気がついたのは、いつだっただろう。




変わらない部屋。変わらない風景。変わらない日常。




その中に1度だけ現れた、あの綺麗な銀色の彩飾だけが、今は懐かしい。




……あぁ、そうか。つまり私は――、
















「サポートパートナーが帰ってこない?」




マイルーム。彼はソファに腰を掛けつつ、同じ言葉を繰り返すことで返答してきた。




「そうなんですよ。ほら、四季のマイルームにいつもちょこんと座ってたじゃございませんか。あの、呪いの人形さん」




ちなみにフルネームは『呪いの四季人形「シッキーさん」』。


言った通り私のサポートパートナーなのだが、その姿は私に瓜二つ。
唯一髪の色が白くなったくらいのもので、そのまま背をちっこくしただけという簡単設計。。。


某友人には『ネーミングセンスを疑う』と言わしめた渾身の名前なのだが、どうしてか私もちゃんと呼ぶのは気が引けてしまう。




ちなみに、その呼び方を今まさに苦笑いで流そうとしているこの男性は、私のご主人様にあたる人だ。




赤と黒の、鎧と呼ぶには軽装な服を身に纏った少年みたいな青年。
さしたる特技があるわけでもなく、さしたる目的があるわけでもない、ごく平凡な男の子然とした男の子。




……まぁ、だから良いところがないとかそういう訳ではないのだけど。あんまり解りやすい所じゃないのだ、この人の美点は。




と、苦笑いしているのにも飽きたのか、ふむ、と顎に手を当てて考える風に唸りだした。




「しかし、あんまり聞いたことない話だな。サポパについては、コフィーさんかアスタルテさんに聞けば何か解るかな?」




「むぅ……。お話を大きくする前に、こっそり帰ってきてくださると嬉しいのですけど……。」




はぁ、とため息。よそで迷惑かけてませんかねー、あの白四季。




ことの始まりは、昨日の晩になる。
うちのサポパさん、こと呪いの人形さんに、夜寝る前に10個の素材回収をお願いしたのだ。




これは日課的なもので、彼女もいつも文句ひとつ言わず、頑なに無表情で言われたことをひたすらこなして朝には帰って来ているものだったのだが。
今日に限っては今朝から、こうして夜になっても帰ってこないという訳なのだ。




「……サポートパートナーだって敵を倒して素材を毟ってる訳だからな(多分)。何があっても帰ってこれる理由はないと思うけど………。」


これはまた残酷なことを仰る。




「…まぁ、その通りではあるのですけど。
しかし、色んな惑星のオーダーまとめてお願いしましたので、ちょっと捜索というのも場所が絞れないんですよねぇ……。」


苦労してるんだなシッキーさん………、とまたも苦笑い。
あら素敵。 ところでどうでしょう、そんな素敵笑顔に吐血ペイントとか、ご入り用じゃありませんか?




「いらん、というか何でそうなる。」




「ご主人様が四季以外の女のことを考えていらっしゃるからですっ。」




「あれはそういうカウントに入らないだろ……、ほら、ちっちゃいし。」




ん?ちっちゃくなければアリとかそういう意味ですか?やっぱりこれは一発、吐血ペイントの刑かなー。。




「手伝おうか?もし自分で探す気なら、俺も手を貸すよ」


と、私の処刑宣告も完全にスルーして、彼は真顔でそんな事を言い出してきた。




「………いえ、大丈夫です。
あは、何だかご心配ばかりおかけしちゃいましたね。解決するお話でもなかったのに、失礼いたしました。」


ぺこりと頭を下げると、いや、謝ることは、とか困ったようにあたふたするその姿がちょっとだけ愛らしい。




……本当は、ちょっとだけ迷った。


頼るのも全然アリだったのだろうけど。
有り体に言えば、あんまり迷惑かけたくない、とかそんな気持ちが勝ったのだと思う。




「ささ、そんなつまらないお話はロフトバグを使ってマイルームの外に投げ捨てちゃって!今日はもう寝ちゃいましょう!
マイルームの入室制限かけてー、
座布団片付けてー、
布団一組だけ敷いてー、
はいご主人様!これで邪魔物はどこにも、
ってあれご主人様がどこにもいねぇ!!」




