池波正太郎の「剣客商売」をたしなむ~まゆ墨の金ちゃんの巻~ | 池波正太郎・三大シリーズをたしなむ

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2020年5月に当ブログを開設しました。

現在は「剣客商売」の本編・16巻の読みどころや魅力を紹介する「剣客商売を極める」シリーズを投稿しています。月1投稿ですが、こちらの記事も是非、チェックしてみてください。

池波正太郎の「剣客商売」をたしなむ

~まゆ墨の金ちゃんの巻~

 
みなさん、こんにちは。管理人の佐藤有です。
さて今回は、妖艶な雰囲気をかもす美形の剣士の登場と、剣客の宿命に立ち向かう大治郎の奮闘を描いた「まゆ墨の金ちゃん」を紹介します。
 
*以下は、2020年5月に投稿した「まゆ墨の金ちゃん」を再編集・加筆した内容となっています。
 

剣客商売・まゆ墨の金ちゃんあらすじネタバレ

あらすじ1)
梅雨に入った江戸では、来る日も来る日も雨が続いていたが、その日は珍しく朝から雨が上がり、昼過ぎには青空も見えた。
 
しかし、夕方には再び雨が降り始め、その様子を眺めながら牛堀九万之助は、冷やのまま茶碗で飲んでいました。
 
ここは、浅草・元鳥越、奥山念流の遣い手・牛堀九万之助の道場であり、規模は小さいものの名門の子弟が稽古に訪れる知る人ぞ知る名道場でした。
 
夕餉の前の晩酌を楽しんでいた時、老僕の権兵衛からある人物がきたことを知らされ、仕方がなしに部屋に通します。
 
その男は、へちまのような長い顔立ちに、大豆の粒のように小さい眼、鼻筋が奇妙に折れ曲がった風貌が特徴で、耳たぶに白粉をしのばせ、紅やまゆ墨をさした妖艶な雰囲気や、甲高い独特の声色から、口の悪い権兵衛からは「糸瓜の化け物」や「三浦の女男」と言われていました。
 
その人物の名は、三浦金太郎といい、女くささを醸しながらも剣術の腕前は牛堀も認めるほどであり、過去に半年ほど牛堀道場に滞在していた時には、牛堀の門人たちが一度も勝てなかったそうな。
 
三浦のことは、牛堀もくわしく知らないものの、浪人剣客にしては身なりが良く、諸方の道場へも顔が聞くことから、金が入る道もあるそうな。
 
さて、三浦が牛堀道場にきた理由は、秋山大治郎の命が狙われていることを知らせるためでしたが、詳しい事情は、三浦の口から言えないとのこと。
 
あらすじ2)
その頃、鐘ヶ淵では、小兵衛・おはるの婚礼が行われ、小兵衛方は大治郎、おはる方は岩五郎・おきさが出席しました。
 
そして、盃事を終え、大治郎と岩五郎夫妻がそれぞれ帰った後、牛堀九万之助が訪ねてきます。
 
牛堀は、先刻に尋ねてきた三浦金太郎から聞いた話を小兵衛に打ち明けます。
 
三浦によると、一昨日の夜、深川・万年町にある松平和泉守の下屋敷・中間部屋の博奕場にて、浪人剣客の内山又平太から声をかけられ、近くの油堀にかかる千鳥橋南詰の船宿「瓢箪屋」の二階座敷で話を聞くことにしました。
 
内山はさっそくある人物の依頼で、金五十両で秋山大治郎を斬ることになったこと、依頼主のことは一切明かせないものの、この仕事は失敗は許されないため、三浦に助勢をしてほしいと頼みます。どうやら、内山は秋山大治郎が、秋山小兵衛の息子であることを知らないようであり、三浦自身も牛堀の話から父子の事を知っただけで、内山の前ではわざと知らぬふりをしました。
 
しかし、牛堀と親交のある小兵衛の息子の窮地となれば三浦でも黙っていられず、内山への返事は2日ほど待ってもらい、考えた末、牛堀に内山との一件を打ち明け、内山の依頼は断わることに決めました。
 
話を聞いた小兵衛は、これも大治郎が剣客として生きていくための試練だと解釈し、己の力で解決させるべく、余計な手出しをしないと決めます。しかし、内心では、大治郎のことが心配であり、おはるとの盃事の初夜にも、消極的な態度を見せてしまい、おはるをすねさせてしまいます。
 
