サイレント・アース 昆虫たちの「沈黙の春」 

デイヴ・グールソン (著), 藤原 多伽夫 (翻訳)

 

一月ほど前に読んだのだが、う〜ん…と微妙な内容だった。

 

農薬をはじめとする化学薬品の危険性と環境保護を訴えて1970年代に出版されたレイチェル カーソン著「沈黙の春」の現代版といった内容で、昆虫生態系の危機を中心に自然環境の保護と生物多様性の重要性を訴えた本だが、風評をもたらす記載やアップデートされていない知見が随所に見られる。

 

自然環境の保護や生物多様性の重要性には同意するんだがね。

 

例えば、

カーソンの時代の農薬よりはるかに毒性の強い農薬が使われている…?

いやぁ〜、最近の農薬が昔のものよりも毒性が高いなんて聞いたことがないし、70年代の反省を踏まえて太陽光や外気温、水分で簡単に分解するようにできていて残存しないようになっているのだけど…

(昆虫にとっては毒性が強いってことかもしれないが…)

 

東南アジアでは2000年代に入ってからも森林が減り続けている?

2010年〜2015年のデータを見ると増えているのだが…

 

農家は農薬企業の言われるままに必要以上に過剰の農薬を使用している?

農薬=コストで、農家も商売なのでわざわざ収入の減るようなアホなことはしないだろう

 

など…

 

ネオニコチノイド系殺虫剤がミツバチに悪影響があるのは確かだが(殺虫剤だからね)、ミツバチがレンゲ畑で花の蜜を集める時期と場所をずらして、カメムシの駆除のために夏に水田で農薬を撒くことと、直接ぶっかけるのでは違うだろう?

そもそも日本では蜂群崩壊症候群の例は報告されておらず、ミツバチが半減したのは養蜂家人口が半分以下になったという話でほぼ説明がついてしまうんだが…

他にも地球温暖化による気温上昇やミツバチの飛ぶ季節と花の開花時期のズレなど複合的な要因でもある。

 

自然環境の保護と生物多様性が大事という主張には共感するのだが、ではどうするかというと著者は有機農法や行動変容を訴える。

有機農法は化石燃料に依存した化学肥料や農薬を使わず、局所的に見ると環境負荷が低いメリットがあるのは確かだが、有機農法で収穫量が落ちてその分を木を切り倒して耕作地を開墾することで補ったら、結局環境に悪影響を与えることになる。

著者は牛や豚を食べるのを止めれば牧草地を農地に転用できると主張するが、生物多様性の重要性を訴える意識の高い人達ですら翌日にはSNSで牛肉を食っている写真をネットにアップするし、マイクロプラスチックによる環境破壊を訴える人達ですら、プラスチックカップに入ったドリンクや車で長距離ドライブの写真をアップする世の中なので行動変容は無理よ。

(哺乳類バイオマスの30%以上はヒト、60%以上は牛、豚、羊なので、生物多様性を訴える人が畜産物を食べるのは矛盾しているよね)

 

他人に〇〇をやめろ!(自分達は除く)と訴える人たちは嫌い。

 

著者は農薬を使わずとも有機農法でも人手をかければ農作物の食害を防げると訴えるが、私たちが今の価格で農産物を買えているのは化学肥料や農薬を用いた集約的農業のおかげ。

有機農法による農作物は人手を要して、どうしても高コストで価格に反映されてしまうので、金持ちの道楽という感も否めない。

有機農法を国家レベルで推し進めてスリランカがどうなったかを見れば、どの程度現実的でないのかは分かる。


バイオ燃料や遺伝子組換え批判については何を言っているのやら?という感じ。

いまだにバイオ燃料が熱帯雨林の森林やパーム油から作られているという感覚なのか、食料需給と拮抗するという感覚なのか?

例えば、とうもろこしやサトウキビの非可食部やバクテリアが原料であれば何も問題ない(コスト的にペイできるかどうかは別の問題として)

遺伝子組換えについても遺伝子組換え作物にはいろいろタイプがあって、できるだけ化石燃料や農薬を使わないように、空気中の窒素を固定したり土壌中の非可溶性リンを可溶化して吸収したりする遺伝子組換え作物や昆虫の嫌がる揮発性成分を放出する(殺しはしない)遺伝子組換え作物を作出して活用するという手もある。

 

自分達が嫌いだから反対!以上の根拠があるようには思えない。

このへんがエコヒステリックで宗教っぽい。

 

さらに、バイオダイナミック農法を推しているが、牛の糞などの有機物は多少栄養源にはなるものの、その効果のほどは疑わしい。

バイオダイナミック農法について調べてみると、「カリウムやカルシウムが窒素に変換される」など、超自然的世界観のオンパレードでホメオパシーまで出てきて疑似科学そのものである。

 

そんなことを堂々と主張されてもなぁ〜。


自然環境が大事、生物多様性が大事、昆虫大好きというのはわかるのだけど。

 

必要なのは,「農薬の禁止」「遺伝子組換え反対」ではなく、あらゆる手段を使って「環境への高負荷を回避」することだよ。