私は若くない。健康診断で再検査にドキドキし始める年齢だ。この歳になると自分の人生はこれぐらいで終わるんだなとフワッと予想し始めて、そのおかげか今まで気にし過ぎていた事が一気にどうでも良くなり昔より楽に生きられるようになった。楽に生きるにはコツが必要で、そのコツの一つは捨てることだと思ってる。そんなワケで私は英語を「話す」のを最近捨てた。何度か海外に行ったがどうにか生きて帰ることが出来たし、特に親しい友人もいないので覚えても使う頻度も少なく記憶がすぐに消えていくから、正直もういいかなって。英語に興味があるわけでもないのに必要だと思って勉強してる風を装ってみたが、人生の優先順位を考え始めたら無理しなくても良い。では全て捨てれば楽になれるのかと言われれば、そうではない。コツはもう一つある。それは全てを深堀りしないことだ。

 

私は英語を「話す」のは捨てたが「読む」のは捨てていない。英語の話し相手はいないが、読みたい海外の本はたくさんある。違う国で生まれた人々の日々の徒然を知りたいし彼らが生み出す物語にも浸りたい。そして知りたいのは英語圏の事だけではない。髪を染めたおばあさんから始まるスウェーデン語の北欧ミステリーも、無愛想な白文も、デンマーク語でアンデルセンも読みたいし、グルジア語でお父さんが何ていうのかも知りたい。だから「深く」じゃなく「浅く」でいい。他人の満足に合わせるのではなく、自分が満足できる範囲で十分だ。

 

「なんだ、そんな事も知らないの?」って言われたら、「ええ、そんな事は私の人生に必要ないんで。」って微笑みながら言い返すぐらいが長い人生生きるのにはちょうど良い。若くない私はそう思ってる。