みんカルビって大好きだよね!!うんうん!!

この場合の「みんな」って誰のことだ?

少なくとも、私はカルビが好きじゃないけど、食べてみてもいいかなと思う。

喰わず嫌いじゃだめだし、カルビを食べたくらいで死ぬ訳じゃないし。

何より、食べてみたら、ひょっとして好きになるかも。

好きな物が一つ増えるかもしれないから。

 

 

ビーチパラソルの下、手をかざして上を見上げると、太陽は全てをこれ以上無いくらいに熱して、全てを焼き尽くしてやるぞ!どうだ!ワッハッハ!と笑っている悪魔みたいだった。眩し過ぎるし、熱すぎるし、暑過ぎる。

 

海を見ると、ギラギラと銀色に水面は光り、そこに湛えられた命が燃えているようだった。海水浴客は皆、その熱に体中を興奮させた様子で、水遊びやら、日光浴やらに精を出している。どこからか、やかましい電子音楽が聞こえて、それに若い男女の嬌声が被さった。

 

詩織は水着の上に、デニムのショートパンツを履き、Tシャツを着て日焼けしないように、肌をできるだけ見られないように用心しながらパラソルの下で膝を抱えていた。

 

三輪くんと四方田さんがじゃれあいながらこちらに歩いて来るのが見えた。手には、イチゴとメロンと、ブルーハワイのかき氷。ブルーハワイが私の分だ。私の分も、ある。

 

「お待たせでござる~!!」

 

四方田さんが私のほっぺにかき氷のカップを押付けた。冷たさが火照った肌に心地いい。三輪くんと四方田さんは私の横に座って、かき氷を文字通り掻き込んだ。

 

「アタタタタ!!頭痛え~!!」

 

と三輪くんがこめかみを押さえると、四方田さんが笑い、私も笑った。私は、二人と一緒に居て、二人と笑っていた。

 

あの秋葉原での会議を経て、私達は漫画アニメ研究同好会を設立して活動している。放課後は図書室ではなく、部室で過ごす。活動と言っても、お互いが好きなアニメや漫画のこと、ストーリーや、キャラクターや、アニメの舞台になっている街のこととかを話すだけのことだ。だけど、着信の無いスマホの中に入っている漫画を一人で読んでいただけの図書室でのことが、大分遠い昔のことのように思われて、実感の無い過去になっている。

 

この数ヶ月でいろんなことが分かった。四方田さんは私と同じで、三歳下の妹が居る。私とは違い、妹とは仲が良く、休日は一緒にお菓子を作ったりするそうだ。生粋のオタクだと思っていたのに、そんな趣味があるとは。何度か作ったクッキーを持って来てくれたが、素朴な味がして店で買う物より美味しくて、本人にそれを伝えると、盛大に照れて、妹の手柄でござると繰り返す。お父さんは出張で忙しい仕事で殆ど家には居ないらしい。お母さんはオタクな娘のことを密かに心配しているらしい。表立っては何も言わないが。好きなアニメのジャンルはダークファンタジーとバトル物だ、時折、部室以外でも必殺技の名前を叫ぶのが困り物である。

 

三輪くんは、10才以上年の離れた弟と妹が居る。両親は共働きで忙しいから、晩御飯を作るのはなんと三輪くんの役割とのこと。得意料理はガオマンガイとパッタイと言っていた。食べたことがない。家族には評判が良くて、いつも褒められるのが嬉しいと頭を掻きながら小さな声で教えてくれた。いつかご馳走してもらうことを約束してある。

好きな漫画、アニメのジャンルは日常系と広い意味でのコメディ。笑いがある物がいいんだそうだ。

 

私が、BL好きで、利発な妹にそのことを親にバラすと脅され、年上の彼氏を家に連込む予定であるが、それを絶対に言うなと言われていることを二人は知っている。私がそのことを切実に困っていると訴えたら、二人とも中学生が彼氏を家に連込むなんて受止め切れない様子で、戸惑ったようだ。それは三木氏も心配だねえと、同情してくれた。

 

私の家族のこととか、私自身のことを知ってくれている「友達」ができたということが、嬉しくて、胸の奥がザワザワして、暖かくて、受止めきれない時期が続いて、最近やっとそのことに慣れてきたところである。

 

三人で並んで、かき氷を食べて水平線を見ている。四方田さんが

 

「もうひと泳ぎ参ろう!」

 

と立ち上がった。

 

四方田さんは、ちゃんとウエストがくびれていて、その割に大きい胸を白いビキニに包んでいる。ポニーテールに結んだうなじが細い。黒いハーフパンツ風の水着のウエストに出っ張ったお腹を乗せている三輪くんも立ち上がった。

 

「さあ、三木氏も、行こうでござらんか!」

 

四方田さんが手を伸ばしてくる。

 

「いや~、私はここで見てるからいいよおお~」

 

と手を振る私を、四方田さんと三輪くんは許さなかった。

 

「一度も入ってないじゃん」

「そうでござるよ、せっかくでありますぞ!」

「いや、でも日焼け、怖いし」

 

と、ヘラヘラと笑う私。曖昧にヘラヘラと笑うのは、私のよくある表情だ。

 

「あー、もう!三木氏、失礼するでござるよ!!」

「へ?」

 

四方田さんは、ターッ!と掛け声をかけたと思ったら、私のTシャツの襟ぐりをひっつかみ、無理やりに脱がせた。

 

「ひやあああああああー!!」

 

情けない悲鳴も空しく、私は水着姿になった。恥ずかしい。一応ビキニだが、四方田さんより胸は小さいし、ウエストにもくびれがない…。

小さくなる私の手を、さあ!と四方田さんが引いた。三輪くんは先に歩いて行く。

 

「楽しまねば、損でござる!!」

 

そう言って、四方田さんがウインクする。

 

寄せては返す波に足をひたす。足元の砂が向こうに行くのに足をとられそうでよろけたら、三輪くんが支えてくれた。

四方田さんが水しぶきを顔にかけてきた。私もやけになって、水しぶきを四方田さんに返す。三輪くんもそれに参戦して、正に、夏だ。命が燃える、夏だ。

 

お祖母ちゃんの家に行くだけではなくなった夏だ。

 

今度、いつか、みんなで焼肉に行ったら、カルビもミノもタンも、ナムルも全部頼んで、全部食べてみよう。