:血の系譜 (美しき遺体) | 小林茂子オフィシャルブログ「生きてみよ、ツマラナイと思うけど」Powered by Ameba

:血の系譜 (美しき遺体)

病院の処置室で私からは医者の後ろ姿しか見えない。

心電図の音が部屋に響く。


その音はピッピッピッと軽やかだった。


テレビでは死ぬとピーッとなる。

私は思わず頭をかいた。


『またやっちゃった!』


早とちりだった。


『亡くなったようだが亡くなってなかった』


と謝るしかないな…とその瞬間、医者はペンライトのような物を持ち、弟の瞳孔を調べ、時計を見た。

くるりと振り返り私を見ると


『2時5分死亡確認いたしました。』


と頭を下げた。


私もゆっくり頭を下げる。


そこへ友人が来た。


私は彼をせき立て、外へ出ると


『タバコちょうだい』


と彼からタバコを貰い、思いきりタバコの煙を吸い込んだ。

2口タバコを深々と吸い


『死んだのよ』


と伝えた。


私に病院へ来い!と言われただけの彼はキョトンとしていた。

『盛夫、死んだのよ』


タバコを吸いながら伝えた。


『綺麗な顔よ!素敵よ。見てご覧よ…盛夫の顔。』


そして彼に


『此処にいて、着替えて化粧して来るから、お金貸して』


と矢継ぎ早に話しかけた。


私は携帯電話を握りしめたまま救急車に飛び乗ったから何も持っていなかった。

私は強引に彼から千円もぎ取るとタクシーに乗り事務所で濃いグレーのワンピースに着替え、化粧道具を持ち待たせてあったタクシーで家に戻った。

既に数人のマスコミがいる。


タクシーを私道の中まで入れ、まっすぐ化粧部屋へ入った。


化粧をする私の鏡越しに母の姿が写った。

その母に向かい鏡越しに


『モリ君死んだから』


と伝えると母は


『そう…』


と自室に篭った。

汚い話で恐縮だが弟は糞尿も垂れ流さず、舌も出さずニッコリ微笑むように遺体となった。

洒落者の三木助に相応しい美しい遺体だった。