スガ シカオ『おれなりのBiS階段』

おれなりのBiS階段

朝から晩までノイズとジョン・ケージとアバンギャルドばかり聴いていた１０代。

次にくる音が譜面で決められている音楽など、ばかばかしくて聴いていられなかった。

ギターなんかチューニングしなかったし、コードとかまともに弾くのも恥ずかしかった。

ディストーションを４個つなげてアンプフルテンでノイズ出して、叫び担当の友達とずっとノイズバンドをやっていた。

ノイズと混沌と不穏のなかにこそ、その頃の自分のロックが存在していた。カッコよく言うとね・・・。

真夜中にヘッドホンで『蔵六の奇病』とスロッピング・グリッスルをエンドレスで聴いて、そのまま徹夜で学校に行って、バイトにいく毎日。

だいぶ病んでんな、いま思うと・・・。

でも大好きだった非常階段やハナタラシのライブには、とてもじゃないが怖くて行けなかった。

火炎瓶や汚物を客に投げたり、女性メンバーがステージで○○したり、ライブ前にケガや死亡に際しての誓約書を書かされたり、本当にいつ死人が出てもおかしくないライブだった。

条例や規制で管理されてる今の時代とは違い、人が死んだら死んだで何となくそうゆうものなんじゃないか・・・とスルーされてしまうような時代とシーンだった。

しかたなくバイト代で、安全なライブVHSを買って我慢していた。

非常階段のライブでは、臓物や動物の死骸や汚物がまき散らされるので、いつもステージ全体～壁までブルーシートが敷き詰められているのが常だった。

１０代のおれは、その陰でこっそりおニャン子クラブも聴いていた、もちろんこそこそ写真集も買った。いまでいうところのAKBみたいなものだ。推しメンがいて、毎日夕方の番組で最新情報をチェックしていた。おニャン子クラブの話題なくして、友達とのコミュニケーションはできないほどだった。

でも・・・おニャン子クラブには、非常階段とコラボするようなタフさや暴力性はなかったし、そんなコラボを望んでいるファンは多分おれ一人くらいだったと思う。いや待て、おれもそんなこと望んでいたかどうかは定かではない。

いずれにしても、両者はノイズとアイドル、存在する世界も意味も180度違った。

そこでBiSだ。

2010年デビューの女性アイドルグループ。

申し訳ないが、BiSに興味はなかった。異臭を放つオルタナ感はおもしろいとは思ったが、アイドルとして首突っ込むほどのトピックスはなかったし、メンバーの名前（ややこしい）すらしらなかった。

そんなある日、非常階段を掘っていたら、BiS階段の映像を見つけてしまった。

BiSは、非常階段とガチでジャムっても全くブレないばかりか、時には非常階段さえ飲み込んでしまっているかに見える時もあった。BiSのメンバーの血にぬれた白いセーラー服からは、おもちゃの内臓が飛び出してユラユラ揺れていた。彼女たちは完全に、このジャンルの歩き方を心得ていたのだ。

個人のキャラや名前などよりむしろ、BiSの集団的狂気感と溢れ出る刹那に一発で魅了された。ちゃんとBiSのアルバムを聴くと、サウンドも一本筋が通っていていい曲ばかりだ。

非常階段のファンだけではなし得ないであろう熱狂と青い暴力性、BiSと研究員（BiSファン）達が、いとも簡単にライブハウスいっぱいにそれを作り上げていた。

おニャン子クラブでは決してなし得なかった狂気とロックとノイズとアイドル、猛烈にエモーショナルだ、最高すぎた。。

2014.5.6 BiS階段LAST GIG @ WWW/アルケミーレコード

￥3,780

その界隈では非常階段は世界的に知名度が高い。BiSのパフォーマンスとビジュアル、楽曲のグレードの高さをもってすれば、おれは日本でよりも世界での評価が期待できるのではないかと本気で思っていた。こんなアイドルは日本にしかいないし、世界で成功したきゃりーとは真逆のポジションが絶対あるはずだと確信していた。

が・・・その夢も、BiS解散によりついえた。残念だ。

非常階段、BiS、どちらかが欠けても、もうBiS階段のあの刹那陽気な世界は作れない。

BiS階段のBOXセットはとても高価だったが、映像に残されたお約束のブルーシート、客の熱狂、豚の死骸、BiSのダイブ、そしてニューアルバム、あ、それからお宝Tシャツ（デカくて着れねーし）・・・ブルーレイで見る気にはちょっとならないが、解散ライブを見れなかった自分にとっては最高の遺産Boxです。