:血の系譜 (二人三脚)
手術にあたり三木助は今思うと止めて欲しかったのかもしれない。
落語界に於いても芸能界に於いても持病を持つ事は本人も廻りもリスクが大きい。
いつまた穴が空くか解らない胃袋を抱えては、おちおち仕事もしてはいられない。
まさか手術後に大きなリスクが待ち構えているとも知らず胃の切除に踏み切った。
手術後療養期間も三木助は不機嫌だった。
かなり長い傷痕はいくら男とはいえ、ショックだったようだ。
手術後という事もあり三木助には小杉さんと私が付く事になった。
小杉さんより私の方が使い勝手が良い。
やれ肩を揉め、金貸せ!とまぁ言いたい放題だった。
そのうち、だったら独立しよう!となって、スカイコーポレーションから独立して二人でタッグを組むようになった。
スカイの本間社長も嫌な顔一つせず送り出してくれた。
そこからまた、新たな珍道中は始まった。
私もスカイで本格的マネージャー業務を習得して大河ドラマやサスペンスに
『大岡越前』のレギュラー、
そして落語部門でも小朝師匠の事務所からも独立して
『小朝が参りました』のレギュラーも得た。
しかし二人で動いていると誤解を招く事も多かった。
青森で一番のホテルに宿泊して翌日仕事。
いわゆる前乗りという訳だ。
主催者が取ってくれた その高級ホテルに泊まり、スカイラウンジで食事をした。
そのスカイラウンジは私達以外客はいなかった。
主催者の支払いだからフランス料理の高いのを頼みワインも空けた。
既に時効だから良いがその前日は裏の仕事…つまり税金も取られず申告もせず尚且つ、
いつもニコニコ現金払いだった。
フランス料理を食べながら現金の話をする姉弟。
満面の笑みだ!
ふと気付くと料理が遅い。
ピアノの弾き語りは『ある愛の歌』とか『慕情』などムード満点。
私達は現金の話が終われば、さっさとお互い部屋に帰りたい。
そこで私は『ははぁ~』と思いレストランの黒服を呼び
『私達姉弟ですから』
と言った途端ピアノの弾き語りは終わり、料理はさっさと出て来た。
行く先々でのホテルでも食事中胃のない三木助に代わり私は三木助の残した物まで
『もったいない』
と食べていると、傍のおばさん達が
『マスコミには内緒にしといてあげる』
と恩着せがましく言う。
私はてっきり三木助の姉は意地汚くよく喰う奴だ!を内緒にしてくれるのか…
と思ったらカップルに間違えていたらしい。
よく見れば認めたくないが姉弟と解りそうなものだ。
そういえば普段から飛行機、新幹線でも私達は離れて座る。
家も仕事も一緒の夫婦漫才みたいだから、なるべく乗り物は離れる。
しかし飛行機に乗ると三木助はやたら
『姉貴』『姉貴』
を連発してくだらない用事を言い付ける。
新幹線にはそれがない。
不思議に思いよく考えたら、スチュワーデスだ。
今はキャビンアテンダント、客室乗務員だが当時はスチュワーデスだった。
彼女達の手前
『これは僕の姉です』
と言いたかったのだろう。
その度にくだらない用事を言い付けるぐらいなら額に三木助姉と書いた方がまだマシだった。
こうして私達は二人三脚で仕事をこなしていた。
そこへ突然『光る物体事件』が起こるのだ。