ドキュメントジャンク小説『ヤグルトさん』
『お盆だよ！ヤグルトさん！』
今年の夏は暑かった。
観測史上最も暑い夏になるのではないかという予測に違わぬ、とてつもなく暑く短い夏だった。
おれは毎日バタバタとオリジナルアルバムの制作に追われていて、今年の夏はろくにヤグルトさん（実母、82才、O型）の相手をすることができなかった。が、お盆の時期にヤグルトさんの家に出向く機会が一度だけあった。お寺の住職に来てもらい、仏壇にお経を上げてもらうためだ。
日本のお盆というのは趣が深い。
お盆の入りには迎火を玄関で焚く。その煙に乗ってご先祖様が家にやって来るのだ。
ご先祖が早くみんなに会えるように、きゅうりと割り箸で作った馬を作って飾り、お盆の帰りはゆっくりとあの世に帰ってもらいたいと、ナスで作った牛を飾る。昔の人が自分の生活の周りだけで、なんとかご先祖を敬おうという気持ちが、日本のお盆の作法にはたくさん現れている。立派な灯篭や高い壺や高価な数珠がなくても、気持ちだけでお盆を迎えられるのだ。そうそう、東京では禁止なのでできないのだが、いつか灯籠流しっていうのも見てみたい。
前段が長くなりましたが、そんなこんなでヤグルトさんの家にお昼12時に集合いたしました。
暑い夏ではありますが、住職のお経が部屋の中を通り抜けて行くと、暑さも一瞬忘れ、なんとなく清々しい澄んだ気持ちになるのです。風鈴もチロンと鳴り、蝉の声がそれに輪唱します。
ふと横を見ると、正座が苦手なヤグルトさんが早くもモゾモゾと座り位置を変えたり、足の指を動かしたりしています。まぁ、これもスガ家伝統の風物詩、今年も夏だなーっていう感じがします。
さて、一通りお経も終わり、住職とご先祖の話に花を咲かせ、今年も無事に終了かなと思っていました。ふと、ヤグルトさんの部屋を見渡す。
随分と部屋が汚い。
いや、汚いというか、単身赴任のサラリーマンのマンションみたいな無機質な荒れ方をしている。
ヤグルトさんが普段活動しているであろうエリアは、そこそこ綺麗に片付いているのだが、それ以外の場所が廃墟化してきている。新聞は積みっぱなし、亡くなった犬の遺品も出しっ放し、ゴミ箱から溢れた天津甘栗の袋、なんの薬かわからない2008年の薬袋、埃がうっすら積もったサイドボード・・・荒れてるな。。
隙をみて整理をすることにした。
おれはこう見えても掃除魔＆ゴミ捨て魔だ。
ちっ、おれがこの前ハワイからお土産で買ってきたテーブルクロスが、なんか風呂敷みたいな使われ方をしてて、ゴミみたいなものを包んだまま箱の下に放置されているではないか。くそ、200ドルもしたのに・・・。
まぁ、いい・・・お土産とはそんなもんだ、こちらが所有権を主張するものでもなかろう。
住職もお帰りになり、部屋の掃除もはかどったので、そろそろおいとましようとおもった。
そうだ、植木に水をあげなきゃ。
ヤグルトさんの家は、何気に緑がたくさんある。ベランダにも室内にも植物が何鉢かあるのだ。植物好きのおれとしては、ここはキッチリ決めたいとこだ。
まず部屋のコーナーにあるゴムの木から・・・大きなコップに水を汲んで、ゴムの木に近づいてみる。
あれ・・・
造花だ・・・。
よくできてるな。
というか、ヤグルトさんは造花が本当に好きらしい。父が亡くなった時の病室も造花であふれていたし。
ヤ『水をあげなくていいのが、とってもいいのよ！便利で！』
（；゜０゜）まぁ、いいんですけどね。
根本的に生命に対する価値観が違うんで、もう追求しませんよ。
いくつか室内の鉢に近かよってみたが、みんな造花。どうやらベランダの植物（野生化）以外は、ほぼほぼ造花なのかも・・・
でも一個だけ日当たりを考慮した置き方がされていて、ちょっと葉に元気が無さげな鉢があったので、これはリアル植物だろうということで、水やりに行った。
枯れている。
造花なのに枯れてる。
えーー（；゜０゜）、造花って枯れるんだ？？
てか、月面とか砂漠じゃないんだから、造花まで枯らすなよ。おそろしーわ。渇きすぎだろー。
今年の夏も、造花に囲まれてヤグルトさんは元気に過ごしています。
健康診断もオール5、造花から生気吸い取ってんじゃねーのか？？ってくらいです。
合掌。
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