
貴方がヒューマンサイズになってることについてはもうフォローしようがないのでこの際スルーしますけど、ぶっちゃけ、貴方の目的って何なんです?」




「パチもんいうな。あとサイズはあれよ、呪いの力よ。フォトンでも説明できない神秘()なのよ。
そしてそう、自由。私はサポートパートナーじゃなくなるの。一人のアークスになるのよ。
だってそうでしょ?
帰っても休憩タイム無しで常に10個ずつオーダーを任されて、しかもその中の二つは自分が面倒だからっていかない壊世区域の大型が固定、その上パートナーコンソールが目の前にあるのにわざわざビジフォンから戦利品を受け取りまた依頼するメンタルブレイクにも抜かりのない超々ブラック企業!
そして!何より!!どうして防具にネガフォトン使わせる訳!?ブリサ貸しなさいよ、倉庫にすごい数余ってるじゃない!!
なんなのあのオーラ、呪いの人形だってあんなの纏ってたくないんですけど!いじめなの?ねぇいじめなの!?
あとせっかく最近はアクセサリーとかたくさん集めてるんだから、私にも使ってくれたっていいでしょう!?何でいつまでもアクセサリーの一つもつけないの!ポニテやめてシャープセミロングに総髪つけて同じ見た目にするんじゃないの!?
それにね……もう喪服は嫌……喪服は嫌なの!かわいい服着せてよ、こんな真っ黒いのじゃなくって、もっと明るい色のがあるじゃない!私だって、お洒落の一つもしたいのよーー!!!」




「おーけー社畜に意見を聞いた私がバカでした、そんなことで反旗を翻したとかあなたはケモミミ失格です!その耳、連れ帰ったあと勢いよくエステに放り込んできれいさっぱり無くしてやります!!」




即答!?うそ容赦なさ過ぎなんですけどこのノロケバカ、これで反省するどころかさせる気なの……!?
人の本気の叫びを黙れ社畜の一言で一蹴するとか……!こ、こんなの絶対コメントで皆私の味方してくれるんだから!社会が許さないんだから!!覚えてなさいよね!!」




「ごたくは三途の川を渡った後に閻魔様が聞いてくださいます。とりあえず一辺、死んでみる!?(裏声)」




ラフォイエを放つも、白四季は一足であらぬあらぬ距離を飛び抜けて、一気に遠くに離れてしまった。




「ちょっ、逃げる気ですか!?」




さすがに装備云々を置いても、駆け足ではカタナ使いのあちらに分があるか。
参った、逃げられるという場合は考えていなかった。




「……すっごく癪だけど、今の私じゃ貴方に勝てないことはよく解ったわ。
すぐに力をつけて復讐に来てやるから、それまで待ってなさいこの毒婦。
その時まで、せいぜいみんなのコメントにどっちが悪か思い知らされるがいいわ!」




超メタい捨て台詞を吐いて、黒い服に白い髪の四季によく似たその女は、金色の町並みの影に飛び込むように消えてしまった。




……途端、急に静けさが押し寄せた。




ほぅ、と息が一つ漏れだす。


張っていた肩はぎこちなく落ち、今になってようやく身体がまともに動くようになった気がする。




「……どっちが悪かって。そりゃあなたでしょう。社会とかそんなもんですしおすし……」


息を切らしつつ、ついでにボソッと独り言とか漏らしてみる。





……まぁ、最後まで書き終わってから全部一斉に投下するつもりなんで、ここについてのコメントは多分そんなに来ないんですけどね………←





***




その夜、マイルーム。


夜のちょっとした余り時間をおしゃべりに費やす、彼とのお決まりのゆったりタイムだった。




「そういえば四季、サポートパートナーについてはどうなった。帰ってきたか?」




ふと思い付いたように訊ねてくるご主人様。




内心ギクッとしたところがあったけど、こっそりと息を吸い直してから平静を装って、




「いえ……。ですが、目撃情報があったりしまして!ですから多分、無事だとは思うんです。
なので……、しばらく、ちょっと四季は忙しいかもしれません。申し訳ございません。」




出来るだけ嘘をつかないように、もともと聞かれたらこんなことを言おうと決めていた。




それを聞いた彼は、そうか、と呟くと、サポートパートナーコンソールの方にちらりと目線を向け、そのまましばらく黙っていた。




「……あ、いや、謝ることはないからな。手が必要になったらいつでも言えよ。」




「はぅ……っ!ご主人様が今日もイケメン過ぎて困るぅ………。
ですけどそれはお気持ちだけ。あっでもでも、しっかり受け取らせていただきますから!心に留めておきますね。」