そんな冗談半分にも心配しているんだかいないんだかで翌日の朝を迎えても、結局彼女は帰ってこなかった。




***




……一応、探すフリくらいはしておきますか。




そんな風に思って、私はアテもなくアークスロビーのショップエリアに来ていた。




コフィーさんやアスタルテさんに話すと事態がどう捉えられるか見当がつかないので、やっぱり今はやめておく。




……別に、あんな自分と同じ顔したサポパに変な情があるわけではないけど。ただ、便利に使っていたパシリさんがいなくなるのは都合が悪いですし。


とりあえずこういう時は聞き込みから入るのが物語的に王道かな?と思って、暇してそうなアークスを探してみようと思ったのだ。




「あの、すみません」




「はい?」




「えっと………、」




その辺を歩いていた知らない女性アークスの方にとりあえず声をかけてみるも、何と聞けばいいのだろうとか、そんなことを考えておくのを忘れていたことに今さら気が付く。




くっ、何でしょう、テンパってるのか私!これだからコミュ障は!←




「えー……えっと、迷子を探しているんですけども!
こう、私とよく似たちっこい銀髪の女の子なんですが……、ご存じありませんか?」




しどろもどろな私の口調に何やら不審げな目を向けられた気がしたが、彼女は知らないとだけ言ってすぐに去ってしまった。




…………い、いえいえ、このくらい。まだ一人目ですもの、聞き込み調査は根気が大事と何かのテレビ番組で聞いたことがあるようなないような気もします!
ん?それは張り込み調査でしたっけ?




「あ、あの!」


「(´・ω・`)?」




「あの、よろしいでしょうか。」


「(=ω=)?」




「あの、すみません」


「σ(^_^;)?」




解ってはいたことだが、目撃情報なんてものはまるでなく。




その後も同じようにその辺を歩いてる暇してそうなアークスに片っ端から声をかけてみるも、どれも似たような答えをもらうばかりだった……。。





***





「ぶはーっ、いねぇーー!!」




一日をまるっと聞き込みで終えた私は、マイルームへ帰るとまずはソファに背中から倒れ込んでみた。




ぼふっ、といい音と柔らかい感触が背中を叩く。んー、ソファって素敵。何でリアル四季の家にはないんでしょう。




……ふと、目線がパートナーコンソールを通り過ぎる。




ま、帰ってきてはいませんか。




ふぅ……、とどこからともなく、妙に長いため息が漏れだす。




サポートパートナー。聞いた話によればどうにもロボットであるらしい彼らは、多少力のついたアークス個人に支給される、お手伝いさんのようなものだ。


基本的に主人の命令に逆らうこともなければ、恨み言を言うようなこともない。
ほとんど絶対服従姿勢で、命令さえあれば色んな惑星を飛び交ってエネミーをちぎっては投げちぎっては投げ、あの小さな身体で壊世区域のゼータグランゾとタイマン張ることさえもいとわない(うちのシッキーさんとか)。


ただ、個人の人格はどう見ても普通の人並みだ。一人一人の個性があるし、場合によっては文句や甘えも出る。
かといって、それは命令とかそういうのに外れない範囲での話だ。サポートパートナーとしての領分を果たすことについてはどこまでも機械的にこなしていたと、少なくとも私は思う。




……それが主人に無断で帰ってこないとしたら。




「…………どうしたらそういうことになるんでしょう。」




ふむ、と天井を仰いで考えてみる。




……まぁ、ご主人様の言う通り。考えておかなければいけない最悪は想像できちゃっているのですけど。




ふと、天井からぶら下がる明かりの眩しさが鬱陶しく感じていることに気が付いた。




……嫌だなぁ。気が立っているのだろうか。




でも。それで片付けてしまってはもしあの子がどこかで生き延びていた時に悪いですし。せめて四季だけは、望みを絶たずにいてあげるのが良心と言うもの。




……明日はお願いをした惑星にでも行ってみますかね。ていうかその方が四季には向いてると見た←




***





惑星アムドゥスキア、浮遊大陸。




文字どおり、空に陸が浮いている不思議地域。
地に足がつかない不安定な恐怖を煽る遊園地のアトラクション的なエリアである。
ここの依頼はいつも出しているので、まずはここに来てみていた。