翌朝、雨はやんでいたものの、小兵衛はいまだ牛堀から聞いた話が気がかりで、大治郎のところへ向かうことにしました。その直前、三冬が訪ねてきて三冬と共に、おはるの舟で向かうも、大治郎は道場にはおらず、今戸の法性寺にもいませんでした。
 
その頃、牛堀道場には三浦が訪ねてきて、秋山大治郎を討つ一件について、自分は内山と大治郎との戦いを見学するだけ、つまり表向きの助勢だけを行ない、この一件には直接関与しないことを話します。
 
あらすじ3)
その夜。千鳥橋の船宿「瓢箪屋」で内山と合流した三浦は、内山の助勢に加わることを約束し、半金二十五両をもらい受けます。実は、三浦が加わることは、依頼主には知られておらず、しくじりが許されない仕事だけに内山も1人で成し遂げられるのか心配でした。
 
そして、大治郎の襲撃を明後日の夜に定め、内山が先に瓢箪屋を去ると、馴染の若船頭・米吉に小判を掴ませ、内山の尾行を依頼します。一刻後に戻ってきた米吉によると、内山は下宿先の村垣主水道場に入ったとのこと。
 
内山は依頼主には、三浦助勢を知らせないとしつつも、その事を依頼主に知らせれば、三浦が助勢を承諾したことになる、また、内山が村垣道場に入ったとなれば、村垣主水または道場が依頼主との関係がある。
 
実は、三浦の気かがりは的中しており、瓢箪屋を出た三浦が牛堀道場に向かった頃、村垣主水道場では、三浦助勢について内山が村垣主水に報告していました。大治郎殺害の計画は、本来は村垣が請け負う予定でしたが、諸方へ顔を出していることから表に出ることをはばかられ、そこで内山と三浦に目を付けました。
 
内山は、村垣の依頼で大治郎殺害の件を引き受け、報酬をもらっていたが、肝心の依頼主だけは聞くことが出来ず、そのことに触れようとすると、村垣は激しく怒り、内山に深入りさせないようにしていました。
 
翌日の早朝。三浦から話を聞いた牛堀は、まだ寝静まっている鐘ヶ淵の隠宅を訪ねます。牛堀は、大治郎殺害計画には、内山と接点を持つ村垣主水が関与していることを打ち明けます。しかし、小兵衛は、ここで自分たちが手を出しては、大治郎の剣客としての独り立ちができないといいつつも、牛堀の気遣いには感謝にも述べました。
 
内山・三浦による襲撃を明日に控え、何か思い立った小兵衛は、すぐさま仕度をし、おはるの舟で橋場へ向かいます。
 
突然の来訪に驚く大治郎をよそに、小兵衛は村垣主水と会ったことがあるかを聞き出します。大治郎は名前こそ知っているものの面識はなく、父親の不可解な行動に疑問を覚えます。
 
一方の小兵衛も、大治郎を大事におもうがゆえに、明日の襲撃の事を知らせようか迷っていたものの、それでは大治郎のためにならないとあえて心を鬼にし、襲撃のことを知らせないことにしました。しかし、その判断は父親として正しかったのか、自分でも分からなくなってしまい、気が付いた時には神田橋御門外に来ていました。
 
三河町一丁目の角地には村垣主水道場があり、江戸城の濠を望む濠端沿いの道を北から南へと行ったり来たりしながら、密かに村垣道場の動向を探っていました。その目的は、大治郎の命を狙う目的でしたが、こんなことをする自身の馬鹿らしさに呆れかえっていると、道場から村垣主水が出てきます。
 
村垣は供の者をつけず、濠端の道を南へ向かい、日本橋川と江戸橋の東方の入り堀の合流地点にあたる思案橋の東詰にある、堀江六軒町の料亭「桜屋」に入ります。
 
桜屋は小兵衛も二度ほど入ったことがあり、さっそく桜屋へ入った小兵衛は、女中へこころづけを渡すとさりげなく村垣主水の事を聞き出し、伊藤彦太夫との接点を見いだします。
 
伊藤彦太夫は、越後柴田藩五万石・溝口主膳正の用人であり、実は、「剣の誓約」の柿本源七郎の色子・伊藤三弥の実父でした。三弥は、小兵衛の弟弟子・嶋岡礼蔵を弓で殺害した者で、その直後、大治郎に片腕を斬られ、行方不明となっていました。
 
