テーブルに並んだのは、かつおのお刺身(半額)、鯖のお刺身(半g)、チンジャオロース(肉は豚、そしてはn)、玉子焼き(M10個100円!)。




そして、月桂冠。。。


解らない方のために補足。日本酒です。。




四季「はい、どうぞ。」




升(ます)のような形の、おそらくは別物のプラスチック製の四角い容器にお酒を注いで、彼の手元まで押して渡す。


自分の分も注いでから、深呼吸みたいな意味で、ふぅ、と息を吐いた。




「こほん。さてさて!それでは?」




酒の注がれた升もどきを持ち上げて、ちょこっとだけ首を傾げてお尋ねする。




「ん……、じゃあ、ゆっくりできるこの時間に。」




「はい。乾杯、です。」




「乾杯。」












お酒とは特別なものだ。




味が好きだから呑むものではないし、習慣として呑むものでもない。少なくとも四季にとってはそうらしい。
報酬。お祝い。そんな意味合いで人から人に与えられるべきものだと思う。なので自分に対してだけは簡単に呑まないように決めている。




そういうところは、お金とよく似ている。
自分のちょうどいいやり方を把握できれば上手く収まるし、溺れようと思えば取り返しがつかなくなれる。


その人それぞれの『欲』と『自制心』を分かりやすく教えてくれる。周りに対しても、自分に対しても。
実に私好みだと、いつも思う。




……つまり、何が言いたいかというと。


四季はお酒が大好きなのだ。。。






「オーディン行ってきましたよー。コレクトファイルもアドバンスとか行かなくて済みそうですし、結構ありなんじゃないですかね。」




「期間短いんだもんな、簡単じゃないと集められないだろ。
……しかし玉子焼き、綺麗に出来てるな。
昔は俺の方が上手かったのに……」




「とっとんでもないです!ご主人様の方がまだお上手ですよぉ!誉めるな危険、調子に乗ります!」




そんな雑談を交えていれば、一杯目は10分と待たずに切れてしまった。飢えていたのか私。。




失礼しますね、と二杯目を注いで、四季も自分の方を注ぎ直す。


そしてくいっと軽く一口。




………うん。美味しい。




ほぅ、と息を吐いた拍子に、ゆらり、と。
後頭部に酔いの指先が触れた気がした。


もう酔いが回って来たのか。……なら、少し貪欲が過ぎるということだろうか。




このお酒はご主人様のゆっくりできる時間をお祝いするもの。


なら、私がいつもより酔うのは仕方ない。だって、彼のお祝いに四季がはしゃがない理由がない。




……そう自分を納得させては、また一口。




「四季」




不意のお声に、目をぱちくりさせて『何ですか?』とアイコンタクトすると、




「今日の酒は、何点だ?」




四季の妙なこだわりを知ってるのか解らないが、彼はそう訊ねてきた。


明後日の方を向いて、んー、とかうなってみる。とはいっても、実際に考えていたわけでは無かったのだけど。




「……及第点。よりは上、です。美味しいですよ。」




鵜呑みにするだろうか、と若干の不安はあったものの、それでもこれ以上の評価は恥ずかしくって言えなかった。





「そうか。なによりだ。」




と、ぐっと勢いよく喉に流し込むみたいにに注いだばかりの二杯目をあおるご主人様。




「ご無理なさいませんように。
それとも、久しぶりのお酒に欲が出ちゃいます?」




そして自分の事を無理矢理押し付けるスタイル。。




「酒の呑み方なんて俺は知らないしな。
呑みすぎとやけ酒は避けるけど、あとは割りと呑みたいだけ呑む。」




まぁ、それでも。呑むなら静かな場所で、落ち着いた時間がいいとは思うけど。




そんなことを呟くように付け足して、おつまみに箸をつけていく。






そのまま、ほとんど会話もしないまま二人でお酒を呑み続けた。




おそらくは一合の目安であるその升もどきで、三、四杯は呑んだと思う。
四季もいつもより多めに呑んでいて、頭の中は冷静なままでも、外がふわふわしだした頃。


ふと、彼が窓にかかった閉められたカーテンに目線を注いでいたので、どうか?と尋ねてみた。




「……月見酒と洒落こんでも良かったな。ここからじゃ、見えないのが残念だ」




言うまでもなく、ここは我が家の居間なのだからそりゃ見えないのは当然である。
窓を開ければ見えないこともないかもしれないが、それも少し雑というものだろう。




「…………………えっと。それは、言葉通りの意味ですか?それとも何か、別の意図がありました?」




「ないよ、お前じゃあるまいし。月見酒。
良くないか?」




「どーゆう意味ですかっ。まぁ、ふむ、月見酒、ですか。
確かに、しばらくそんな風にはしていませんね。」




そうだな、とやけに感慨深く頷く。




……それは多分、本当に言葉通りに、今までの事を思い返していたのだと思う。


お酒のせいか、普段より感傷的になっているのだろう。その顔は今の幸せを喜びながらも、どこか悲しげに見えた。




「時間が早いなぁ……、もう、ここで何年になったか。」




「えっと、まるっと5年でしょうか。
こうして二人で、桜に虫の声、お月に雪と、かれこれ五回は酒の肴にしたものですね。
……いえ、虫とか嫌いですけど。あと雪も降らない年はありましたね。確か四季がここに来て三年目の冬。」





「よく覚えてるな。あと花見に酒は出なかったような気もするが。」




「よく覚えてらっしゃいますね。あれは仕方ないんです、一年目でご主人様の生千鳥足を拝見しましたから。。帰り道が怖いったらないんですもの。」




「……ほんとよく覚えてるな。あれはカッコ悪かったなーって今でもたまに思い出すんですが……」




「おや、まぁうふふ。ではカッコ良かったなーと思える思い出とかはあるんですか?」




「あるかんなもん。間違っても自分で自分をカッコいいと思う男なんかいない。」




それも世の男性を制限しすぎな気がしますけど。




そんな雑談に花が咲くかと思いきや、箸が止まって来た様子だった。




「このあたりにしておきますか?」




私がそう言うと、彼は少し悩んでから、そうだな、と笑って返してきた。




「んー、頃合いか!体も熱いし、実際眠気も来てるしな……」




「お片付けします。ご主人様は歯を磨いたら、あとはおやすみになって下さいませね。」




「わー四季さんマジお母さん」




「節子それお母さんと違う、ただの嫁や!」