子供の頃は野球をやっておりました。
野球が楽しくてしょうがなくて、その野球を華麗にこなすプロ野球選手の方々に憧れていました。
自分がプロ野球選手になって、自分の好きな球団に入って、好きな選手たちと一緒に野球をすることを妄想するのが大好きでした。
ある日、私は父親に自分の夢の話をしました。
ただ父親の口から発せられた言葉はあまりにも予想外のものでした。
私だって本気でなれるとは思っていませんでしたが、やる以上はそれを目指すのが当たり前だと思っていました。
野球を勧めてくれたのは父親でしたから、てっきり喜んでくれるものかと思っておりました。
今思えば、父親に対する私なりのリップサービスのような意図もあったのだと思います。
だからこそ、その言葉が今も頭から離れないのだと思います。
「お前には無理だよ。」
数日後、母親にも同じ話をすることにしました。
その時は母親をを試すようなつもりで話しましたし、なんとなく嫌な予感はしていましたのでそこまで驚きはしませんでした。
それでも、とても悲しかったことを覚えています。
「無理に決まってるでしょう。」
それ以来私は、人に自分の夢の話をあまりしなくなりました。
大人にそれを聞かれた時は、大人の喜びそうなもの、例えば小説家や獣医、あとは弁護士になりたいなどと答えるようにしておりました。
一緒に野球をやっていた友達に聞かれた時には、
「僕にはプロは無理だから、頑張って社会人野球とか出来たらいいな」
なんて答えておりました。
もう遥か昔のことですし、別に親のことを憎んだりはしていません。
実際、お世辞にも上手とは言えませんでしたから、両親の言っていたことは正しかったのでしょう。
ただ、私がこの出来事を忘れることは生涯ないと思います。
現に10年以上経った今でも、あの時の景色や天気、ふたりの表情や笑い声など、その全てを鮮明に覚えております。
せめて、走馬灯にこの景色が含まれないことを祈るばかりです。