一方、村垣は溝口家へも出入りしており、女中によると、近頃は伊藤彦太夫と共に桜屋を訪れることが多いとのこと。
 
大治郎殺害計画は、おそらく伊藤彦太夫によるものと推測され、大治郎の剣客としての宿命が、ふりかかろうとしていました。
 
あらすじ4)
翌日は朝から雨が降り、小兵衛はいつまでも寝床から離れようとしなかったものの、七ツ(午後4時)になると起き上がり、風呂場で水浴びをし、白がゆと梅干し・瓜の漬物で軽くすませると、おはるの舟で橋場へ向かいます。
 
そして、一刻後。大治郎道場の東側の木立のひそみに向かった小兵衛は、町で買った茣蓙2枚を敷くと、雨具をぬいで笠をさします。
 
当初は関与しないつもりでしたが、村垣主水と伊藤彦太夫の関係を知ったことで大治郎の元へ駆けつけることを決意しました。また、村垣の人となりを知る小兵衛は、例え三浦が助勢しなくても、別の刺客を用意するとみて、万が一の時には大治郎を助けるつもりでした。
 
それから数刻がたち、大治郎が寝入ったと思われた頃、雨が降りしきる闇夜から大治郎宅へ向かう怪しい影が2つ見えます。2人は、石井戸の傍で何かささやくと、道場の土間・台所へ分れ、1人が台所口から入っていく様子を確かめます。
 
曲者は内山と三浦と思われるも、2人とも覆面をしており人相が掴めず、小兵衛は石井戸の傍へ駆け寄ります。たかが2人にやられるようでは剣客として生きていけないと思いつつも、ここは人の親、黙って見ていることに耐えられず、思わず木立から飛び出してしまい、国弘の脇差を引き抜き、戦いに備えます。
 
一方、大治郎宅では何者かの絶叫が聞こえ、台所口からは覆面をした男が出てきて倒れ込み、後から大刀をひっさげた大治郎が出てきました。
 
その時、覆面のもう1人が大治郎に声をかけ、大治郎の見事な立ち振る舞いに感激し、当初は助勢しないつもりであったが、大治郎と勝負をしたいと申し出ます。
 
その人物は、牛堀に大治郎殺害計画を知らせた、まゆ墨の金ちゃんこと三浦金太郎であり、大治郎は三浦の申し出を快く引き受け、真剣勝負に突入します。
 
人知れず小兵衛が見守る中、三浦と大治郎は刀身をぶつけ合いながら斬り合い、三浦はうめき声をあげると同時に、刀を落としながらその場に倒れ込みます。
 
その瞬間、「でかした!!」との声が闇夜に響き、声の主は小兵衛ではなく、牛堀九万之助でした。
 
小兵衛とは別のところで見守っていた牛堀は、大治郎に名乗りでると、共に三浦の手当てに取り掛かります。
 
大治郎宅に運びこまれた三浦は息が絶えつつあり、雨で化粧が流された顔には死相が見え始めていました。
 
死を予感した三浦は、改めて大治郎の凄さを実感し、いつか父・秋山小兵衛のような剣術遣いになると言い放ちます。
 
そして、最後の時まで美意識を失わなかった三浦金太郎は、牛堀の手で顔を拭いてもらい、まゆ墨を筆を持たせてもらうも、筆が眉にとどくか届かないところで、三浦は息を引き取りました。
 
-まゆ墨の金ちゃん・終わり-
 

剣客商売・まゆ墨の金ちゃんの登場人物

三浦金太郎:内山から大治郎殺害の助勢を頼まれた浪人剣客。父親は、三河・岡崎五万石・本多家の浪
         人。一時期、牛堀九万之助の道場に滞在したことがあり、それが縁で大治郎の殺害計画
         を牛堀に明かした。当初は、内山の助勢に徹する予定であったが、大治郎の凄さを目の当
         たりにしたことで、真剣勝負を望む。
 
         外見は、ややいびつな容姿と剃り上げたように薄い眉、大豆の粒ほどの目が特徴で、耳た
         ぶに白粉をしのばせ、まゆ墨をひき、紅をさしている。権兵衛からは「三浦の女男」「糸瓜の
         化け物」と称される一方で、小兵衛からは「まゆ墨の金ちゃん」と呼ばれている。
 
牛堀九万之助:浅草・元鳥越に奥山念流を構える剣術遣い。41歳独身。近所の酒屋「よろずや」で売られ
          ている銘酒・亀の泉を冷やで飲むことを好む。小兵衛とは、佐々木三冬の一件(女武芸
          者)で知りあい、以降も、親しくしている。
 
