良い本とは
内容が素晴らしい本か
それとも
私が私を見つける本か
『記憶する体』
著:伊藤 亜紗
メモをとる全盲の女性は強調すべき場所でアンダーラインを正確に引いた。
12人の体の記憶、11のケース。
ある特定の出来事の記憶が日付のないローカル・ルールに変化していく。
点字を使いこなす男性は点字を読むとき色が現れる。
生まれつき耳が聞こえない男性は背後に気配を感じて振り向く。
右腕をすべて切除した女性は幻肢が胴の中に埋まって動かせない。
私は一週間前に読んだこの本の内容を覚えている。12人の体の記憶の記録を覚えているが、同時に、本を読んでいた時に湧き上がった感情が邪魔をして上手くまとまらない。本の感想をただ述べたいだけなのに、出来ない。他の本でここまで混線することはないのに。
私はこの本を記憶している。
そして、この本の中に入り込んだ私も記憶している。
たぶん後者のほうが存在が大きい。
だから
この本は
良い本だと思う。
とても良い本だと思う。