ちまちゃんの話 2 | 「きらら&みるく」

ちまちゃんの話 2

ちまちゃんは しっぽの長い きれいな子猫だった。

そして ひとりごとの多い 猫だった。




お母さんとクロちゃんがいなくなって さみしくなった ちまちゃんは、こっそり隠れながらも、いつも近くにいるようになった。


台車の下、作業台の影、型置き場のすみっこ。



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そして ごはんを手から食べるようになったのは すぐだった。


手から食べては逃げ、また食べにくる。

それを繰り返して、ごはんに夢中になっているときに、そっと頭をなでてみた。


ううー ってうなって逃げたけど、何回か繰り返してたら、大人しくなぜられてた。


その日から、だんだん心をひらいてくれて。

頭をこすりつけて甘えるようになって、おなかを見せて転がるようになった。


もう抱っこしても 大丈夫かなぁ?


思い切って抱き上げたら、ゴロゴロとのどを鳴らせて ものすごく甘えてくる。

にゃーにゃー泣いて。ゴロゴロいいながらずっと泣いて。


ちまちゃん ひとりぽっちで ずいぶんと寂しかったんね。




今まで我慢していたのか、安心したちまちゃんは そのときから よく鳴く猫になった。


呼ぶとかならず にゃーと返事がかえってくる。

呼ばなくても、ひとりごとのように小さく にゃーとつぶやいてる。

わたしがダンナさんと会話してても にゃー

電話が鳴っても にゃー

風でガラスがなっても にゃー


とにかく ちまちゃんは いつも 鳴いてた。

相づちがなくても いつも ひとりごとをしゃべってた。



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そして しっかりなついた ちまちゃんは わたしのひざの上が定位置になった。


絵付けをしてると、ぴょんと ひざに飛びのってくる。

そのままゴロゴロいいながら幸せ顔で眠り猫。


私がずーっと座って作業してたら、ちまちゃんもずーっとわたしのひざの上にいた。

もうストーブを出す季節だったけど、今年はちまちゃんのおかげで 心も体も ぽかぽか。


広い工房の中を、わたしがあちこち動き回ると、ちまちゃんはわたしの足にまとわりつくようについてきた。


工房の中を いつも どこまでも わたしの後をついてまわった。





わたしは 朝早くから工房にいくようになって。夜もできるだけ工房にいるようになった。

だけど、夜寝るときだけは どうしても家に帰らなくてはいけない。


毎日仕事がおわり、真っ暗な工房を出るとき、ちまちゃんは扉のぎりぎりまでついてきた。

悲しそうな顔で さみしそうに小さく鳴いていた。


そこから先は ついていってはいけない場所。


ちゃんとわかっている ちまちゃんは、それでも悲しそうに鳴いていた。


明日 また会えるよ。

けど 昼間ずっといっしょにいたぶん、真っ暗で誰もいない夜は 寂しいよね。


ただでさえ寒い工房は、夜は とっても冷えて。

もうすぐ 朝は氷が張るくらい寒くなる。


それに 夜のうちに外に出てしまったら。

もしも クロちゃんみたいになってしまったら。


毎日 家に帰る瞬間がつらくて。

毎日 家の前の道路を通るときが怖くて。何かを見つけてしまったら、どうしよう。


家の中に入れてあげたいな。

めめともも もきっと仲良くなるだろうし。


けど 3匹を飼うことは さすがにできなかったんだ。

それが できてたら、春にやって来た リリとナナも うちの子になってた。


家に入れるときは、春のときのように その猫が次に行くところを見つけるときだけだったんだ。


さらにひどくなる寒さと、道路にでてしまう怖さ。

ひざの上で 安心して幸せそうに眠る ちまちゃん。


ちまちゃんにとって 幸せな居場所はどこ?


このまま ここに居たいなー。


そんな声がきこえる気がした。


けど もっとひどくなる寒さと、家の前を勢いよく走る 車の恐ろしさ。




そして わたしは 里親さがしの記事を 新聞社に依頼したんだ。


それが11月の半ばくらいのことだった。