……とか言って、こんな風に探していて見つかったりするならそれは大層な奇跡でしょうけど。




どこからともなく湧いて出てくる龍属の皆さんをジェットブーツで段差と共にひょいひょい飛び越えつつ、キョロキョロと首を回してどこかに人影がないかと探してみる。




「……うん?」




と、何やら少し離れたところに大きなエネミーの影が見えた。




どうにも戦闘中っぽい。何にせよ手助けにいこうと、駆け足でエネミーの影を追ってみる。




近くまで寄れば、影の正体は巨大な四本足の虫系ダーカー、ダークラグネ。
そして対するアークスは一人。




一人か。手を貸すのには良かったかもしれない。




私はまずタリスをラグネの足下に飛ばして、シフタ、デバンドでアークスの補助からする。


それでこちらの存在に気付いたアークスがちらっとこっちを見た気がしたが、構わずヒビの入っているラグネの足に狙いを定めて、光テクニックを撃ち込んでいく。


と、割と限界だったのか足はすぐに削れて骨だけとなり、ダークラグネはどしん、と空に浮く大地を揺らして倒れこんだ。




「今です、コアを狙って!」


おそらくもうそこそこのダメージを追わせているのだろう、とどめになることを祈って、その身体ごと落ちてきたコアに向けてラ・グランツをひたすら撃ち込んでアークス共々集中攻撃する。




――がくん、とさらに折れた反対側の脚の関節。


続いて何とか持ち上げていた半身もついに地に伏せる。
巨体はそのまま全身の力を抜いて、その存在感が嘘だったみたいに、泡のようになって消えていった。




「…………ふぅ。
さて、ご無事ですか?」




ラグネの前で一息ついていたアークスのところにタリスを投げて、返事が来る前にレスタを発動する。




「あ、ありがとう、助かりました……って四季にゃん!」


「!?」


にゃん!?




どこか安心したような笑顔でぴょんぴょんと近寄ってきたその少女。
しかしその顔は、確かによく見れば四季も知っている顔だった。




「えっと……加賀さんでしたっけ?ランドセルは空母のたしなみの」


「そう、加賀……じゃなくてクローディアだからね!?今はその、こんな格好してるけど!」


ぶんぶんと手を振って全力で否定するクローディアさん。む、おかしいですね。 加賀さんはクールと聞いたし、別人ですか。




「と、とにかく……ありがとう四季にゃん、助かったよ。」


と、彼女はにっこりと少女らしい軽やかな笑みでお礼をくれた。




ほぁー、クローディアさんの後ろにお花が舞う背景が見えたぜ……。。。純粋っていいですねー。




「いえいえ、お邪魔でなければよかったのですが。それでは、四季はこれで。」




「何か忙しいの?あ……そう言えば、四季にゃんが何か人探ししてるとか、聞いたけど……」




「ごはっ、情報早すぎぃ!?誰ですか、そんなアイドルのプライベートを盗み見てる不埒者は!?」




あと『にゃん』はどうにかならないのでしょうか、やっぱりちょっと恥ずかしいんですが。。。




「え、誰だったかな……あと、四季にゃんの髪の毛が真っ白になってたーとも聞いてたんだけど……、」




「――すとっぷ。その話、くわしく。」






***





クローディアさんの言によれば、白い髪の四季がフィールドをうろついているのを目撃した人がいるらしい。




しかも、複数の人が別々に見て、あれは四季だったと言っているとか。……となると、どうにも生きてはいるらしい、あの白四季。ちっ←








――目撃証言があったのは、惑星地球、ラスベガス。


キャンプシップから降り立つと、どことなくアークスシップのカジノエリアを彷彿とさせる町並みが視界一面に広がっていた。




『黄金の都』などと呼ばれることもあるらしいその地域は、なるほど確かに見渡す限り、金色の彩飾や明かりが蠢いている。


華やか、鮮やかと言えば聞こえがいいけれど。これはちょっと、四季のデリケートなケモミミには騒がしすぎて敵わない。
見るにも聞くにも耐えがたいとは、中々に防御のうまい作りをしているナーとか妄想してしまったりした。。




