ドラマチックな人生 | 小林茂子オフィシャルブログ「生きてみよ、ツマラナイと思うけど」Powered by Ameba

ドラマチックな人生

その年は、人事の認めた年だったので通常なら7月半ばで終わる新入行員指導は、10月までいっぱいだった。

当然自宅待機無しで業務を遂行する形だった。

そんな中突然Kに呼び出された。

本部のもう人気の無くなった喫煙室で、Kは私を前に押し黙っている。

「悪いけど、私新入行員指導の最中で忙しいんだから、さっさと用事済ませて帰らせてくれない。」

「…」

「なんなの?なんか問題でも発生したの?」

ようやくKが口を開いた。

「オペレーションリスクが出ました。」

今度私が押し黙る。

しばらくの沈黙。

「申し訳ありませんでした。」

そんなKに私は尋ねた。

「何処の支店?指導員は誰?どんなオペレーションリスク?」

「支店は〇〇です。指導員はAさんです。リスク内容は個人情報漏洩…明日金融庁に出向きます。」

「Aさんってどういう事?私Aさんに新入行員指導していないわよ。」

「小林さんに出来るのでAさんにも出来ると思いました。」

Aさんは私より2年先輩で、間もなく嘱託になる女性だった。

派遣法では、3年同じ仕事をしたら正規に雇わなくてはいけない。

なので銀行は毎年毎年所属部署の名前を変える。

そうすれば、何年経とうと、派遣を銀行員にしなくて済む。

しかしあまり露骨なのも良くないと嘱託を設けた。

初めての嘱託職員がAさんの予定だった。

最初は、私に来たが給料は半分以下になるし、上下関係も難しいので断った。

そこで白羽の矢がAさんって事でかなり進んでいる話だった。

そしてAさん指導のもとオペレーションリスク。

「責任は?申し込み書の受付印は?」

Kは押し黙っている。

「その新入行員は?」
時計は23時を回っている。

「今頃支店長室かと…」

「撤収したの?」

「はい、撤収しました。」

「私は決して、新入行員指導でオペレーションリスクは出さないと食事休憩も摂らずにやって来た。それなのに本部は新入行員に責任を押し付けて撤収?」

「Aさんを嘱託に推薦したTさんと僕の立場がありますから…」

「もう勝手な新入行員指導しないで…後は私一人で指導します。」

「わかりました。申し訳ありませんでした。」

どれだけ勉強してみずほ銀行に入ったのだろう。

その新入行員の親は、一流企業に就職したと安心したのではないか。

わずか3ヶ月で銀行員生活にオペレーションリスクという烙印を押されるとは思いもしないで

私は終電間際の電車の中で、まだ顔を見た事のない新入行員の父母の姿を思い浮かべた。

いつか私も切られるだろう。

まさかその年の最後切られるとは思いもしないで…

続く