次男が初めて輸血をしなければならない頃、父が他界した。

末期の膵臓がんだった。

次男が救急車で運ばれた翌日、歩くのもやっとだったくせに、何としても会いに行くと言って聞かず、母と集中治療室までやってきた。

「じぃじ、だいじょうぶなの?」

と、次男に心配されながら。

私に何度も何度も

ひろは、大丈夫だから。
あの子は強い子だから。
大丈夫だ。
大丈夫だ。

と、言って、泣きじゃくる私の頭をなでてくれた。泣くのをずっとがまんしていたのに、父の顔を見たら、涙が止まらなかった。
父のガン告知の時を思い出していた。

いくつになっても、私は娘で、大好きな父だった。

亡くなる一ヶ月前、毎日父の入院先に通ってから、次男の病院に行く生活をしていた。
私が行くと父はいつも、

俺は大丈夫だから、早くひろのそばにいってやれ。

と、言い、

早く良くなって、ひろのところ見舞にいってやらなきゃな。俺が寝てる場合じゃないな。

と、笑った。

そう言ってたのに。

お父さんの嘘つき。

元気になったひろに会いに来るって行ったくせに。

お父さんの嘘つき。