あらすじ
義母からの苛めに遭う秋夜、継父からの虐待に怯える小学生の優真。二人の絶望が交わる時、惨劇の連鎖が始まる。
高台の公園からは家々がよく見える。そのくせ内情はだれにもわからない。その家でなにが起きているのか、だれが泣いているのか、苦しんでいるのか。「入れ物」を見下ろすだけでは知りようがない。だが、確実に「それ」は起きている。
感想 ★★★★★
「彼に負わせた傷や苦しみを消し去れたらいいのに。それがわたしにできないのなら、どうか。
彼の頬に触れる手が柔らかく、この上なく優しくあるといい。彼の唇から発せられる言葉すべてが美しいものならいい。悲しい言葉や苦しみが生まれないといい。黒々としたまつ毛が涙に濡れないといい。瞳に映るものが「輝くもの」と「生」ばかりならいい。伸ばした両手で掴むものが彼の利になるものならいい。欲したものだといい。これから歩む長い人生が、芝生の道ならいい。裸足で歩いても足に傷が付かないほど易しいものならいい。どうかこの先、彼が少しも傷付きませんように。必ず、幸せになって。」
まるで足場の悪い崖上にでも立っているような表情だ。彼はいつでもやわらかな大地の上にいなければならないのに。