古今亭志ん朝の死因 | 小林茂子オフィシャルブログ「生きてみよ、ツマラナイと思うけど」Powered by Ameba

古今亭志ん朝の死因

7月だった。

私の携帯に見知らぬ番号から電話が入った。

出ると「あ、お姉ちゃんかい?あたしゃ(以降私で統一)志ん朝だよ。ちょっとお姉ちゃんに聞いて貰いたい愚痴があって」と言う。

当時私は柳家の一門で古今亭とは無縁だった。

「ようがす」とは言わなかったが指定された神楽坂のスナックへ出掛けて行った。

客が誰も居ないスナックのボックスに志ん朝師匠はいた。

古今亭とは酒好きだと思っていたが志ん朝師匠は水割りを舐めるように飲んでいた。


雰囲気としては、飲まなきゃやっていられないという風情だった。

「身体の調子が悪くて高座が楽しくないんだよ」から始まり「家のローンが90歳まであるんだよ」

全て答辛い問題だった。

とりあえず90歳までローンのある家を見に行く。


檜の表札に「古今亭」とだけ書かれた御殿だった。


まさしく、古今亭の総帥となるべく人の住む御殿だった。

家の中をあちこち案内して貰い、いつのまにか麻雀の相手をおかみさんにさせられて志ん朝師匠のたいした役に立たないで終わった。

まさかその晩が最期となるとは思いもしなかった。


9月に志ん朝師匠末期癌と聞いた時には、90歳まであるローンはどうなるのだろうか?と思った。

教えてくれた人は極秘と言い、末期癌発見の経緯を「師匠B型肝炎だったろう。それで体調悪いと思っていたら弟子のカミさんが看護師でB型肝炎でそんな訳ないって他の病院で調べたら末期癌だったんだよ」


「告知したんですか?」

「したよ。そうしたら弟子には内緒でと…」

「んで、なんで私には話すんですか?」

「志ん朝さんから、お姉ちゃんには伝えてくれって」

私は淋しそうな志ん朝師匠の後ろ姿を見たような気がした。

そこから、僅か2週間で訃報。

B型肝炎で死んでいた方が良かったんじゃないか…

きっと、ローンのこと気にしていたろうな…

若い時に患ったB型肝炎

かかりつけの医者

そんなもんで気付けなかった肝臓癌

まるで王様の耳はロバの耳みたいにみんな私に愚痴こぼして死んで逝く。

噺家の洞穴

世間は知らないんだろうな私の気持ち

なんかたくさんの噺家のあれこれ…知りたくて知っているんじゃないあれこれ。

弟子に愚痴ろう。