今回は、たまたま、書店で手に取り購入して、読み終えて「とても良い本に出会えたな」という好印象をもった本を紹介します。

その本はご存知の方も多いかと思いますが、高田郁(たかだかおる)の「出世花」です。この本は、後で調べたらコミック漫画としても発売されているくらいで結構人気の作品のようです。

 

正縁(しょうえん)という亡骸を清め、浄土に旅立てるよう手を貸す者である三昧聖(さんまいひじり)、今でいう納棺師を主人公として、4つのエピソードが短編のように綴られています。

 

妻敵打ちを願う武士である父に同行して、放浪中、行き倒れた主人公、艶(えん、後の縁、正縁)は近くの青泉寺(せいせんじ)の僧侶に助けられ、父が間もなくその寺で亡くなったためそこで育てられる。そして、死者の弔いを専門とする墓寺である青泉寺で湯灌(ゆかん)の手伝いをするようになります。

本作品は、その主人公が、湯灌の仕事をとても大切な仕事として取組み、まっすぐな気持ちで歩む成長の過程で遭遇した出来事が書かれています。

なお、続編としての完結作「蓮花の契り 出世花」も昨年、すでに出版されており、読むことを楽しみにしています。

 

最初、読み進むと主人公が湯灌(ゆかん)の仕事をすることになり、私にはやはり馴染みのない、また、何か特殊な仕事という感覚があったのですが、読み終えるとこの仕事は大切であり、また尊い仕事なのだなあと気づかせてもらえたことも良かったなと思っています。

78年前、日本アカデミー賞最優秀作賞など国内外で高く評価された映画「おくりびと」も納棺師の仕事がテーマとなっていますよね。

 

内容としても、表現が繊細で実際に観た印象をそのまま文章にされている感じで、情景が鮮明に浮かんでくるところと、主人公の優しいこころ持ちが随所であふれており、本当に感じ入ってしまいました。

また、仕事そのものは嫌がられたり、避けられたり、蔑まされることが多いわけですが、主人公は逝った本人の気持ち、残された家族の気持ちを十分に忖度し、誠心誠意の気持ちをこめて、やるべき処置を一つ一つ丁寧に施していく、そのことに誇りさえ持って、行動している姿は本当に感動的であります。

本作品の4つのエピソード「出世花」、「落合螢」、「偽り時雨」、「見返り坂暮色」どれも心に残るエピソードです。

 

最後に、作品中に出てくる場所(江戸時代の新宿、落合、四谷、市谷、神田等)が、私が住んだことがある場所や勤務場所、通勤経路地等馴染みのあるところが多く、現在の情景から当時を想像しながら読み進むのもとても楽しく、城巡りと通じるものがありました。

せっかくですので、青泉寺へ行く時に登る七曲坂(ななまがりざか)の坂の下に立って坂を見た写真。

 

次は坂の上りきったところから坂の下方を見た写真。

 

 

小説では七曲坂を登り切って、青泉寺に通じる道。

 

 

他にいろんな実際の地名が出てきますので、東京散策のつもりで回ると楽しいと思います。

 

以上、心が洗われるとても良い作品だと思いますので、読書好きな方は是非、読んでほしいと思います。