夜の暗がりに静まり返った無人の商店街を、二人で歩く。




こつ、こつ、という一定のリズムを踏む音。
足音は控えめにだけど通りを反響して、自らの存在感を示している。今ここにいるのは私と彼だけなんだな、余計に実感させられる。




少しだけ前を歩くその背中に、つい、ちらちらと視線が泳いだ。
……もちろん、帰ってくるアクションなんかはない。
ただ無言で、夜の静けさに包まれた帰路を進み続けた。










「月が見えないな」




静寂に耐えかねたのか……、いや、多分それはないけど。彼は唐突にそんな独り言めいた感慨を呟いた。




「隠れてしまっていますか。まぁ、最近のお天気は荒れていますからねぇ。今日のお昼とか、晴れてると思ったらいきなり雷とか鳴り出してビックリしちゃいました。。」




「残念だな。せっかくの夜なんだが」




そうですね、なんて言いながらぴょんと一足飛んで、ちょっとだけ距離を縮めて横に並んでみる。




そして彼の顔を覗き込むと、彼はこっちを見ながら少し驚いた風に目を見開いてぱちくりさせた。




「……な、なんですか。」




「なんですかとはなんですか。私はただ、お月様より綺麗な女が横にいますから万事問題ありませんよねー?って自己主張しただけですよ?」




「自分で言うな。。。」




ふふ、と笑いかけるだけして、もう一度後ろに下がる。




その距離に、ふと三歩下がってなんとやらということわざ?を思い出した。




四季の場合は、後ろに下がると言っても斜め後ろ。距離的にも一歩程度。
夫の影踏まずとはいかないけれど、多分その言葉の意味というか、気持ちというのはこういうのなのかなー、なんて勝手に納得した気になってみる。




「あ!えーと……歩き、食べ?食べ歩き?
立ち食い?します?」




ガサガサと買い物袋から菓子パンなんぞ取り出して、差し出してみる。。




「む。じゃあ、頂きます」




「でしたら四季も頂きます!あは、白状しますと、ちょっとだけお腹が空いちゃっていたのです……。。。」




ならそう言えよ、とか言いながら差し出した菓子パンの袋を開けて、改めて頂きますを言ってからかじり出す律儀なご主人様。
いえ、頂きますは大事ですけどね。本当は他にも大事なことはあるのですが。。




私も同様に頂きますしてから自分の分を食べ始める。






四季と主人の間では、この「深夜の買い物デート」(←四季がそう言ってるだけ)が定番だったりする。




2週に一回……まではしないだろうか。たまにこうして、二人で誰もいない夜に半額の食材を求めてスーパーに買い出しに行くのが習慣みたいになっているのだ。


そしてその日のお夕飯は買って帰る。
お弁当とかならともかく、それが菓子パンならこうして帰り道の途中で食べてみたりとか。




………お行儀の悪いことこの上ないとは思いつつ、でもそんな享楽を私達は楽しんでしまうのだから仕方ない。




娯楽なんて言うのはそういうもの。お堅いことは考えず、当人が楽しめるように振る舞うのが王道だ。丸っと纏めてしまえば、この菓子パンだのの嗜好食だって娯楽だろう。




ならそこに無粋な考えは持ち出さない。
楽しみに身を委ねているのだから、ケチだのお行儀だのは無視してしかり。こういう時だけは心の隅に仕舞っておくが吉なのだと、私は思う。








「明日と明後日、水曜と木曜は休みだから。ゆっくりできるな」




ここで突然の重大発表。。。解ってるなら早めに教えてくださいといつも申し上げているのですけどー。。




「かしこまりました。でも残念でしたね。
報酬期間に間に合えば、色々出来ることもあったのでしょうけど。」




「ああ、なので明日の夜は夜更かしするんでよろしく。 」




「えっ、マジですか!?夜更かしよくないですよ!?




「報酬期間は水曜の昼で終わるんだよ……、俺まだ何にもしてないんだよ……!!
あ、眠気に負けたらごめん。。」




「はい、では苦めのコーヒーをご用意しますね♪
明日の夜はぁ、寝かせませんよ(ハート)???
ふふふふふ。。。」




「乗り気なのかそうじゃないのかどっちなんだ。」




あれっ無視ですかそうですか……ご主人様が夜更かしゲームしてやるぜって時に四季がお供しないで誰がしてくれるというのです!
そもそもご主人様ってばボッチプレイヤーじゃありませんか!プロのボッチじゃございませんか!」




「大事なことなので?」




「二度申し上げました、ご主人様マジ乙!
でもでもいーんですよねー、ご主人様にはー、四季がいるんですものねー!
悲しいとき、辛いとき、ムラっと来たときいついかなる時にもお傍におりますもの!
ねー!ねーーー!!」




「くそっ、ブログ始めて知り合い増えたからって、フレンド一人だけの俺をいじめるのか……!」




あっ、やっぱり無視ですかそうですかそうですよねはい。。。ってゆーか、ご主人様にフレンドとか必要がございません。
ご主人様だって、フレンドなんかいりませんよね?四季がいますものね?ね?^^」




アッハイ……でも、お前はフレンド結構増えたんだろ?面白くないな、それも」




「ふふ、嫉妬しちゃいます?いいんですよ、お気の済むように、思い付く言葉を四季にぶつけて下さっても!
何なりとお申し付けくださいませね、かっこはーとかっこ閉じ(ハート)!」




「………………いや、別に、何も言わないけど。。じゃあフレンド切れって言ったら本気でしそうだし」




それはどうでしょう。。。そうしろって言う理由とか建前によりますが。











玄関前で扉を開けて待っていて下さる彼の横を、失礼します、とささっと通りすぎて先に家に上がらせて頂く。




彼も玄関に入って戸を閉めた辺りで、いつものように待つ私と来た彼の目が一度交わる。




「ただいま。」




「はい。お帰りなさいませ、ご主人様!」