もうひと月ほど前の話ですが、未承認の遺伝子改変メダカを飼育、販売したなどの容疑で、5人がカルタヘナ法違反容疑で逮捕されたというニュースが報じられました。

 

https://www.newsweekjapan.jp/akane/2023/03/post-53.php

 

カルタヘナ法は、2000年に採択された生物多様性条約「カルタヘナ議定書」を日本で実施するために立法された法律であり、遺伝子組換え生物を使用(輸入、飼育、栽培、販売、廃棄)する場合には国の承認が必要とされています。

 

分子生物学を専門とし、日常的に遺伝子組換え生物を扱っている身としては、やはりこの話題に触れざるをえまい。

 

法律違反はダメです!

 

特に、捜査段階で警察にバレないように用水路に廃棄したという話もあり、大学や研究所で大多数の研究者がどれだけ真面目にやっていても、こういう不届者がやらかしてしまうのは甚だ迷惑な話である。

 

 

元は東工大の研究室で飼育されていた遺伝子改変メダカで、当時の大学院生によって勝手に持ち出されたものらしい。

逮捕された男らは1匹10万円で販売していて、自宅の水槽から1400匹押収されたとか。

 

押収された分だけで1.4億円。

なかなかオイシイ商売である。

生活に困ったらオイラもやるか(嘘)

 

 

実際のところ、DSRed(赤色蛍光)やGFP(緑色蛍光)を発現するメダカが川を泳いでいたからといって、導入遺伝子の影響で在来種のメダカを駆逐したり、生態系を乱したりなんてことは生じないであろう。

DsRedやGFPが毒素を作るわけでもないしな。

意味なく光る遺伝子を発現させている分だけ、エネルギーを無駄にしていて弱そうだ。

そもそも長年何世代にも渡って実験室やペットショップで飼育され続けている時点で矮性変異が蓄積していそう…

 

付け加えるならば、カルタヘナ議定書に批准していない米国や台湾では遺伝子組換えで光る観賞魚は普通に売られている。

一時期日本にも輸入されて問題になったこともあったが、環境への影響などは報告されていない。

 

海外ではOKで、日本ではダメってのもなぁ…

(いや、法令はきちんと守りましょう)

 

生態系への影響で言えば、遺伝子組換え生物でなくても、外来種が生息することによって生態系に悪影響を与えることもある。

ブラックバスやブルーギルが問題になっているのは有名な例で、観賞用生物でもグッピーやミドリガメなどを廃棄する方が生態系に悪そう。

そういう意味では、本来の生息水域でないメダカが人為的に放出されて地域固有の在来種と交配する可能性があることの方が問題かもよ。

 

 

世の中には「遺伝子組換えは危険!」「遺伝子組換え、反対!」と声を上げる人たちも多いが、遺伝子組換えでなくても人体や環境に悪影響を与えるものはたくさんある。

一方、現在までに承認された遺伝子組換え作物や医薬品は、適切な試験や審査を通して安全性が確認されているもので、人体や環境に問題があったとの報告はない。

カルタヘナ法については、遺伝子組換えに関する法律や規制によって、医薬品やバイオ産業分野では開発や商品化に時間とコストがかかり遅延を招いているとの批判もある。

そういう中でも人々の安全や健康、環境を保護するために、こちらは法律を遵守して労力を割き真面目にやっているわけで…

 

今回の事件で、真面目に取り組んでいる人たちの努力が無駄になったり、業界全体の信頼が揺らいだり、規制が強化されたりしないことを祈ります。

 

てか、きちんと許可を取って商売しろよ。

(審査をパスして承認を得れば商売できるようにしろよ)

 

個人的には、ちょうどこのニュースが研究室の閉鎖や異動のタイミングと重なったので、遺伝子組換え生物の分譲や移管、廃棄の書類作成に普段以上に上司や事務からのチェックが入って面倒くさかったぞ!

 

P. S.

ノーベル賞の下村先生がオワンクラゲのGFPを見つけて以降、今では色々な蛍光タンパク質遺伝子が報告されている。

その気になれば、いろいろな色のメダカが作れそう…(未承認でやるのはダメです)

Marc Zimmer (2009) GFP: from jellyfish to the Nobel prize and beyond.

Chem. Soc. Rev., 2009,38, 2823-2832 より

https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2009/CS/b904023d