この映画を倍速で観た人の

感想なんか

いらない

 

『スワンソング』(2021年、アメリカ)

 

あらすじーー

主人公のパトリック(元有名ヘアメイクドレッサー)は老人ホームで職員に隠れて煙草を吸うのを楽しみつつ、ゆったりと人生に幕を下ろそうとしていた。そんな平凡な日々のある日、元顧客で街一番のお金持ちだったリタの訃報を弁護士から聞く。リタは死化粧をパトリックにお願いしたいと遺言書に書いていたのだ。リタの願いに揺れる思いを抱きながら、彼は溢れる愛と喪失の過去に彩られたサンダスキーの街へ歩みはじめる。

 

で、本編見た後に

余韻に浸りながら予告編観たら

 

あああああ、違ううううう!

違うの!予告編が!

音楽とナレーションが軽すぎる!

ゲイってポップでカラフルでカルチャーでしょ?みたいな押し付けのイメージじゃなくて、この作品はもっと湿度が高いのに。

伝わってこない。

めっちゃいい作品なのに予告編で損してて

悶々してしまいました。

 

それぐらい、良い作品です。

ご老人が街に一人で行くなんて、誰かに騙されたりしないかとヒヤヒヤして観れないのですが、サンダスキーの街の人は優しく暖かいのでご安心を。

 

パトリック(通称:パット)のウド・キアーが最高なのは言わずもがな、その老いを表現しつつ湿り気のある間とウィットに富んだ会話がちょうどいいバランスで、この映画を倍速で観ても何も分からなくない?って感じますが、皆さんはどうお考えですかね。

 

倍速で観る人ってストーリーの流れと情報が欲しいだけならネタバレ読めばいいから、それこそ「観る」時点でタイパもコスパも悪いと思います。

 

老人ホームでパットに髪を綺麗にしてもらう高齢の女性の、その懐かしさと寂しさと、女性として、そして1人の人間として扱われた喜びの表情も倍速なら一瞬で終わるんでしょ?

え。

一瞬で読み取れる表情の情報量じゃないのに?

読み取れなければそのシーンはスルーするの?

じゃあ最後に何が残ってるの?

って、感じちゃいますが

それは私が老いているからでしょうか。

 

でも

それなら老い万歳。

 

あの美しく変身した彼女の表情も、パットの靴の変化も、それを見て最後に微笑む彼の笑顔も、全て心に響くのは老いが与えるギフト。

 

心から喜んで受け取ります。

 

 

 

 

●「swan song」とは芸術家などの生前最後の作品で、死ぬ間際の白鳥は最も美しい歌声で歌うという伝説から生まれた言葉だそうです。知らなかったー。芸術でも何でも老いは下降みたいなイメージがあるけど、最高潮が最期の時って素敵ですね。