          三浦から大治郎の窮地を知り、小兵衛に知らせる。以降も、三浦を通じて内山の動向を
          聞かされており、襲撃当日には、小兵衛とは別の場所で大治郎を見守り、三浦の最期を
          看取った。
 
権兵衛:牛堀道場の老僕で、牛堀とは上州・倉ヶ野の時代から共にしている。口が悪いことが欠点であ
     り、三浦金太郎を「女男」などと呼んでいる。
 
内山又平太:上州・沼田の出身の浪人で、村垣主水道場に滞在する剣客。村垣から秋山大治郎殺害と、
         三浦を助勢に引き入れることを命じられる。内山は、村垣の依頼人を知らない。三浦と共
         に大治郎宅を襲撃するも、大治郎の刃に倒れた。
 
村垣主水:神田橋御門外に道場を構える念流の遣い手で、伊藤家の依頼を受け、秋山大治郎殺害を内
       山に命じる。門人300余名を抱える大道場の主で、諸方への出入りも多い一方、裏では高利
       貸をしていたり、、妾を囲っているなど、悪い噂がささやかれる。
 
       三浦金太郎も道場に出入りしており、内山に三浦を引き入れるように命じた。また、「雨の鈴鹿
       川」の天野兵馬は、村垣道場の門人だった。
 
伊藤彦太夫:越後・新発田藩五万石・溝口家の用人で、伊藤三弥の父。桜屋で村垣と待ち合わせていた
         ことを小兵衛に知られる。
 
伊藤三弥:伊藤彦太夫の三男で、柿本源四郎の弟子・色子。嶋岡礼蔵を弓で殺害後、大治郎に片腕を
       斬られ、消息不明となる。大治郎殺害計画との関係は不明。
       *伊藤三弥の詳細は、「1巻・剣の誓約」を参照
 

剣客商売・まゆ墨の金ちゃんの読みどころ

三浦金太郎は敵か味方か
大治郎の剣客の宿命を題材にした今回の一編では、大治郎の命を狙う刺客が登場しました。その1人が三浦金太郎であり、彼は牛堀を好意的に思っていたことから、大治郎襲撃には加担しないことを約束していましたが、もし、三浦が牛堀との関係がなかった場合、本当の意味で敵となり得る可能性があったでしょう。
 
しかし、最終的には三浦と大治郎は真剣勝負をしているので、広く言えば三浦金太郎は敵とも呼べそうですが、果たしてまゆ墨の金ちゃんは、大治郎の敵だったのか味方だったのか、その曖昧な存在感が金ちゃんの魅力でしょう。
 
息子のためと思っても・・・
今回は、大治郎にふりかかる剣客の宿命がテーマであり、最愛の師を失った伊藤三弥の恨みが、大治郎へふりかかったことでしょう。
 
息子の窮地を聞いた小兵衛は、大治郎を剣客として成長させるため、あえて手を出さないことを決めていましたが、どうしても大治郎のことが心配になってしまい、しまいには大治郎の助太刀をしようかと、身体が勝手に動いてしまいます。
 
剣客として生きるのではあれば、自力で解決できなければいけないと思いつつも、やはり、子供のこととなると、さすがの小兵衛も見過ごせなかったでしょうか。果たして、小兵衛のこの行為を甘いと見るか、それとも、親として剣客としてやむを得なかったと思うか、あなたが小兵衛の立場ならば、息子(大治郎)の窮地を聞いて、どのような決断をくだしますか。
 

剣客商売~まゆ墨の金ちゃん~まとめ

別記事にて、私は三浦金太郎を美形の剣士と紹介していたと記憶していますが、今回、記事の書き直しを機に、金ちゃんのどこが「美形」なんだと、自分で呆れかえっています。言い訳をするならば、死の間際まで美しさを求めたこと、女性が嫉妬しそうなくらいの美意識の高さが、金ちゃんを「美形の剣士」と称するポイントとなったでしょうか。
 
さて、次回の剣客商売をたしなむは、田沼意次老中の毒殺事件を通じて、幕府の主導権を巡る反田沼派の暗躍を描いた、「御老中毒殺」を紹介します。
 
この記事も、大幅な修正・加筆を行なう予定です。
 
本日も、最後まで読んでいただき、ありがとうございましたほっこり