ああ、そうしてくれ、と軽く笑ってから目線を外す。




それは多分、彼の『この話はここまで』といういつもの合図だった。




「あ、ところでご主人様。ひとつ、お尋ねしてもよろしいですか?」




そう仰るならば、違う話題を切り出してみようか。


ん、何だ?と彼がこちらに向き直してくれたのを見て、私はひとつ軽い咳払いをしてからその目をしっかりと見返して言う。




「えと、特に何かあったとか、そういうお話ではないので、どうか深読みせずにお聞きくださいね。
――ブラック企業と社畜の暴動って、どっちが悪だと思います?」




と、目を丸くしてキョトンとした顔をなさるご主人様。
そんな顔も素敵ですけれど、特に深く考えることはないと思いますが。




そうだな、と彼はこの間のような顎に手を当てるポーズをとって、明後日の方角を見ながら唸り声とか上げ始めた。




「……いや。悪って言われても難しいよなぁ。
暴動は完全にアウトだろうけど、ブラック?の方にも問題があったなら何かしら弁明の余地はありそうだし。
……まぁ、気持ち的には暴動する側を応援するかな。正しいと思って立ち上がったんだろ?なら、立場はどうあれ気持ちの上では声を聞きたいと思うかな」




あくまで他人事のように、感情を立たせないで、彼は勤めて冷静にそう言いきった。




「……そうですね。四季もきっと同じことを言います。そういう人を応援します。」




そして多分。そういう風に足を掬われるんだろうな。




と、ふと気がつけば何やら顔を覗き込んできていたご主人様。ななな、何ですか!?




「……いや。
さて、俺は行くから。」




と、ソファから立ち上がろうとする彼について行こうと腰を上げかけると、その前にぽふっと頭に手を置かれる。




「……ほぁ。」




「日本語でおk。じゃあな。ゆっくり休めよ」




そのまま名残惜しさの欠片も見せずに去っていくその背中を、私はついぞボーッとしたまま、ソファの上から見送ってしまっていた。





***






それから、白四季の目撃情報はちらほらと見えるようになってきた。




ただし今度はいろんな所で、いろんな惑星でと幅広くなっており、半ば嘘なんじゃないかとか思うくらい広範囲にわたるようになっていた。




「はぁー……、どうしたものですかねー……。」




その日も一番最近の情報があった地域を探し回っていたのだが、それらしい痕跡も何もなく、とぼとぼとマイルームに帰ってきたところだった。


ぐでーっとソファに倒れ込み、ふーソファ最高。あれ?何かぐでっとしたら説明途中でやめちゃいました、まーいっかー。




……しかし本当に、どうしたものか。




天井の明かりはいつにも増して眩しくて、手を顔の前にかざして影を作る。




目を閉じれば、あの白くて長いポニーテールが目蓋に浮かぶ。




……仮に見つけたところでまた逃げられないとも限らない。いや、何ならやられてしまわないとも限らない。


あの子もさすがにこの間みたいに真っ正面からやりあって勝てるとは思っていないだろうから、不意打ちの可能性は今度こそ十二分にあるわけだ。
それをわざわざ追いかけている今の私は、それこそ飛んで火に入るケモミミ女子という奴だろう。




いや。それ以前に、どうするつもりなのか、私は。




仮に見付けて、仮に殺さずに捕らえることができたとする。そのあと彼女をどうするのか。




とりあえずサポパなんだからそっちの管轄でしょってコフィーさん辺りにつきだすか。それとも、こっそり匿うとかそういうことも出来るのか?




……それは彼女の目的次第だけれど。
もし彼女が私を倒して私の席をとろうとかそういうありきたりな目論見で動いているのであれば、そのどちらも叶わない。


匿うという選択肢は消えるし、そもそも私が狙われているんだもの、私がやらないで誰が始末をつけるというのか。やっぱりそこは、やるやられるになった当人たちで片付けないと、あの子も無念だろうし。




……その時はそれで良いとして。もしそうでなかったら?




