「クリスマスの約束」とは、小田和正さんをメインアーティストに「アーティストがお互い認め合えるような番組」を目指してクリスマス前後の深夜にTBS系列で放映されている音楽番組で、今でこそ大物ゲストが登場していますが、最初の年2001年にはSMAP、福山雅治、桑田佳祐、松任谷由実、宇多田ヒカル、桜井和寿、そして長年「犬猿の仲」と言われた山下達郎の7組に小田さん自身が出演依頼の手紙を書いたが、結局誰も来なかったもの。
BREaTH Vol.42 2003年11月
対談 小田和正×スガシカオ
―スガさんは、小田さんの曲を聴いてきたほうなんですか?
スガ「僕、ずっとスキーやってて、たぶん有線だと思うけど、スキー場でずっとオフコースが流れてたんですよ。だからオフコースを聞くとスキー場を思い出すんですよ。でも、小田さんと言えば、TBSの「クリスマスの約束」放送、生で見ていたんですが、衝撃的だった。なんか凄いことになってるなぁって。なんでこの人こんな年なのに闘ってるんだろう。頑固そうだなぁって(笑)」
―スガさん正直に言いますねぇ(笑)
スガ「でも、オヤジになって丸くなるのは簡単だけど、頑固オヤジになるのは難しいことだと思うんですよ。あのステージに共演を呼びかけたアーティストが誰も来なかったわけでしょう?結果的に小田さんが赤っ恥をかいたわけじゃないですか、それが衝撃的で、その時に改めて興味をもったんです。」
小田「俺はでも、頑固になるんじゃなく、丸くなったつもりであれをやったんだよ(笑)
昔はそれこそ、取材とかラジオにゲストで出ても、“ああ、こいつつまらないこと言ってるなぁ”って思うと、それだけで引いて、しゃべんなかったんだ。それとは別に、ただ黙ってる時もあったんだけど、そしたら“あいつは生意気だっ”て、95%は言われたからね(笑)
でもある時からさ、“そうじゃなくて、悪気無いけど黙ってるだけなんだ”って、せめてそのくらいは人生の中で伝えるべきだって、そう思うようになったんだよな。
で、その延長線上で、もし“いい曲だなぁ”と思うなら、黙ってないで相手に伝えたいなぁ”というのが、あの番組だったんだよ。
でも、・・・実は誰も来ないとは思わなかったんだよね(笑)。“説得力ないんだなぁ俺は”とね。でも、それをひた隠しにするんじゃなくて、ぶちまけたほうがいいと思ったんだよ。そのほうがみんなで考えるきっかけになるから。でも、もし番組に来てくれたら、そこから何が始まるだろう、というのもあったんだけど・・・だから、あの番組は最初から着地点の見えないところでスタートしたんだよ。そしたら、思いのほか反響があってね。」
スガ「新人なら、まず音楽がどうかって聴くけど、ある程度キャリアのある人だと、ミュージシャンとしての魅力のほうが気になるんですよ。
志とか、立とうとしている位置とか、そこに興味がわいて、そのミュージシャンの曲が愛しくなったりもするんです。
で、あの番組はそれを感づかせるのにとてもくできていたわけなんです。
たぶん、あの番組を見てなかったら、今日会ってお話しようと思わなかったかもしれないんです。あの後、もう一度、ちゃんと小田さんの曲を聴いてみないと・・・と思ってるところに【自己ベスト】が出て凄いはまってしまったんです。」
小田「商売上手なんだよな(笑)」
2001年のクリスマスの約束に来なかった山下達郎さんからは手紙が届き、それを番組内で披露した。
元々、小田和正さんと、山下達郎さんは犬猿の仲と言われていた二人であった。
スガ「でも、仲が悪かったんですよね。ふたりは(笑)」
小田「おそらく原因は、六本木のソニースタジオっていうのがあって、昔そこで隣同士でやってたんだよ。
当時のフォークの連中とかの感覚だと、初対面でも愛情表現としてスタジオを訪問して、相手も“おう、来てくれたのか”みたいな、そのつもりで気持ちを振り絞って達郎のいるスタジオに入っていったんだよ。そしたらあいつがピアノかなんか弾いていて、・・・エンジニアもいて。
卓の前に椅子があってそこに座って見ていたんだよ。そしたらエンジニアに演奏中で神経質になっているから出て行ってくれって言われたんだよ。
きっと、アイツは初対面なのに勝手に人のスタジオに入ってきて・・て思ったんだろうね。確かにピアノを弾いていて神経質になるのもわかるし。
俺は断りもなく勝手にスタジオに入っていったんだけど、俺は挨拶のつもりだから。」
スガ「え?たったそれだけのことなんですか?」
小田「その後、一回だけ日本にグラミー賞のようなものをつくれないかって俺が動いた時に、こっちから電話をして、普通に話してってことはあったけど。」
スガ「でも僕は、山下達郎さんにはすでに相当目をつけられていると思うので。自分のラジオで曲をかけるときに、“口は悪いが、音はいい山下達郎さんの曲で・・・”とか公共の電波で言っちゃってるんで。(笑)」
小田「それはきっと喜んでるんじゃない?」
スガ「僕、目上の人を茶化すのが結構好きなんで(笑)」