血の系譜 (投降を呼びかける姉)
私は酒瓶を持ったまま、部屋へ飛び込み三木助の携帯に連絡を入れた。
相変わらず携帯は留守番電話となる。
致し方なく『ピーッという発信音が鳴りましたら~』に向かい
『お姉ちゃんです。今日事務所に入ったのは、モリ君ですね!解っていますよ…お年玉用意して待っています。おとなしく出ていらっしゃい!』
と何度となく呼びかける。
まるで銀行強盗して人質を捕って立て篭もる犯人に呼びかけている気分だった。
元旦早々何をしているのだろう。
世間は21世紀を迎え、大騒ぎしている最中に私は弟に投降を呼びかける留守電を入れている。
世間は大騒ぎしている陰で私は頭に?マークがいっぱい??(゜Q。)??だった。
優しく話し掛けても脅しても連絡は無い。
車ごと行方不明だった。
しかし43歳の弟がいないからと寄席に連絡したりする訳にはいかない。
ただひたすら弟に投降を呼びかけるしか術は無い。
しかし私は信じていた。
三木助が中村橋之助さんと新橋演舞場の舞台初日、化粧師さんがいなかった。
やむを得ず私は三木助に化粧を施した。
すると何処かで会った気がした。
誰かに似ている。
首を傾げながら 『出来た!』 と二人で鏡を覗き、二人で驚いた。
全く同じ顔が二つ並んだ。
二人で『うわ~』と驚愕の声をあげ、大笑いした。
そんな二人で歩んだ道のりに、今影がさしているが一瞬の気の迷いで三木助は必ず私に連絡をくれると。
きっと事務所にふらりと来たのも私一人に会いたかったからだと。
しかし1月2日小さんの叔父の誕生日に母といつも一緒に行く筈の弟から届いたのは一枚のFAXだった。
『おふくろゴメン 体調悪くて今日はいけない』
ヒラリと舞ったFAX用紙にはそう書かれていた。