「しかし、何だってこんなところにいたってんですか、あのバカ四季は……」


はぁぁぁ、という重いため息も、夜の街の騒音にかき消されてしまう。




そんなこと一つにもげんなりしながら、とにかく私はその街を一人寂しく徘徊することにした。




え?ライドロイド?使いませんよあんな危なっかしいもの。ケモミミアイドルに事故死しろってんですか?




こつ、こつ、こつ。




道路のど真ん中を徒歩であるいて横断してみたり。




ざっ、ざっ、ざっ。




やたらと縦に長い建物の横をゆっくりと歩いて、キョロキョロと辺りを見渡してみたり、建物と建物の間を覗いてみたり。




こつ、こつ、こつ。




コンクリートを踏む下駄のミスマッチな音が、静かな街を木霊する。




……はじめは騒がしく思った無人の街の喧騒に、私はいつの間に静けさすら感じるようになっていたのか。


それもそのはずで、本当は元から喧騒なんてものは無かったのだ。ただ、この風景にそんなあらぬ騒がしさを感じただけ。




住めば都と言うけれど。きっとここも、慣れればいい庭なんだろうなと、他人事ながら思ったりしたのだ。




「……驚いた。貴方から出てきて下さるなんて。」




そんな声がしたのはどこからだったか。




「こっちこそ驚きです、不意討ち上等の外道の類いだと思っておりましたけど。まさか、ひとかどの善意とかそんなのとか、お持ちのつもりなんですか?」




いつの間にやら少し離れて前方に、一つの人影があった。




歩み寄ってくるその姿に、どんどん確信が湧いてくる。


黒い喪服めいた袴。四季と同じで何故か横に垂れてしまったケモミミ、白くて長いポニーテール。そしてあのちびっこい背丈……、




………背丈、が。四季と同じくらい、あった。






「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………あっすみません、人違いだったみたいですー、どうもすみません、じゃぁ私はこれで、」




「違うでしょ!?そこそういう反応じゃないでしょ!?
ねーほんとに、お願いだから……!もっとこう、シリアスを出端から挫くその癖だけでも治してから、シリアスなストーリーに手を出してよ!」




「えー。『空気ぶち壊し(エアクラッシャー)』は四季のケモミミに隠された10の特技の1つ。
それをなくしたら四季なんてあれですよ?ポケモンからポケモンジムを抜いたようなものですよ?」




「それこないだクローディアさんに聞いたから使いたかっただけでしょ!?確かにジムなくなるのは昔からポケモンやってる人にしてみればビックリだろうけど、ってあーもう何を親切に付き合ってるの私………!!
私とあれは別人、私とあれは別人、あんなノロケバカは赤の他人、ほんとリア充爆発しろ!」




「うっわーマジノリノリですよこのエセケモミミ、さすが私のサポパ、鏡を見ているようで血がたぎります。こう、破壊衝動的な意味で。
――と、いうわけで。
遺言タイムはここまでです。暴走ロボットはここで焼却処分といたします。
わざわざ出てきたというからには、お覚悟はお済みってことでよろしいのですよね?」




私がタリスを構えると、さっきの動揺はどこへやら、彼女はにやりと嫌な笑みを顔一面に浮かべ、どこから持ち出したのか刀なんぞ腰に構えだした。




「話は早い方が好きなのは同じよね。
さぁ、戦いましょうマスター。
でも安心して。貴方を斬って捨てたあとは、私があなたの代わりに自由を謳歌してあげるから……!」




えっうわまじですか、やる気なんだこの人。




彼女の腰に構えられた鉄鞘から、ちゃき、という控えめな音を鳴らして白い刃が顔をのぞかせる。




……その顔に。その輝きに何を思ったか。




ぞわり、と。背筋をつたう一筋の悪寒が、やけに心地よく感じた。