『自由になる』という言葉にはどんなニュアンスがあっただろう。自由を謳歌するといったか。
あの言葉が丸っと目的その物だったのならアウトだけど、もし目的が他にあって、その過程として私のもとを離れたいのであったとしたら………。




そもそも、彼女はサポートパートナー。主人の目的に沿うお手伝いさんであるはずの物なのだ。




背丈が大きくなってることについてはほんとに疑問というか謎というか何となく書いてみたかった神秘()という名の呪い的なあれなんですねわかります(解らねぇ)。


だからそこにはもう触れない。何一つ触れないとして。むしろ触れてくれないでくださいお願いします




そのサポパが、自由だなんだと言い出すことがまずおかしいのだ。だいたい、嫌な顔の一つもしなかったし苦言も漏らさなかったじゃないか。確かに話しかけなかったり、ファッションに気を向けなかったのは半分故意的なものもあったけど←



……主人を裏切ってでも、叶えたい願いがあるとしたら。


仮に、四季がご主人様に異を唱えることがあるとすれば?




――ふと、一つだけ思い付いた。




そんな立場も何も弁えない我が儘が、何よりも変えがたいくらいに大きくなるとしたら。
我が儘や身勝手だと解りながら、それでも通したい欲望があるとしたら――、




「……いやいや。それはない……。」


さすがの私もそこまでお花畑はしていないと思う。




ていうかそれだったらまじで四季の敵だし、容赦する気すら無くしてしまう。次会ったときにはまず半身燃やしてから問い詰めるか←




と、その時、マイルームの扉が開いた。




そろそろご主人様がいらっしゃる時間か。あわてて中央のお部屋へ向かって来客を確かめると、そこにいたのは長い銀髪をたなびかせる―――、




「………な、何ですか、そんな怖い顔して」




……grindaさんだった。




肩から長い刀を担いだ、女の子みたいな背丈の可愛い顔の男の子。




これでドジッ子の弱装備、PS皆無だったら、それはそれでウケるんじゃないかと思うんだけどなー。いつも会うたび、惜しいなぁ、と思ってしまう。




「い、いえ……!ごめんなさい、驚かせちゃって!ようこそ、おいでくださいました!ささ、どうぞ奥へ。ゆっくり座ってお茶でも飲んでいかれます?」




言われて、思わずタリスを取ろうとしていた自分の左手を脇に戻して普段通りに接してみる。




grindaさんは不思議そうな顔をしたあと、それじゃあ、と居間(だと思われる部屋)までついてきて、ソファに腰かけてくれた。




「最近、どうですかー?先日ラスベガスにお一人でいってきたーみたいなのをブログでケモミミに挟みましたけど、あそこはいかがでした?」




とぽとぽ、とお茶の用意をしながら背中の男の子に聞いてみる。




「うーん………とりあえず、攻撃頻度が少ないですね!ただ、UFOは空中にいるし若干硬かったので、厄介でしたけど……。
最近は探索エリアのボス巡りとかしてましたねー。ほんの気紛れですが。」




「そんな弱いとか歯応えないとか言わんといてください、幻想種だって必死に生きてるんです!必死に攻撃してるんです!」




「そこまではっきり言わなかったのに。。
あと多分生きてはないんじゃないですか、あれ」




「そうですね、四季も言ってから思い直しました。。 」




どうぞ、とお茶を出すと、丁寧に頭を下げてくる銀髪少年。




私も向かいに座り、いただきます、と言ってお茶を啜りだす。




「ところで、何かご用向きでした?」




早速だけどそう訊ねると、彼は迷わず、はい、と切り返してきた。




「用というか、むしろ、何か四季さんが私の事を探してたって聞いて。」




………一瞬ポカンとしてしまったが、すぐに納得してしまった。
まぁ、探してましたからねぇ、長い銀髪の女の子。




そう伝えると苦笑いしながら、ど、どこでそんな行き違いが………とか苦悩し始めたgrindaさん。。。いやー、行き違いもなにも??的な???




「そうですか………いや、何か四季さんがカタナ持ってたとかって聞いたから、てっきりカタナの事で何かあるのかと思って喜んで飛んできたのに………お恥ずかしい。。。」




「あー、まー、四季は刀はあんまり使いませんねー。
……ところで、そのお話はどちらで?」




「あ、それはさっきナベリウスの森林エリアで、フレンドさん知り合いの人が。少し話してたとか聞きましたけど……、
あ、そういえば、旦那さんと一緒じゃありませんでした?そんなことも言ってましたけど」